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糖尿病教室と糖尿病療法指導士:
糖尿病における医師と患者さんの関係:
糖尿病診断基準は?
厚生労働省の発表によりますと、成人の健康診査では、糖尿病を強く疑うものが9.0%、糖尿病の可能性ありが10.6%だそうです。成人の糖尿病はの5人にひとりいるそうですが、ハッキリした糖尿病でも治療を受けている率は50%に満たないとも言われています。
糖尿病は、早期発見、早期治療が基本で、できるだけ早期診断するため検診の項目も年々変わってきました。
平成11年改訂箇所は
1)今後IDDM(インスリン依存性糖尿病)とかNIDDM(インスリン非依存性糖尿病)という旧来の表現は使わないこと。1型糖尿病、2型糖尿病と表現する。
2)空腹時血糖126mg/dl以上、もしくは食後(随時)血糖が200mg/dl以上は糖尿病と診断する。
3)HbA1cが初めて診断に用いられ6.5%以上を糖尿病と診断する。
4)正常血糖とは空腹時110mg/dl以下で食後血糖が140mg/dl以下である。
その他にもわずかに改正点があります
糖尿病健診について
1997年10月に初の全国調査が行われ、有症率、合併症の把握さらに危険因子の推定や治療対策に当たる予定。すでに1996年4月から老人保健法による基本健康診査の中で、糖尿病に対する検診方法が従来と比較して大きく改良されている。
糖尿病と気がつくとき
糖尿病の症状は一般に「疲れやすい」、「だるい」、「お腹がすく」、「のどがかわく」、「排尿回数が多い」などと言われていますが、この様な症状はかなり糖尿病が悪くなった時に見られるものです。糖尿病の早期の人の大部分は症状らしい症状はみられず、たまたま会社検診、老人病検診や人間ドックで見つかるのです。従って「糖尿病があります」と言われても痛くも痒くもなく実感に乏しい。それ故に医療機関受診、精密検査、治療を受ける人は少ないのが現状です。先にあげた糖尿病の症状がある人はかなり重症であることに注意して下さい。有名なインポテンツもかなり進行した状態といえます。
糖尿病のしくみ
糖尿病では膵臓で作られるインスリンの働きが不十分となり、毎日食ベる食品の栄養素がからだの中でうまく処理されなくなり、特に糖分や脂肪分の代謝に異常がおこり、血液中のブドウ糖は多いのに、からだにとっては栄養失調の状態になります。この状態が長く続くといろいろな合併症が静かに静かに進行してゆきます。
膵臓の知識
膵臓はお腹の中にあり、詳しくは胃袋の後で背骨の前にある為からだの外からは触れることはできません。重さにして150グラムほどの臓器で主に膵液と言う消化酵素を小腸内に出しています(外分泌機能)。一般的には「酒を飲み過ぎて膵臓を悪くした」と言われる所ですがもう一つ大切な作用があります。仮にこの臓器を豆餅に例えると餅に相当する膵臓の中には、豆にあたるランゲルハンス島という場所があり、そこのB細胞からインスリンというホルモンが血液中に分泌されています(内分泌機能)。糖尿病はこの膵臓の中のランゲルハンス島の中のB細胞だけが悪くなっておこる状態であり、一般的にはあまり「糖尿病だから膵臓が悪い」とは言いません。
インスリンの知識
膵臓のランゲルハンス島にあるB細胞はインスリンを作り、食事や運動により変化する血糖の値に応じて、たくさん出したり少なく出したりして常に血糖を一定の濃度に保つよう働いています。このようにインスリンの働きは血糖を下げることであり、従ってインスリンが多ければ低血糖になり、少なすぎれば高血糖となります。このことから血糖が高い状態が特徴である糖尿病は・・・・・・インスリンが少ないと考えられます。
糖尿病の人と健康な人
