インフルエンザについて
2004.12

このページはいち内科開業医が診察室で患者さんに、インフルエンザについての最小限の説明をするためのもので、諸処学説を網羅しているわけではありません。また予防法については未だに定説と言うべきものがありません。したがってプライマリーケアを手掛ける医師としての独断的立場での見解です。


日本のインフルエンザで思い浮かぶのが「スペイン風邪」「アジア風邪」の大流行ですが、これに鳥インフルエンザが関係していることをご存じの方は少ないと思います。今回、日本でも山口で鳥インフルエンザが検出されたことは、数年後に流行するであろう致死性のインフルエンザの引き金にならないことをただ祈るばかりです。
唯一の楽観的な見方ができることは、今回の鳥インフルエンザが強毒ウイルスで、ミュータントを引き起こした「スペイン風邪」「アジア風邪」のような弱毒鳥インフルエンザウイルスとは違うんだということくらいです。
もしミュータントが起こり新型インフルエンザが出現すれば国民の4人に一人が煩い死者は少なくとも10万人以上になると推定されています。厚生労働省はいくらか考えているようですが、農林省の認識不足には全く驚かされます。

【インフルエンザの認識不足の医師】
医者のなかにはインフルエンザに罹っても大したことはないとかかまわないとか言う方が おられる。インフルエンザの真の怖さを経験されないで来られた方の言葉と思われる。ある推計ではインフルエンザによる脳炎,脳症あるいはライ症候群で亡くなったり 後遺症を残す事例は小児だけでも毎年200例を下らないのである。これは日本脳炎の比ではない。SARSの比でもない。 巷では、インフルエンザワクチンは効かない、あるいはワクチンの副作用がこわいといった風評がまかり通っているが、流言飛語に左右される、きわめて残念なことである。
数多くあるワクチンのなかでもインフルエンザワクチンは最も安全性の高いワクチンの部類に入る。何十万,何百万という母数を考えれば、他のワクチンと比較して、其の安全性は容易に理解できるはずである。ただし卵アレルギーの人は受けない方がいいでしょう。インフルエンザワクチンは、単純計算で2500〜3000億円の医療費の損失をペイ出来るとのことです。


A型インフルエンザについて:

平成16年11月現在、流行中のインフルエンザはA型です。潜伏期は2〜3日、症状は 寒気、倦怠感 頭痛 全身の筋肉、関節痛で始まります。 熱は39度から40度になることもあります。 全身症状は普通感冒に比べ重く、食欲減退、吐き気、下痢などがでてくることもあります。高熱は4〜5日続くこともありますので、早く休むなど体力の温存に務めることが大切です。

ところがインフルエンザ自体は、世間で騒がれているほど怖くはありません。特に幼児から小中高生くらいは免疫力がいちばん強い年齢で、確かに高熱が出たり咳がひどかったりしますが、たいていは治療しなくても3日か4〜5日の発熱で治ってしまいます。ただ、血液病、心臓病などの持病(基礎疾病)を持つお子さんですと肺炎や髄膜炎を起こしやすいので、用心をしたほうがいいと思われます。また、生まれて間もない赤ちゃんとご高齢者の方は、重くなることがあるから特に気をつけなければなりません。

インフルエンザワクチンについて:

インフルエンザ予防接種は、疫学という分野ではその有効性がはっきりしているわけではありませんが、ワクチン接種が高齢者のインフルエンザによる死亡危険率を下げたとの報告は確かなようです。昨シーズンは800万人分のワクチンが使われ、市町村の高齢者推奨もあり、今シ−ズンは1.2倍に当たる1000万人分が用意されていました。一時期のような不足は無くなるはずだったのですが、何故だか入手できません。

私の医院でも65歳以上の方を中心に300人分を予約したかったのですが、前年度の実績分の200人分しか確保できませんでした。果たして、2004.11の中旬には底をついてしまいました。希望者に打ちたくてもワクチンが無いという実体は、厚生労働省の失態です。担当者の首を100人切っても怒りはおさまりません。高給で雇われているんだから少しは公務員にも責任を取らせろといいたい。

話を戻して・・・インフルエンザワクチンが流行を防ぐ効果のはっきりした証拠はありませんし、むしろ予防接種をしているからと過度の無理をすることのほうが問題です。高齢者、受験生、医療機関の従業員、団体生活をしているなど場合ワクチンは受けられた方がいいと思います。

私の個人的見解として、保育園入園以前の乳幼児期には2回接種が必須でもあり、接種後に高熱を出す頻度も高いのでワクチンは推奨していません。

インフルエンザにかからないために:


どの病気でも言えるのですが、無理を重ねないのが一番の対処法です。言うは易し、行うは難しではありますが、特に疲れたときには早めに休み、栄養を十分にとっておく。もしインフルエンザにかかったと思ったら、できるだけ早く、医療機関を受診しインフルエンザの特効薬を飲み、すぐに休む。たとえ食欲が落ちても、水分とビタミンとタンパク質に富んだ食品をとるようにしましょう。発症48時間以上経過すると、特効薬の効き目は殆どなくなります。

小児のお薬は?


