C型慢性肝炎について 2004.10 肝臓のお仕事
肝臓は腹部上方の右寄りにあり右の肺と接しており左葉と右葉に分かれ、体内の臓器の内でもっとも大きな臓器です。成人では1200g-1500gもあり体重の1/40-1/50を占めています。肝臓の働きとして、アルコールや食品添加物などを解毒する作用はよく知られています。しかしそれ以上に重要な働きがあること知らない人が多いようです。私たちの主な食物として、糖・脂肪・たんぱく質があります。肝臓はそれらを分解してエネルギー源として血液中へ供給したり、皮下脂肪としてたくわえる準備をする唯一の器官なのです。また、各種たんぱく質の合成や胆汁の産生、ビタミンや血液の貯蓄、尿素の合成などを行う一大化学工場といえます。肝臓は私たちの体になくてはならない重要な臓器ですが、少々の病気では異常に気がつかないくらい、頑丈にできています。肝臓病の代表である急性肝炎でも、かかりはじめは、食欲がない、悪心、嘔吐などの胃症状や、だるい、疲れやすい位の症状、また頭痛などかぜの症状に似ている状態で、なかなか肝臓が悪いとは気がつきません。
ウイルス性肝炎とその慢性化
日本では、ウイルスによる肝炎が80パーセント以上をしめます。ウイルス以外の原因としてはアルコールや薬物性肝炎があります。肝炎の原因になるウイルスは、A型、B型、C型、E型、D型の5種類が知られていますが、実際に日本で問題となるのはA型、B型、C型の3つです。
A型肝炎はウイルスに汚染した食物や水を介して経口的に感染します。時に流行することはありますが(新聞などで生ガキを食べて流行)その殆どは急性だけで慢性化せず、完治します。死亡する人はほとんどいません。
B型肝炎はその原因やウイルスの抗原、抗体に関してもほぼ解明されています。感染経路として輸血やウイルス保有者(キャリアー)から感染し、一部は慢性肝炎や劇症肝炎になることはありますが、その比率はC型肝炎に比べて低く、現在輸血ではほぼ完全に感染を押さえられていますし、母子感染も出産後にワクチンを投与することで防げるようになってきました。今後は減少の一途をたどると考えられます。医療従事者はワクチンなどでHBs抗体を作っておくことが推奨されています。
C型肝炎はやはり輸血や、血液て感染し発病することは解ってきましたが、まだウイルスそのものが不明な状態で、やっと数年前よりC型肝炎ウイルスに罹ったかどうかを判定するC型肝炎ウイルス抗体検査(HCV検査)行われるようになりました。現在はC型肝炎ウイルスの定量や型別診断など検査法も進んでおりますが、まだまだ十分な診断といえないのが現状です。日本にはC型肝炎ウイルスを持っている人(HCVキャリアー)ですでに慢性の肝臓病で治療中の人が100-120万人おられ、またHCVキャリアーでもそれを知らな人が約100万人いると言われています。また日本人成人のの2-3%がC型肝炎ウイルスをもっているといわれています。C型肝炎はかなりの率で慢性化する事が多く、自覚症状に乏しく10年-20年という長い単位で徐々に進行し一部の人では肝硬変から肝がんへと進行していく、こわい病気なのです。日本の肝硬変患者の1/3(年間18000人)が肝癌へといたると言われています。
C型肝炎は血液を介する感染以外は、少ないので次世代には克服できるという学者もいますが輸血や針事故以外感染したという自覚がないし発症が遅れるので早期発見できないというデメリットもあります。
ある医療機関がオートクレーブや煮沸消毒の知識に乏しかったため、町内で大感染を引き起こした事例があり、町役場がもみ消した事例を知っています。
C型肝炎ウイルスの感染経路
最も多く、感染全体の40%をしめるのが、輸血による感染です。しかし、1989年以降は供血者の血液にもHCV検査が行われるようになっており、その結果わが国の輸血後肝炎は大幅に減少しています。それから、セックスが主な原因の感染、母から子への感染、家庭内での感染、針灸やある種の民間療法などが考えられます。その他、原因がよくわからないものも多数あります。しかし実際には夫婦感染、母子感染、家庭内感染の比率はB型肝炎に比べると極端に少なく(これはC型肝炎ではウイルス量が少ないため)また、蚊などの昆虫を介する感染もないものと考えて良いでしょう。
