高脂血症について

2004.10


高脂血症とは?

高脂血症の定義は,血液中の総コレステロール,あるいはトリグリセライド(中性脂肪)が正常以上に高いということです。現在の、診断の基準としては空腹時に測定した血清総コレステロール値が220mg/dl以上、血清トリグリセライド値が150mg/dl以上、LDLコレステロール値が150mg/dl以上、HDLコレステロール値が40mg/dl未満の何れかをみたすものを高脂血症と呼んでいます。しかし、高いからといって必ずしも直接症状につながるものではありませんし自覚症状もはっきりしたものはありません。つまり高い状態が長期間続くことによって起こる病気というものが問題になるわけです。その中で最も命に関係する重篤なものとして脳血管の病変や,狭心症,心筋梗塞などの冠動脈硬化性疾患があります。この発生率が,高脂血症でない人よりも非常に高くなるという問題がでているからです。

疫学調査

リポ蛋白について

リポ蛋白という言葉は聞き慣れない言葉ですが、脂質であるコレステロールやトリグリセライドは疎水性であるため血液中では水と油で存在できません。血液中では、特殊な蛋白質と結合して親水性を持った構造になる必要があります。このコレステロールやトリグリセライドなどの血清脂質に蛋白質が結合しているものをリポ蛋白と呼んでいます。これは電気泳動で分子量によってカイロミクロン、 VLDL,IDL,LDL,HDL-コレステロールなどに分けられます。このうち動脈硬化に直接影響をすると考えられているのは後で述べるLDL-コレステロールですし、HDL-コレステロールは動脈硬化の改善に作用すると考えられています。日常の診療では血清の総コレステロール、トリグリセライド(中性脂肪)、HDL-コレステロールを測定すればぼぼこれらのリポ蛋白の状態は把握できます。

高脂血症の動脈硬化病巣形成への関与

動脈硬化の始まりは,血管の内皮細胞の障害に始まると言われています。血管の内皮細胞が障害をうけると内皮細胞には正常では起こらない血小板の凝集や単球等がくっついてきます。これらは血管の平滑筋細胞に作用して,さらに増殖因子の作用を受けて活発に増殖し細胞内に脂質を蓄積させ,ついにはコレステロールに富む細胞を形成します。このような取り込み機構は,ついには細胞の崩壊をきたし,細胞間に脂肪を漏出し、線維成分の増生がみられ粥状硬化と言います。さらに進行するとカルシウムの沈着がおこります。これが動脈硬化です。このような一方的な動脈硬化巣の形成ばかりではなく,抑制という機構としてHDL (高比重リポ蛋白)を介した逆転送,すなわち細胞からコレステロールを抜き取る作用もはたらいています。

検査時間の問題

血清総コレステロールとHDLコレステロールは、食事による影響はあまり受けません。したがって、それらを測るのであれば、午前でも午後でも、食事前でも後でもかまわず、補正の必要はありません。しかし、トリグリセライドは食事による影響を大きく受けますので、基本的には空腹時の採血が必要となります。また、トリグリセライドは、LDLコレステロールを計算するために必要になりますので、(LDLコレステロール=血清総コレステロール−HDLコレステロール−1/5トリグリセライド) 正確なLDLコレステロールを得るためにも早朝空腹時採血が望ましいと思います。計算で算出したLDLコレステロール値の正常範囲は55-130mg/dlとされています。また、血糖値なども食事により影響を受けますので、採血の時間には注意が必要です。とくに前夜にアルコールを摂取したり、あるいは遅く食事をすることなどにより強くその影響を受けます。従って採血は前日のアルコールを禁止し、早朝空腹時が基本となります。

高脂血症の治療開始

総コレステロールの治療開始値は,日本動脈硬化学会では220mg/dlというところに線を引いていますが,理想値は,総コレステロール値180mg/dlという低いところに設定する人もあります。総コレステロールが高くなるにつれて,動脈硬化性疾患のリスクが加速度的に増えているわけですから,やはり高い人にはできるだけ早く何か手を打って,実際に動脈硬化,さらに虚血性心疾患や脳梗塞などの発症をくいとめることが大事なのではないかと思います。

Webmasterは医学博士の審査論文でコレステロールと抗酸化剤の研究をテーマにしていますが、25年の臨床的データ蓄積で、学会の診断基準に異論を持っています。確かに血管病変を持つ人は男女とも血清総コレステロール値200mg/dl以下にコントロールすべきとは思いますが、基礎病変のない成人男子は240mg/dl以下、基礎病変のない成人女子は260mg/dl以下を正常値と判定してもいいのでは?と考えています。即ち、性差を設けるべきだと・・・・・・

いずれにしても糖尿病や心臓疾患などの合併症のある220mg/dlと合併症のない220mg/dlでは病気の進行や予後に対する解釈が違うんだと考えてよいと思います。

高脂血症の治療

高脂血症の治療の基本

1)食餌療法:これをやらずに高脂血症の治療はありません。それと肥満などがあれば運動療法を併用します。食餌療法や運動療法の基本は長続きすることが必要ですのであまり最初から食事の内容を極端に制限しても長続きしませんし、神経質になりすぎると必要な栄養素がとれなくなります。少し不十分でも長続きできるよう何でも食べて良いと考えて下さい。但し一日の摂取カロリーは押さえる必要がありますので、高脂血症の人は今まで食べていた量の8割、昔からいう腹八分で行ってみてはどうでしょうか。摂取カロリーの基本は標準体重1Kgあたり25-30カロリーです。標準体重の上限は身長から100を引いた値です。たとえば身長160cmの人では60Kgとなりこの人の1日摂取カロリーの基準は60x25-30=1500-1800カロリーとなります。もちろん年令や仕事の内容、高脂血症の重症度によって増減されます。詳しい食事の内容が知りたい方には栄養指導を行います。

2)薬物治療:しかし家族性の高脂血症や重症高脂血症では食事のみでのコレステロールの低下は限度がありますので薬物による治療も併用します。最近ではスタチンをはじめとするコレステロールを低下させる薬も多くありますのでその人の状態にあわせて使用します。これらの治療は若年や中高年の高脂血症の人にはすぐに始めるべきですが、高齢者でも今後の動脈硬化の伸展予防や退縮を期待して行うこともあります。いずれにしろあまり自覚症状がない病気ですから中途半端にならないよう、また異常が改善されたら維持するように心がけたいものです。

スタチン系の薬剤は肝臓での合成酵素を抑制していますので、理論的に止めれば再上昇します。治療の持続が大事になります。

高脂血症の治療薬剤は数多くあるのですが、実際に用いられているのは以下のお薬です。

スタチン系薬剤-------メバロチン、リポバス、リピトール、リバロ

フィブラート系薬剤--------ベザトールSR