小児の場合、特に要注意なのは解熱剤です。オリックスだったかドンキホーテだったか薬剤師が常駐しない薬品販売店(薬局のことではない)で販売することが規制緩和とおっしゃいますが・・・・・責任のとれない官僚のこと・・・・・何か事故が起こったら誰のせいになるのでしょうね?薬剤師の資格があればいいというものでもないわけで。インフルエンザのように安易に解熱させない方がいい感染症もある訳ですから怖いのです。

小児科領域は診断が難しいから小児科医のなり手がない現状に無知識薬剤師の規制緩和で本当にいいのでしょうか?例えばインフルエンザに解熱剤のアスピリン(大人用バファリン)を使うと、「ライ症候群」という致命的な副作用を起こす可能性が高いのです。アスピリン以外の解熱剤も、およそ薬理構造が似ているので使わないほうが無難だという意見もあります。

現在のところアセトアミノフェン(カロナール細粒やアンヒバ坐薬)などは安全だと言われていますがその使用は最小限にすべきです。さらには、水分を十分に与え、熱ければ涼しくし、寒ければ暖かくしてやることも必要です。薬局用の小児バファリンは前述のアセトアミノフェンに替わっていますが、医療用の小児バファリンの中には未だにアスピリンのものが混じっている可能性もあり、薬の名前が同じだからといって、ホント安心できません。

抗生物質は?


医療機関でよく出される抗生物質は、インフルエンザ自体には全く効果はありませんが、二次的に細菌の感染を伴った、ひどい気管支炎や扁桃炎とか肺炎を起こした場合には積極的に使う必要があります。 

新しい治療法:


数年前から、インフルエンザの治療法が変わりました。これはアマンタジン、ザナミビル、オセルタミビルの登場によるもので、インフルエンザも抗ウイルス剤を用いた化学療法の時代になったのです。従来の「インフルエンザだと思ったら静かに家で寝ていなさい」という指導だったものから「インフルエンザだと思ったら、できるだけ早く病院を受診し抗ウイルス薬を貰いなさい」というように、治療の方向が変わりました。実際、内科・小児科を標榜する医師の中にも「昔の知識で生きています」が多いので要注意です。以下の質問くらいには応えられる医師にかかることがコツでしょうか。


アマンタジン(シンメトレル)という新薬はA型インフルエンザにのみ有効です。もしインフルエンザにかかったかなと思ったら、出来るだけ早く(発症12時間以内に、遅くとも48時間以内に)服用すると効果的です。1日2回内服で3〜5日間服用します。ただしB型には効果がないこと、吐き気やめまいなどの副作用で子供に使えないこと、運転や高所作業に注意すること、さらには耐性を獲得しやすいことなどの欠点があります。

ザナミビル(リレンザ)ですが、平成13年2月に発売されましたが15年1月現在入手できません。A型とB型の両方に効き副作用も少ないので、高齢者などのハイリスク患者ばかりでなく、健康な成人や小児や受験生にも使用できます。 吸入で使用し、1回2吸入(10mg)、1日2回(20mg)で5日間口から気道に吸入する。 できるだけ発病後早く(12〜48時間以内)吸入を開始する必要がある。ただし価格が高いのが唯一の欠点です。来年には薬品名は未定ですが、リレンザの内服型のお薬も認可される予定です。

オセルタミビル(タミフル)が最後に出て最も切れが良かった内服薬です。A型とB型の両方に効き副作用も少ないので、高齢者などのハイリスク患者ばかりでなく、健康な成人や小児や受験生にも使用できます。昨年は入手困難でしたが今年は何とか品切れしていないようです。昨年から厚生労働省によって1歳未満の乳幼児に対して投与が禁止されました。

耐性化したのでしょうかタミフルの切れ味が少し悪くなったような気もします。でもこれが無いと治療になりませんので、製薬メーカーに今後の安定供給をお願いしたい。

インフルエンザの予防とうがい :

「うがい・手洗い・マスクの時代から、アマンタジンやザナビミビル、オセルタミビルの時代に変わりつつあります」と言うべきなのですが、そうはいっても、やはりうがい・手洗い・マスクなど日頃の生活上の注意がとても大切です。過度の疲労、不摂生など体力、免疫力を損なう生活をしないことが大事です。

手洗いですが医学部の学生に蛍光染料をつけて手洗いさせますと、かなり丁寧に洗っても両親指など洗えていません。まして外出から帰っての手洗いなどウイルスは殆ど残っています。時間をかけて丁寧にというのが必要です。

うがいで気になっていることがあります。食塩を入れてうがいをすれば殺菌力があると信じている人が多いです。喉がヒリヒリするほどの食塩を入れて喉を塩漬けにすれば、咽頭・扁桃などの免疫防御機構を壊してしまいます。むしろ白湯、ぬるま湯で十分です。お茶には殺菌成分があるのですが、これも出がらしで十分と考えます。


感染ルートは?