膵臓のインスリンと血糖値の関係を理解した上で、糖尿病と健康な人との違いについて説明しましょう。決定的な違いはそのインスリンの出方(分泌のされかた)にあり、その結果として血糖の差が生じます。糖尿病の診断に欠かせない検査に糖負荷試験というのがあります。朝絶食で濃い砂糖水を飲まされて2、3時間に亘って血を採られた経験があると思いますが、あの検査です。つまり砂糖水を飲むと直ちに小腸から吸収されて血液の中に入り血糖となります。すると血糖の濃度が上がろうとしますが、すぐに膵臓からインスリンが出て、血糖値を上がらない様に調整します。その結果健康な人では血糖は1時間しても2時間してもほとんど100mg/dl前後の濃度に留まり、変動はおこりません。
一方、糖尿病の人は同じ検査をしても膵臓からのインスリンが直ちに出ない為、血糖はどんどん高くなり、1時間しても2時間しても健康な人と同じ血糖には下がってきません。糖尿病のおもさによって砂糖水を飲んだ後の血糖値は大きくちがってきます。軽い人では200mg/dlから、重い人では500mg/dl以上にもなってきます。このような違いを利用して糖尿病の重症度診断をしているのです。注意:糖負荷試験は血糖値が200mg/dl以上の場合には行わないのが普通です。ハッキリ診断がついた糖尿病には糖負荷試験は必要ありませんし、しっかり糖尿病のコントロールができている患者さんの血糖をあえて乱す必要もないわけですから。
以上の検査の為に砂糖水を使いましたが、毎日の食生括においても全く同じ事が起きている訳で、1日24時間にわたって血糖の変化を見てみると、健康な人では朝、昼、夕食と間食にどんなに沢山食べてもその都度インスリンが十分出て調整をするので血糖は常に100m g/dl前後の濃度に保たれ、一日中変化がみられません。これに対して糖尿病では、各食事のたびに血糖は高くなり、一日中波うちながら高血糖が統いているのです。このような健康な人と糖尿病の人では身体のなかでは全く違う状態が一日中いや一年中続いているのです。この違いが長年にわたっている事が大変問題であり後に述べる糖尿病の慢性合併症の原因となるのです。
血糖日内変動とは?
患者さんの中には血糖値に、異常なまでのこだわりを持っておられる人がいます。確かに気にすることは悪いことではありませんが、健常者に対して糖尿病の人の血糖は変動幅が大きいということで、空腹時の血糖値が高いということはコントロールが悪いということにつながります。しかし食後血糖値(随時血糖値)が少し高いからといって一喜一憂することは、治療にとって有用とは言えません。
むしろ、以下のように日内変動(ターゲスプロフィルといいます)を一度調べることをお勧めします。不摂生をすればわずか3日目で、コントロールが最悪になった事例の日内変動模式図です。まるで積立預金の如く日々、血糖値が上昇してゆくことがお分かりのなると思います。
インスリンの自己注射をされている人は、自己血糖測定(SMBG)もされているでしょうから、以下の図はよく覚えておきましょう。
健常者と糖尿病者の血糖日内変動の比較
尿糖と血糖の関係
昔から糖尿病といえば尿に糖がでる病気と言われており、尿糖が出なくなると糖尿病も治ったと思われがちでした。しかし既に述べた様に糖尿病は血糖が高くなることが病気の本質であり、尿に糖がでることはおまけの出来事あります。一般に血糖が高くなるとすべての人の尿に糖が出ますが、これには個人差が大きく、血糖が非常に高くなって初めて尿糖が出る人もあれば、逆に血糖はほとんど正常値に近くても尿糖が多く出る人もあります。従って最近は昔ほど尿糖にこだわらなくなりました。しかし尿糖が出ていた人が出なくなれば少しは血塘が下がったと考えられますし、逆に尿糖が出なくなっていた人に再び出はじめれば血糖が高くなったと考えられます。このような判断には尿糖の検査は役にたちますが、正確には血糖検査をしなければ本当に糖尿病が良いのか悪いのかはっきりしません。というわけで、最近では尿検査といえば、微少アルブミン尿や尿中CPRのことで、尿糖検査は行わなくなりました。
その他の検査
血中インスリン、尿中CPR、抗GAD抗体、インスリン抗体------専門医と相談して行ってください
自己血糖測定の勧め:
