結局この作戦ではヤマダさん、イズミさんがそれぞれ軽症を負いました。
ですがそれぞれの機体は大破…まさに奇跡としかいいようがありませんでした。
ジュンさん、アカツキさん、リョーコさん、ヒカルさんには怪我もなく機体の方も軽微の破損で済んだそうです。
ナデシコの方も辛うじて修理も終わり、現在メンテナンスを行う為にヨコスカシティに向けて航行中…
アキトさんもナデシコに合流して現在は艦長やプロスさん達とお話中です。
それと新しい乗組員もやってきました、グレーのエステバリスに乗っていた人です。
イツキ・カザマ中尉、連合軍に在籍している軍人さんだそうです。
本当はヨコスカシティで合流する予定だったらしいのですが、アキトさんがナデシコに急行することになったのでそれに便乗してきたとか…
それにしてもアキトさんが乗っていた機体は何でしょうね?
以前のブラックサレナと違い随分とスマートになっていました、それを言ったらAIのミコトさんが『前は太ってたっていうの!?』とかって何やら怒っていました。
そういう意味じゃないんですけどね…兎に角、セイヤさんもこの機体には興味津々みたいです。
格納庫でアキトさんが来るのを今か今かと待ち構えています。

でもこれでナデシコはいつも通りに戻りました。
私も久しぶりにアキトさんの手料理でもご馳走になるとしますかね…
今日は久しぶりにいい夢が見られそうです。






























機動戦艦ナデシコ


-if-
-Revenger-



第12話 『早すぎるサヨナラ』


































先日のナナフシとの戦闘でダメージを負ったナデシコはここヨコスカシティにあるドックに停泊し、その傷を静かに癒していた。
メンテナンスをするネルガルの担当者には申し訳ないがナデシコのクルーにとってはこれはよい休暇となっていた。
これまで連戦してきた彼らには今まで長期休暇と呼べるものは存在していなかった。
しかもタイミングがいい事にクリスマスシーズンであった為に彼らにとっては恰好の休暇となったわけだ。
当然この休暇を取るにあたってプロスペクターやエリナ達と壮絶な交渉があった事は言うまでもない。
しかしその甲斐あって交代でではあるがヨコスカシティへの上陸も認められる事となった。
そんな訳で現在ナデシコに居るのはクルーの内、半分の人間しか居ない。
その彼らが何をしているのかというとナデシコ内で行われるクリスマスパーティーの準備だった。
戦艦でパーティー?と思うかもしれないがそこはやはりナデシコである、艦長であるユリカの『クリスマスパーティーをしましょう♪』の一声でこのイベントが決まってしまった。
当然その案に反対する人間など居るはずもなく…整備班が主体となって慌しく準備を進めているのだった。
本来なら整備班長であるウリバタケが陣頭指揮を執って作業を推し進めるのであるが今回彼は『アンスリウム』と呼ばれているアキトの新型の機体を
搭載AIであるミコトと共に整備している為に姿を見せていなかった。

そんな喧騒の中、今回居残り組となっていたアキトは食堂でくつろいでいる。
勿論その横には同じ様に居残り組であるルリ、その隣にはミナト、そして正面にはイネス、その隣にユリカが陣取り
周りから見れば両手に花どころか花束状態となっていた。
当然パーティーの準備をしている整備班達から恨めしそうな視線を浴びてはいたがアキトはそんな周りの視線を気にする風でもなく
自分の周りで繰り広げられる女性達の話をぼんやりと聞きながら先程までの事を思い起こしていた。













朝早くからウリバタケに格納庫へと呼び出されたアキトを待っていたのは質問という名の尋問の様なものだった。
何しろ格納庫に着くなり待ってましたとばかりに腕を掴まれ愛機の側へと引っ張っていかれたかと思うと
今度は興奮したような表情のウリバタケが矢継ぎ早に質問をしてきた。

「おい、テンカワ…こいつの性能はどれぐらいのものなんだ?
 それにあのでっかいレールカノンみたいなのは何なんだ?
 さぁ教えろ!今すぐに教えろ!」

「あ、あぁ…こいつの名は『アンスリウム』、元々こいつはブラックサレナの核となる機体でな。
 まぁブラックサレナの方が追加装甲だから、これが本当の姿と言ってもいいだろう。
 こいつの詳しい仕様に関しては後で資料を渡すからそれで勘弁してくれ。
 それからこれには相転移エンジンは搭載していない、尤も搭載しようにもそのスペース自体がないがな」