ウイルスの感染ルートには、大きく分けて飛沫感染接触感染があります。飛沫感染は、風邪患者の鼻や喉から飛び散った気道粘膜の粒子を吸い込んで感染する場合のことで、接触感染というのは、ウイルスがついたテーブルや器具などに手をふれて、その手で鼻や口をさわったりして感染する場合です。部屋の中に風邪をひいた人を一人入れ、周りにひいていない人をおいて、飛沫感染で風邪が移るかどうかということを調べた実験では、くしゃみをすると皆そっぽを向きますから、直接移ることは予想以上に少ないのです。それよりも周囲に飛び散ったウイルスを触った手から、うつるケースの方がはるかに多いという結果が出ています。できれば患者さんから2m以上離れた生活をすることが好ましいのですが、この接触感染ルートでも、ウイルスは抗体がある人や、からだが元気一杯という人は、もちろん感染しにくいのです。

マスクの効用は?

マスクの効果ですが、くしゃみや、咳の飛沫は二メートルくらい飛んでいくといわれる。飛び出したウイルスが空気中に浮いている間に、それを直接吸い込むことによって感染することになります。残念ながらマスクをしてもウイルスをとめ、感染を予防することはできませんが、外気の冷えからのどを守り、湿度を保ち、ウイルスの侵入を防ぐ効果があります。あのSARSでもN95マスクでなくて、普通のマスクでも有効であり、多いに利用しましょう。


以上をまとめると、

インフルエンザの予防は
   1)普段から休養をとる。
   2)十分な栄養と水分をとる。
   3)できるだけ人混みを避ける。
   4)室内の乾燥に気をつける。
   5)外出時マスクを着用する。
   6)手洗いとうがいの励行。


もしインフルエンザにかかったなと思ったら
12時間以内にアマンタジンやザナビミビル、オセルタミビルなどを投薬してくれる医療機関を受診すること。当院では4年前よりアマンタジンを使用しておりますが、約70%強の有効率と考え非常に有効であると思っています。オセルタミビルはさらに有効率が高いとの報告があります。


塩酸アマンタジン(シンメトレル)について:

もともとはパーキンソン病治療薬ですが開発途中で抗ウイルス作用が確認されたという異色なお薬です

実は結構安くて、切れがいいというのが正直な感想です。耐性化が問題といわれてはいますが。

1)シンメトレルはどんなときに使うの?
基本的な使用法は、症状の重いインフルエンザ感染や免疫不全が疑われる場合、その他、治療を行う医療従事者ということになっていますが、その他A型インフルエンザに罹患し48時間以内、できれば12時間以内に、医師が特に必要と認めた場合に使うことができます。

2)シンメトレルの実際の効果は?
A型インフルエンザでは、感染初期にウイルスが細胞核内へ入るのを止めて増殖を防ぐ作用があります。この3年間当院での使用経験では有効率は、70%くらいと考えておりますが、今後数年後には、耐性といって効きにくい状態も起こるだろうと予測されています。耐性を起こさないためにも普通のかぜや、インフルエンザの予防ということでは絶対に使えないことになっています。

3)シンメトレルの副作用は?
めまい、ふらつき、頭痛、眠気があるといわれているので運転、高所作業などはしないこと。高齢者では肝臓障害、腎臓障害、心不全、安定剤服用時などは使わない方がいいです。

4)シンメトレルを使ってはいけない人は?
妊婦、産婦、授乳婦、乳児は絶対に禁止です。小児は体格にもよるが使わない方がよいとされ、高校生以上であれば、一般的には使用できますが、受験生は上記の理由で試験当日は使わないほうがいいでしょう。

5)小児(4歳〜15歳)のインフルエンザの特効薬は?
残念ながら小児ではシンメトレルは緊急時以外は使わない方がいいと言われています。ザナミビル(商品名リレンザ)、オセルタミビル(商品名タミフル)の方が安全なのですが、これらはB型インフルエンザにも効くし、副作用が少ないので、小児や受験生にも使うことができると言われています。ただし乳幼児ではタミフルは脳関門を通って危険なので使用が中止されています。