SMBG(自己血糖測定)--------インスリン自己注射を行っている患者さんに対して血糖値の自己管理という啓蒙も兼ねて行います。グルテストエースIIなど使えば15秒で血糖値が測れます。
グルテストエース(京都第一科学/三和)
糖尿病のいろいろなかたち
糖尿病という病名がついても詳しく見るといくつかの違ったタイプがある事に気が付きます。肥った人、やせた人、若い人、老いた人、肝臓の悪い人、膵臓の悪い人、妊娠中の人など様々な状態に伴って糖尿病が見られます。これらを大まかに分類して、最近では1型糖尿病、2型糖尿病、その他の糖尿病と呼んでいます。1型糖尿病とは主に小中学生にみられる激しく発症する糖尿病でインスリンを使わなければいけないタイプのものです。2型糖尿病とは主に中高年にみられる糖尿病で必ずしもインスリンは必要とせず、比較的軽い糖尿病といえるかもしれません。この型では遺伝的傾向が見られるのが特徴のひとつです。その他の糖尿病は特殊な原因によっておこるものでホルモンの病気や膵臓切除した人などに見られます。大部分の皆さんは2型糖尿病に分類されると思われます。
すなわち糖尿病という病気は膵臓からのインスリンが十分に出ない状熊ではありますが、その原因は何かと言うと、2型糖尿病はまだ良く解明されていません。ひとつの解釈として先祖からの糖尿病にかかり易い遺伝因子を受け継いでおり、種々のストレスが引きがねとなって糖尿病になると言われております。そのストレスは個人によって様々であり、或る人は年をとることであり、また或る人は食べ過ぎや運動不足による肥満であり、また或る人は他の重い病気などであります。従って一度発病すると遺伝がからんでいる為、以後一生糖尿病がつきまとうことになります。
2型糖尿病は良く見ると肥ったタイプの人とそうでないタイプの人に分けることができます。それによって治療法も基本的に異なるように思われます。つまり肥ったタイプの人では体重減少をめざして食事療法を徹底的に行えばかなり艮くなる可能性があり、血糖降下剤(内服薬)やインスリン(注射)を使う必要はないようです。これに対して痩せたタイプの人は適切な食事療法の上に血糖降下剤やインスリンを使わないと十分血糖を下げる事が難しい様です。これらの治療法の判断は専門的知識を持った医師が行いますので必ずしもこれらの意見にこだわる必要はありません。ブリットル型糖尿病という名前がありますが・・・・これはホルモン的、精神的など様々な因子があって高血糖を繰り返すもので、コントロール不良になりますが、血糖を下げるよりも原因除去の方が大切なので省きます。
再掲:
平成11年6月の日本糖尿病学会で新しい診断基準が発表されました。
1)今後IDDMとかNIDDMという表現は使わないで1型糖尿病、2型糖尿病と表現する。
2)空腹時血糖126mg/dl以上か食後(随時)血糖が200mg/dl以上を糖尿病と診断する。
3)HbA1cが初めて診断に用いられ6.5%以上を糖尿病と診断する。
4)正常血糖とは空腹時110mg/dl以下で食後血糖が140mg/dl以下である。
糖尿病のコントロール
糖尿病の治療は医学の進歩した現代においても、昔と変わりなくまず第1に食事療法であります。食事がうまくできると次に運動療法があります。このふたつの治療をおこなってもなお血糖が下がらなければ初めて血糖降下剤かインスリン療法をおこないます。食事療法が十分出来てないために高血糖が統いているときに血糖降下剤(内服薬)やインスリン(注射)を使うと先でいろいろ困った事が起きてきます。また逆に初めからインスリンを使う必要があるのに食事療法ぱかりに固執してさらに糖尿病を悪化させたり、単に注射するのが嫌いだからと言って治療をおくらせることは賢いやり方ではありません。上記の表は、私が勤務医時代に作成したコントロール基準ですが(FPG=空腹時血糖)、以下の表は糖尿病学会が2003年になってやっとのことでコントロール基準を作ってくれました。中でも食後血糖値が高くなる場合、糖尿病が悪化しやすく、予後不良因子といいます。私の基準よりも空腹時血糖値が厳しくHbA1cは緩いです。
