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定義
脂肪肝とは肝臓の細胞の中に中性脂肪が溜まっている状態で、肝小葉内の10%以上の脂肪滴占拠をもって脂肪肝と診断されます。日本では成人の15%以上が脂肪肝と言われ、健診の血液検査や超音波検査などで偶然みつけられるのがほとんどです。原因としては高カロリー栄養や肥満や糖尿病による過栄養性脂肪肝がもっとも高頻度にみられます。いうなれば運動不足と脂肪、糖質の取りすぎ、糖の代謝異常など飽食の時代の副産物ともいえます。
・・・・・・要するに脂肪肝は・・・・・ヒトにおけるフォアグラ肝のような状態ということです。
最近のサプリメントブームや漢方製剤の長期服用で脂肪肝を生じたケースはどんどん増えています。健康食品は健康になるお薬ではなく健康な人が使うお薬という認識が正しいと思います。具体的な商品名は差し控えますが、私(内科医)が経験したものだけでも30数種類あります。
アルコール性のものは40歳以上の成人男性に多い薬剤中毒性の原因に近い状態ですが、嗜好品によるものはタバコと一緒でご本人の良くなろうとする自覚にもよりますので・・・・・禁酒以外にどんないい食事の食べ合わせも、お薬もありません。
薬剤性(ステロイド、テトラサイクリンなど)のものもまず原因のお薬を止めるのが一番の治療法ですが、病気の種類によっては止められないお薬(有用性が副作用を上回る場合)もあるので主治医とよく相談してください。
特殊なものとして妊娠に伴う急性妊娠性脂肪肝(妊娠後期3カ月)にみられますがこれは産科の先生にお任せします。
以上の脂肪肝のほとんどは可逆性で完治する可能性があり、すぐには肝臓の機能に致命的な負担をかけることはありません。しかし血液中の中性脂肪やコレステロールが高い人や肥満症、糖尿病を合併する人が多いので、全身の代謝を確実に悪化させ、結果として心筋梗塞や脳梗塞などの死に至る病気をおこす確率は正常の人より高くなります。手遅れとならないような対策が必要になるわけです。
分類
1. 栄養失調性脂肪肝
1) 過栄養性脂肪肝----トリグリセリドの合成亢進に対するアポ蛋白合成の相対的低下でエネルギー処理不能に陥る。
2) 栄養欠乏性脂肪肝-----コリン欠乏で動物実験で肝硬変ができる ペットボトル症候群 インスタントラーメン症候群
2. アルコール性脂肪肝-----脂肪酸異化低下. 脂肪酸合成亢進、早期であれば禁酒が唯一の治療法。
3. 薬物性・中毒性脂肪肝-----リポ蛋白分泌低下に至る。循環器用薬 リン脂質 四塩化炭素中毒 小児ライ症候群: 風邪薬、解熱剤のアスピリン服用で意識障害を併発。
4. 非アルコール性脂肪肝炎(NASH)------肝臓の脂肪蓄積に伴う肝炎のこと。NASHは、1980年に最初に特異疾患として認められて以来、脂肪性肝炎、非アルコール性ラエネック病、脂肪性壊死、糖尿病性肝炎とも呼ばれてきた。・・・・・
5. 急性妊娠脂肪肝-----頭痛、全身倦怠感、嘔吐、頭痛などに始まり、その後黄疸、出血傾向、吐下血、意識障害などが起こることがある。***このサイトでは脂肪肝の中でも現代の食生活に問題のあると思われる過栄養性脂肪肝について主に解説します。
検査データの指標
1.血液検査-----GOT GPT r-GTP などの上昇が見られます。中でもr-GTPはアルコール多量常用者にも多く見られます。CHE(コリンエステラーゼ) アルブミンなどが高値になります。
・過栄養性の脂肪肝では CHEの高値と GOT値<GPT値
・アルコール性の脂肪肝では GOT値>GPT値 CHEの高値は軽度 r-GTPが高値
2.超音波検査---肝実質が白っぽく見えます。巣状脂肪肝では時には肝腫瘍と見間違うケースもある。
3.X線-CT検査-----肝実質が油の吸収域に近く、黒っぽく見えます。4.MRI-CT検査-----肝実質が油の吸収域に近くなります。
5. 腹腔鏡-----肝表面が黄色く腫れる。
腹腔鏡による肝生検時の画像
上記の検査の組み合わせで診断することになりますが、検診では血液検査と非侵襲性の超音波検査の有用性が高いようです。最近、体脂肪率と関係のある血中レプチンなども診断の助けや治療の指標になっています。
治療
1.まず絶対必要なことは原因薬剤や過食、過飲を止めるということ。
2.5Kgの減量-----ほとんどの方が肥満気味なので減量は効果的。
1日の総カロリーを1600〜1800Calに押さえる。一般の肝機能障害の食事指導は高カロリー高タンパクであるので、違いに注目!