家庭や仕事場での感染予防
C型肝炎の患者さんやHCVキャリアーのおられる家庭や仕事場では、食べ物や日常の生活で感染することはありませんので感染者を差別しないで下さい。なべ料理をつついても大丈夫です。箸に唾液がつくからつついて食べるとうつるのではないかと心配する人がいますが,全く心配はいりません。唾液ではうつりません。その他,一緒に風呂に入っても,茶わんを共用しても,洗濯を洗濯機の中で一緒にしてもかまいません。しかし,血液に接触すれることは感染の危険がないとは言えませんので、カミソリ,歯ブラシ,くしなどは専用とした方がよいでしょう。
C型慢性肝炎を発見するには
C型肝炎のウイルスに感染すると、50-80%の人が慢性肝炎になるといわれています。しかも、感染してもはじめのうちは症状がでないことが多いのです。とくにC型肝炎に特有な症状というものもありません。あえて症状をあげれば倦怠感、食欲不振、悪心、易疲労感などです。しかし、一度急性肝炎で発症しいったん治ったように見えて再び活動性を持って症状を現したり、10年から20年たって発症し、診断を受けた時にはもはや肝硬変になっていたということもめずらしくありません。したがって、健康診断や他の病気にかかったり、献血の時などに、偶然、血液検査でみつかる人がほとんどです。しかし、早期発見、早期治療が重要なのは他の疾患と同様です。とくに、人の生存になくてはならない肝臓のことですから、年に一度は血液検査を受けるようにすべきでしょう。
C型慢性肝炎の検査とは
肝細胞の破壊の度合いを調べるのに、トランスアミラーゼ(GOTとGPT)値があります。肝細胞がこわされると、細胞内から様々な酵素がでてきますが、その中でも重要なのがこのトランスアミラーゼです。健康な人でGPTは25-35単位ですが、急性肝炎では500以上、慢性肝炎でも100以上になることもあります。しかし、慢性肝炎が沈静化しているときには正常のこともあり1回だけの検査では病態は解りません。C型肝炎ウイルスの抗体(HCV抗体)が血中にみつかった人では、肝機能が異常なくても年に1-2回は検査が必要ですし、GPTの値が高い人の場合、2-3 ヶ月に一度は肝機能検査を行う必要があります。またこれらの人では肝硬変や肝癌がもっとも恐ろしいので、超音波検査(エコー検査)を行い診断します。この超音波検査は痛くも痒くもありませんし、肝癌の早期発見には欠かすことが出来ない検査ですのでC型慢性肝炎の患者さんには3月に一度調べます。その他CT検査を併用することもあります。慢性肝炎か肝硬変かどうかの判別や肝臓の組織の診断には肝生検や腹腔鏡検査等を行いますがこれらは入院して行う必要があります。
C型慢性肝炎の治療
現在のところC型肝炎をふくめ肝炎に特効薬はないのが現状です。従って、日常生活の注意(栄養のバランスを考えた食餌療法、食後の安静、禁酒)とある種の漢方薬(小柴胡湯が以前は主流でしたが副作用のため最近は使われない)、肝臓病の内服薬、注射(強力ミノファーゲンC)等の対症療法となります。1992年3月よりインターフェロンαとインターフェロンβという注射が厚生省の認可を得て保険でC型慢性肝炎にも使われるようになり、すでに全国でも多くの患者さんに使われています。インターフェロンは高価で、また副作用も強いためその適応を考えて使用する必要がありますが30-40%の著効例ではウイルスが消失し肝炎が治ったことも証明されています。平成16年11月ぺグインターフェロンとリバビリンの併用の保険認可がおりました。これはウイルス陰性化しにくい1.0Meq/ml以上の高RNAかつジェノタイプIbの方には福音ですが、インターフェロン治療の今後に期待したいと思います。