HbA1c 空腹時血糖 食後2時間血糖 優 5.8%未満 100mg/dl未満
120mg/dl未満
良 5.8~6.4% 100~119mg/dl
120~169mg/dl
可 6.5~7.9% 120~139mg/dl
170~199mg/dl
不可 8.0%~ 140mg/dl以上
200mg/dl以上
2002-2003糖尿病学会より
食事療法
糖尿病の食事療法は病気が一生続くだけに一生続ける必要があります。その為には基礎知識をしっかりと身につけて毎日実行しなければいけません。基本となる食品の知識は「糖尿病治療のための食品交換表」にすベて収められています。糖尿病に限らず今や健康の為には毎日食べる食品、いわゆる健康食(みのもんた症候群とは別物です)に関心を持ち、また栄養士の食事指導を常に受けながら正しい知識を積み重ね理想的な食事を作り食べて欲しいものです。今まで多くの患者さんを診ていて気付くことに、糖尿病が良くならない最大の理由が食事療法の不完全にあるようです。昔と違って食品の豊富な現代においては少なめに食べたつもりでも、かなりカロリーオーバーになっているかもしれません。近年食後の過高血糖を抑える内服剤が開発され、投薬されているようですが長い目でみると効果が一時的と思える症例が多く、やはり適切な食事療法に勝るものはなさそうです。このように薬剤治療 については頼りすぎないことも大切で、かといって血糖降下剤を医師の許可なく自分勝手にやめることなどしてはいけません。体型、体表面積、体重、内臓脂肪量、皮下脂肪量、合併症の有無によって、カロリー制限が異なりますので、具体的には専門医に聞いてください。
運動療法
療法と名前が付くからには、健康な人がするスポーツとは明らかに異なります。スポーツインストラクターと称する人にはここがわかっていないので、病状をいっそう悪くしている事例を多く見ます。運動療法は健康を維持するだけではなく血糖をも直接下げる効果があることが治療に用いられる理由です。血糖降下作用はかなり激しい運動をかなりの時間行ったときに初めて強く現れてくるものであって、だらだらとした運動では効果は不十分です。従って食事療法をいいかげんにしておいて運勤療法で補うことはもってのほかであり、これらのことを十分理解したうえで行うことを勧めます。但し糖尿病が悪い状態にあるとき、運動が出来ない状態、運動によって他の病気が悪くなる時は当然運動療法はしてはいけません。運動は心臓、血管、脚力をきたえ、体重、血中脂肪、血糖を低下させる効果があり、息をはずませながら毎日規則正しく行うことが大切です。運動をするには、しやすい靴と服装がまた大切です。実際にどれくらいの運動をすれぱ良いのかについては個人差もあり一定していませんが、一回に20~30分くらい一日2~3回することが勧められています。患者さんにとって運動療法は病状によって許可される範囲が異なります。専門医に十分相談することが大切です。
薬物療法(赤文字は当院で使用中のもの)
1)経口血糖降下薬
- 速効性インスリン分泌亢進------インスリン調節剤、ファスティック、スターシス
- 速効型SU剤-------アマリールなど
- SU剤-----グリミクロン、ダオニール、オイグルコン など
2)経口インスリン抵抗性改善剤
- ビグアナイド剤-------肥満の糖尿病に有効?腎機能に注意、メルビン、ネルビス、グリコシン
- インスリンの骨格筋組織感受性を改善する-----アクトスなど
3)経口血糖上昇遅延剤
- 小腸でのブドウ糖吸収を遅らせる------ベイスン、グルコバイ
4)経口糖尿病性神経障害治療薬
- 神経障害を改善させる------キネダック(血糖降下作用なし)
5)注射薬
- a)速効型インスリン-----生理的なインスリンの出方とは違うが1日3回以上注射
- b)中間型インスリン-----SU剤でコントロールしでいる際の夜間高血糖を防ぐ目的で眠前注射
- c)中間型/速効型の合剤インスリン-----1日2回打ちでコントロールしやすい(ペンフィル30Rなど)