ウリバタケの態度に苦笑いしながらもアキトは自分の機体の事を簡単に説明した。
もしイネス・フレサンジュがこの場に居ればアキトから資料を奪い取り嬉々として説明してくれたかもしれないが
さすがにウリバタケも馬鹿ではない、彼女に掛かれば数分で済む説明も数時間は確定してしまう。
だからこそ彼はこの時間を選んでアキトを呼び出したのかもしれない…。

「まぁ資料を渡すってんならそれで勘弁してやるよ。
 だが相転移エンジンを積んでないって事はあのレールカノンみたいなのは一体どうやってぶっ放したんだ?
 ナナフシを吹っ飛ばしたやつ、ありゃあグラビティブラストなんだろう?
 あんなのをぶっ放そうと思ったら相転移エンジンでも積んでないと出力が足りねぇんじゃねぇのか?」

「さすがだな…あれはグラビティランチャー。以前図面を見せたよな、あれの完成版だ。
 確かにあれを使うには膨大なエネルギーが要る、だからイツキに一緒に来てもらったんだ。
 彼女のエステバリスにグラビティランチャー1発分の予備バッテリーを運んでもらったのさ。 
 通常はナデシコのエネルギー供給フィールド内に居れば使えるんだがな…
 それでも使用回数は限られている、まぁ3発が限度だろうそれ以上は砲身が持たん。
 とは言ってもアンスリウムはブラックサレナとは逆で近接戦闘を主体とした機体だ、あまり使うことはないかもしれないがな」

本当は今すぐにでも色々聞きたかったのだろうが資料を渡すと言われれば引き下がるしかなかった。
そしてウリバタケは一つだけ疑問に思っていた事をアキトに問うのだったが彼から返ってきた答えは簡単なものだった。
その答えを聞いて納得したような表情をしたがすぐに不満そうな表情を浮かべたウリバタケはアンスリウムの右背面に装備されている
現在は2つに折畳まれた砲身を見て不満そうに呟いた。

「なるほどな…だがもう作っちまったのかよ。
 せっかくこの俺が地球に戻ったら作ろうと思ってたのによ」

「まぁそう言うな、そのおかげで今回ナデシコは無事だったんだからな」

「そうなんだがよ…
 で、こいつの武装は他には何があるんだ?」

未だ少し納得がいかないのかウリバタケは次の質問をするのだった。

「エステバリスと同じさ…しいて言えば、ナックルガードの代わりにクローが付いている事と
 短めのブレードが2本と言ったところか…さっきも言ったが近接戦闘を主体にした機体だからな。
 長距離射撃にはラピッドライフルやグラビティランチャーを使うことになるだろう」

「それにしてもホントにブラックサレナとは正反対の機体だな。
 何でまたブラックサレナに戻さなかったんだ?高機動ユニットも使えねぇじゃねぇか」

「まぁ理由は色々とな…それにブラックサレナはあくまでも追加装甲にすぎないからな。
 場合によってはまたサレナユニットを纏うかもしれないがこれからはアンスリウム主体で行くつもりだ。
 高機動ユニットに関しては仕方がないさ…」

アキトの答えを聞いたウリバタケはさも不思議そうに尋ねるがアキトの方は淡々としたものだった。
もしかしたら何れはこうなる事を予感していたのかもしれない。
そんなアキトを見て盛大な溜息つきながらウリバタケは別の質問をするのだった。

「はぁ〜勿体無ぇなぁ…まぁコストが掛かりすぎるってんでプロスの旦那に睨まれてたしな、ちょうどいいか。
 よし、機体に関しちゃこれぐらいでよしとして…あのイツキって娘とはどういう知り合いなんだ?」

「彼女か?ネルガルと軍が和解したのは知っているな?
 その際に軍属のパイロットを一人ナデシコに乗せることになってな、それが彼女だ。
 この話が決まって以降はネルガルに出向してきて俺やアカツキと一緒に訓練をしていた。
 元々はヨコスカシティで俺と共に合流するはずだったんだが今回の件があったからな…
 俺が無理を言って一緒に来てもらった、腕前の方は俺が保障する」

