要旨
1995年8月27日〜翌年3月13日までの約200日間,
我々は,28cmと35cmの望遠鏡に取り付けたフォトンカウンターで,
Nova Cas’95のUBV測光を行った。この新星はスローノ
バで,発見後も約100日間増光を続け,極大で7.06等(V)に
達した。また,極大時には,赤いパルスも観測された。 その後,急
激に減光していったが,再び増光を始め,2月21日に第2のピーク
をとらえることができた。
この新星は,二色図上で,星間赤化を補正すると,極大前の変化が
超巨星の列と重なるという興味深い事実も得られた。
1.はじめに
1995年8月24日に発見されたカシオペヤ座新星の連絡を,同
27日に美星天文台より受けた。
同日より観測を始め,翌年3月13日までの約200日間,28cmと
35cmの望遠鏡に取り付けたフォトンカウンターで,この新星のUBV
三色測光を行った。ここでは,その観測の概要を紹介し,観測結果から
得られた光度曲線と色の変化,二色図について報告する。
2.観測者と測光システム
赤澤秀彦:〒710−02
岡山県浅口郡船穂町船穂107
akazawa_hide@mx1.tamatele.ne.jp
望遠鏡:セレストロンC−11
(28cm,F=10シュミットカセグレン)
測光器:AES製フォトンカウンティングシステム(PCPA)
フィルター:ジョンソンシステムUBV
大倉信雄:〒701−02 岡山市妹尾25
HAE00500@nifty.ne.jp
望遠鏡:セレストロンC−14
(35.5cm,F=11シュミットカセグレン)
測光器:AES製フォトンカウンティングシステム(PCPA)
フィルター:ジョンソンシステムUBV
3.観測方法
(1)比較星とチェック星
美星天文台より指定された比較星=SAO21974,
チェック星=SAO22031を使って
光電測光を行った。また,標準星S86G(μ Cas)を使って,
比較星・チェック星の等級決定を行った。
これにより,
比較星はV=6.79等,B=7.28等,U=7.30等,
チェック星はV=7.07等,B=7.13等,U=7.09等
と決定した。
また、チェック星の観測との比較から,比較星は変光していない
ことが確認された。
(2)変換係数の決定
観測結果を標準システムに変換するために,透明度の最良の夜(1995,9,19),
赤澤・大倉それぞれが標準星の観測をおこなった。これにより,変換係数を
次のように決定した。
赤澤 ε=-0.023 大倉 ε=-0.041
μ= 1.042 μ= 1.091
φ= 1.034 φ= 1.084
(3)観測と整約
測光は20秒積分で行い,フォトカウンティングによる数え落とし補正,
大気の減光補正を行い,標準システムに変換した。
4.美星天文台との連携
公共天文台とアマチュア観測所の連携について,
美星天文台は,情報提供,観測法・整約法についての指導,観測データの
収集・解析,発表などの役を担った。アマチュア観測所としては,観測,
情報交換,観測データの提供,個人データの解析等をおこなった。
結果として,プロ(公共天文台)とアマ(アマ観測者)の協同から,
公共天文台の天文普及活動及び研究活動が推進され,アマチュアのレベル
向上につながり,さらには,天文学への貢献も可能となった。
5.光度曲線
6.色指数の変化
7.二色図
8.まとめ
我々の観測からこの新星の光度および色の変化について
次のようなことが分かった。
・発見後も約100日間すこしずつ増光が続いた。光度変化の
パターンは1967年のいるか座新星とよく似ている。
(スローノバである。)
三色測光で新星の極大前のデータがこれほど得られたのは,
いるか座新星(1967)以来である。
・発見から116日を過ぎて極大を迎えた。(12月17〜19日)
極大では,V=7.06等, B=7.54等, U=7.57等 であった。
・色によって極大のずれがあった。
12月17日にB,Uが極大となり,2日遅れてVが極大となった。
・この新星は,発見直後は短波長の光を強く出していた。
極大前(11月1日頃)から短波長の光が減ってきた。
極大時には,「赤いパルス」が観測された。
色指数の変化でも,B−Vが遅れて増えている。
・極大後,再増光して,2月21日に再びピークとなった。
V=8.28等, B=8.71等, U=8.18等になった。
極大の時とは色指数が異なり,極大時とは変光のメカニズムが
異なると考えられる。
・この新星は,二色図上で星間赤化の補正を行うと,極大前のデータは,
超巨星の列に重なるという結果が得られた。
9.おわりに
この観測結果については,1月10日までものをIAUのIBVSに
投稿した(No.4296)。
また,同内容を日本天文学会1996年春季年会にて発表した。
この新星は1996年8月下旬にもかなりの増光が見られたが,
その後,11等近くなって,測光の精度が悪くなったため,10月
末で観測を終了した。今後も,我々のような個人のアマチュア観測所と
公共天文台等の観測のネットワークが広がっていくことを期待したい。