3.過栄養性脂肪肝:食事療法と運動療法 心身医学的療法
4.お薬:EPL錠のみが健康保険適応
予後
重症でない限りたちまちは命に別状はないが、放置すると生活習慣病の宝庫となり脳梗塞 心筋梗塞 糖尿病 痴呆などの合併症が起こり取り返しがつかなくなる。
脂肪肝の食事と運動
脂肪肝は肝臓に脂肪(主に中性脂肪)がたまりすぎた状態であり原因としては肥満、アルコール、糖尿病、栄養のアンバランスなどがあります。まずはカロリー制限によるダイエットと歩行運動の持続など運動不足解消でしょう。肝臓に溜まった中性脂肪を減らす為には、食事療法と運動療法の両者を組み合わせて行うことが必要です。
脂肪を燃やしてエネルギーとして利用するためには、歩行(7000歩)・ランニング・水泳など酸素を十分に取り込んで全身の筋肉を使う運動(有酸素運動)を朝・夕に分けて1日30〜60分行うこと。山登りやエアロバイクといった心肺機能のトレーニングは、時に関節痛などの傷害を起こしたり、基礎疾患がある場合、心機能に悪影響を来すおそれがありますので、高齢者では主治医とよく相談されることが大切です。
以下に軽運動の利点を併記します。
・ 全身の血行を良くし、血圧のコントロールを安定化する。
・ 全身のブドウ糖利用の促進により血糖のコントロールを改善する。
・ 血液中の中性脂肪や総コレステロール値を減少させ、体脂肪率(内臓脂肪)を減少させる。・精神的効果(リラックス・ストレス解消・健康感の保持)
何といっても一番大切な効果と認められるのは何と言っても精神的なストレスの低下です。結果として過食の防止になります。
家庭内調理担当者のための食事療法の具体例:
健康食である糖尿病食に非常によく似ていますが、過栄養性脂肪肝では特に夕食を軽くするのがポイントです。
1) ごはん、くだもの、おやつ、ジュースを減らす
・ ご飯はお茶碗に軽く一杯、乾そうめんは一束まで。塩分の多い副食はやめて、うす味に。
・ 果物は一日にみかん1個程度、即ち敢えて摂る必要はありません。食物繊維では果物は野菜の代わりにはなりませんし思ったほどVit-Cも多くありません。しかも肥満の原料である果糖だけはしっかり含まれます。
・ お菓子、缶ジュース、ペットボトル飲料、ビタミン・ドリンク剤、アイスクリームなど甘いものなどの習慣は絶対やめること。間食も禁止が必要です。たとえ主食といっても 菓子パンはご飯の軽く2杯と同じですから禁止です。
2) 油っこい料理を減らす
(注意する食品)しもふり肉、ばら肉、ロース肉、ベーコンうなぎ、さば、さんま、ぶり、まぐろのとろマヨネーズ、マーガリン、サラダ油、生クリーム
(注意する料理)天ぷら、フライ、唐揚げ、野菜炒め、ラーメン、クリーム煮、マヨネーズサラダ、油の多い中華料理
(食べない方がいい市販の加工食品)カップめん、ハンバーガー、クリームスープ、フライドチキン、ポテトチップス、ショートケーキ
・変質した油は基本的に肝臓に対しては「毒」以外の何者でもありません。インスタントラーメン、干物、古い薫製なども肝臓にとっては負担となります。以前はよく言われたオレイン酸、EPA、DHAなど体にいいはずの脂肪酸も専門家の間では十分「毒」と認知されています。最近になって脂溶性ビタミンのVit-AやVit-Eですら取りすぎは害になることが分かってきました。肝臓によいといわれる漢方薬なども・・・最近のサプリメントブームにも主治医に相談し十分注意しましょう。
3) 新鮮な良質のたんぱく質、野菜をきちんと食べることが基本
・ 魚、赤身の肉、卵、豆腐、牛乳などバランスを考えて食べましょう。
・ 野菜の一日の必要量は300〜400gです。野菜、海藻、きのこ類をたくさんとって、空腹感を紛らわしてもよろしい。
・ 食物繊維は便通を整え、余分なコレステロールを粘着して便として排泄します。
4)アルコールはやめる
禁酒・節酒をはじめましょう!アルコールは食欲が増すと同時にエネルギーが多く、食べたもの飲んだものがすぐ脂肪になってたまってしまいます。過栄養性脂肪肝の人はいくら食事療法が上手くいってもアルコールという「毒」を一緒に口にしてはいけません。
5)食べ方、選び方
・ 食事は三食きちんととり、夕食は軽めにする-----これができない人が結構多いので良くなりません。
・ ゆっくり時間をかけて(最低1時間以上かけて)よくかんで食べる。
・ 外食はカロリーが高く、塩分が多く、栄養のバランスも悪い。中華料理は全般的にダメ。
・ 揚げ物、炒め物よりは「ゆでる、煮る、蒸す」料理を。油を使わずに調理するのがポイントです。