- d)超速効型インスリン-----理論的には一日三回食事の時に打てばいいはずですが。経口剤や中間型インスリンなどと併用しなければ、結構コントロールは難しいです。
6)インスリンポンプ
持続的皮下注入(CSII)----速効型インスリンを携帯型ポンプに接続して皮下に留置した注射針から持続的に注入する。食事の前に患者さんがインスリン注入量を調節できる。いくら食べていくら増やすといったことに関して
450ルール*、1500ルール*など理解も大切。詳細は専門医に。
7)その他
- 開発中のものとしては、点鼻インスリン、点眼インスリン
- ----理論的には可能ですが・・・まあ実現性が疑問。
糖尿病の合併症について
はじめにも述べた様に、ほとんどの人の糖尿病ては大した症状がありません。それ故病気として一番問題になることは、その静かに確実に進行する慢性の糖尿病性合併症であります。困ったことにこの合併症は自分ではほとんど気がつかない為、非常に悪くなって初めてあわてる有り様です。はっきり言って、とことん悪くなってからでは十分な治療法はありません。遅すぎるのです。
昔から糖尿病になると眼、腎臓、神経が悪くなると言われておりますが、同時期に全箇所が悪くなる訳ではありません。しかし糖尿病を10年間も放置するとほとんどの人に眼または腎臓が悪くなることは確かなようで、このことが必ずしも自覚症状の発現につながる訳ではありません。糖尿病の合併症は多くありますが、それらに共通する原因は血管障害であります。つまり体中に広がっている血管に糖尿病独特の変化が起こり、とくに血管に富んでいる臓器(腎臓、眼、心臓、神経、脳、足先など)が本来の能力を発揮出来ず、様々の障害となるのです。これらの障害の内、健康で快適な生活を営めなくするものに眼の網膜症、腎臓の機能不全があります。
HbA1c 6.5%以下、空腹時血糖110mg/dl未満 であれば合併症の進行が少ないとの報告がありますので、とりあえずこのあたりを目標にされることを勧めます。
網膜症
眼が悪くなったものを糖尿病性眼障害と称しております。正確には眼のレンズ部分が白く濁って眼がかすむのを白内障と呼び、また眼の中にある網膜と呼ばれる映画のスクリーンの働きをする部分の血管が破れて画面の邪魔をするものを糖尿病性網膜症といいます。現代の医字では白内障はレンズを取り換えることにより多くは治すことが出来ますが、網膜症はスクリーンを取り代えることもできず進行を止める以外に良い治療法ほありません。しかもやっかいな事に両眼にも同様の変化が起こる為、どんどん悪くなると両眼共失明することもあります。アメリカの失明原因の第2位は糖尿病です。従って努力して糖尿病を常に良い状態にしておくしか根本的な予防や治療方法はありません。それ故に糖尿病の症状が無い時(糖尿病初期)こそがもっとも治療に大切な時期なのです。
腎症
血管が糸巻のようになって塊を作っているのが腎臓であります。ここでは血管の中を流れる血液から水分を引っ張り出して尿をつくっています。尿の中には体の老廃物が含まれ尿と一緒に体の外に捨てているのです。ところが糖尿病牲腎臓障害が起こると体に必要な蛋白質が尿に漏れ出てきます。更には血液も漏れ出し、このような状態が続くと尿量も減り、老廃物が体に貯まってしまい尿毒症と呼ぱれる状態になり透析治療が必要になります。眼と同じく尿毒症になってはじめて体調の悪さを自分で感じることも多いのです。この状態は初期の段階で尿蛋白(微量アルブミン)の出現を検査をしなければわかりません。従って糖尿病を発見されたら眼の検査と同様に腎臓も詳しい検査を受けることが非常に大切です。多くの患者さんを診ておりますと、長い間糖尿病を知りながち放置していた人は勿論、また初めて糖尿病に気付かれた人のなかにも既に腎障害を起こしておられる人が多いのに驚かされます。腎臓の場合も眼と同じく悪くなってしまってからでは治療方法が無く、日頃から糖尿病を良くコントロールしておくしかありません。現在の究極の治療は腎臓移植しか無く現代の日本では糖尿病の場合かなり不可能な治療であります。
神経症
糖尿病による神経の障害は末梢神経に見られることが多いのですが、実に様々であり従来言われている手、足のしびれ、いたみ、冷たさ、熱さ、だるさのみならす頭痛、中風(脳卒中)と粉らわしい顔、眼の麻痺、手や足の脱力、片麻痺、たちくらみ、鳥肌、汗かき、食事性下痢、夜間の下痢、また頑固な便秘などありとあらゆるタイプの神経症状がみられます。勿論これらの症状が全部出る訳ではありませんが、糖尿病を放置すればその複数の症状の出現の可能性があるということです。現在でもこれらの不愉快な神経障害に対する良い治療法はありません。それだけにこれらの症状が出ない段階の早期糖尿病治療が大切だと言うことです。
皮膚疾患
多くの糖尿病患者さんを診ているといがいに目立つのが皮膚の病気です。健康な人にも診られる皮膚病と同じものですが、頻度が大変多く、頑固な様てす。足、爪、手のみずむしは勿論、湿疹、おでき、カビの皮膚炎、口内炎など急に出来るもの、いつも出来たり治ったりを繰り返しているものなど、いずれにしてもこれまた放置されていることが非常に多いのが現実のようです。糖尿病が悪いと治り難いし、また逆に皮膚の病気の為に更に糖尿病が悪くなることがあります。これらの原因はまだ良く解っていませんが、糖尿病では体の抵抗力(白血球の力)が低下するため細菌、カビ、ウィルスがとっつき易くなると言われています。これらに対しては、日頃から自分の皮膚を清潔に保つ様心掛けることが大切であり早めに徹底的に治療をしておく事が必要です。特に手足は不潔になり易くまた怪我をし易い場所で発見が遅れて足趾が腐ってきた人もあり馬鹿に出来ない糖尿病性合併症のひとつてす。
成人病(生活習慣病)
つぎに糖尿病独特の合併症ではありませんが、糖尿病がある人に多く見られる病気です。これらの病気は一般に成人病と呼ばれるものでいくつも重ねて病気になる人があります。これらの病気は糖尿病が有る為に一段と重症化し易く、糖尿病が良くならなければ改善しないという困った病気です。最も多いのが高血圧でありますが、そのほか高脂血症(高中性脂肪血症)、肥満症、高尿酸血症、虚血性心臓病(狭心症、心筋梗塞)、脳梗塞、悪性腫瘍(癌)、老人痴呆などです。これらと糖尿病の共通点はつまるところ血管障害であり、かつ栄養障害であります。一般に糖尿病に高血圧が合併すると腎臓障害は一段と加速され、腎不全が早くやってきます。また脳梗塞も多発します。心筋梗塞も多発しますが糖尿病の無い人に比べてその症状も典型的でなく発見が遅れがちになる欠点があります。いずれにしてもこれらの病気の問題は治すことが難しく、健康な人と同用の社会生活を続けることが困難となることです。だれも病気になりたい人はありません。日頃の自己健康管理は大切であり、無用な苦痛、悲劇を回避する唯一の方法であります。
これまで述べてきた様々の合併症など糖尿病に伴う悲劇は長い糖尿病医学の進歩によりまた多くの患者さんの苦痛の蓄積の上に明らかにされてきたものであります。この上に立って患者さん自身の自覚を促す糖尿病教育が行われた結果、糖尿病合併症の新たな顔として悪性新生物(癌) が加わってきました。以前は糖尿病患者さんの死亡原因は脳卒中、心臓病、腎臓不全、糖尿病性昏唾などでありました。糖尿病があるとすぐに癌になる訳ではありませんが見落としてならない病気のひとつです。胃癌、大腸癌、肺癌、肝臓癌、膵臓癌などがあります。おかしいと思ったら早めに医師に相談することか大切です。
まとめ
これまで述べたように、まさに万病の元である糖尿病では定期的に専門医(もしくは糖尿病に詳しい医師)の管理指導の下に正しい自己管理をすることが最も好ましいと言えます。この文を読まれて得るところがあれば、今日からでも遅くありませんので、それを生かす様に心がけ、健康的な毎日を過ごすことをお勧めします。
おことわり
上文中の挿絵の一部には鈴木吉彦著パンフレット『糖尿病ってどんな病気!?』から抜粋させていただきました