何やら興味津々に聞いてくるウリバタケに内心呆れながらもアキトは彼女に関する事を聞かせた。
しかしそれはウリバタケが期待していたような内容ではなくありきたりなものでしかなかった。
戦闘では無類の強さを誇り、さらに料理の腕前も一流であるアキトの人気は元々ナデシコ内では非常に高く
整備班を中心に密かにトトカルチョが行われていたりする…勿論誰がアキトを落とすかということでだ。
ここに今回の新人であるイツキが絡んでくれば…と密かに期待していたウリバタケであったようであるが
その思惑はどうやら外れそうな雰囲気である、ちなみに現在の一番人気は当然ルリだ。

一通りの事を聞いたウリバタケはふと入り口付近に誰かが来た事に気が付いた。
そしてアキトに目で合図すると彼を解放した。

「なるほどな…
 わかった、ホントはもっと色々聞きたいんだが今日のところはこれくらいにしとくぜ。
 どうやらお迎えが来たみたいだからな」

「そうみたいだな」

アキトが目を向けるとそこにはポツンと入り口に佇んでこちらの様子を伺っているルリの姿が見えた。
どうしてこの場所が分かったのかは言うまでもない…オモイカネに探してもらったのだろう、どうやら朝食のお誘いらしい。
そうしてルリと共に朝食を採っているとそこへミナトが現れ同席し、次にイネスがそして最後にユリカが現れ現在に至る。

未だに女性達の会話は治まる様子もなく時々投げかけられる話題に軽く返事を返しつつ再び考え事に浸ろうとした時、目の前にコミュニケのウインドウが開いた。
そこには今回彼らと同じ様に居残り組みとなっているエリナ・キンジョウ・ウォンが映し出されていた。

「テンカワ君、ちょっと話があるんだけど、いいかしら?」

「…何だ?」

エリナの問い掛けに短く答えると話を促すアキト…
しかし彼の周りに居る女性達に気が付きその中に目的の人物達が居るのが分かると今度は彼女達に向けて話し掛け始めた。

「あら、艦長とドクターもそこに居たのね、ちょうどよかったわ。
 あなた達にも関係あることなのよ」

「私達も?」

まさか自分達にまで話があるとは思っていなかったのか若干驚いた様子でお互いの顔を見合わせ
訝しげな表情でエリナを見つめ直すイネスとユリカだった。
そんな表情に気が付いていないのか再びアキトの方に向き直ると話を進め始めた。

「そう、貴方たち3人に今から来て欲しい所があるのよ」

「今からですか?
 でも私達、今は待機中ですし…」

「それなら大丈夫よ、来てもらうのはネルガルの関連会社だから」

「はぁ…」

「そういう訳だから急いできて頂戴、ドックの外で待ってるから」

エリナの問いに対して自分達は待機中であると主張したユリカであったがあっさりとその心配はないと言われる。
場所がネルガルの関連会社という事は要するに何らかの仕事があるのだろう…そう思い曖昧な返事をすると
それを問いに対する肯定とみなしたのか他の2人の返事を待つことなく最後にウインクを一つするとエリナは通信を切ってしまった。
元々雇われる側の人間であるのだから仕事とあれば断るわけにもいかないだろうが…
少しの間沈黙がその場を支配する事になったがアキトが徐に席を立って2人を促した。

「行くとするか…あまり待たせると煩いからな」

「アキトくん、私達が呼ばれる理由何か知ってるの?」

「まぁな……」

先頭を歩いていくアキトに何か知っているのかと問うイネスであったが彼から返ってきたのは曖昧な返事だけだった。
そして食堂にはどことなく不満げに見送るルリとそんな彼女を宥めるミナトの2人が残った。














ドックの外に出た3人はそこで待っていたエリナと共に車でネルガルの関連会社であるアトモ社に向かった。
運転しているエリナは兎も角、アキト、イネス共に沈黙を守りその無言の重圧にユリカは一人晒される結果となった。
そのままの状態で暫く走り続け、漸くアトモ社に着いた頃にはユリカは一人衰弱しきっていた。
そんなユリカを誰一人気にする事もなく早々に会議室らしき所に通されるとそこには数人の科学者達が既に座って待っていた。
そして全員が席に付くとエリナは唐突に話を始めた。

「さて、何故あなた達をここへ呼んだかというと、あなた達にしかできない仕事があるからよ。
 木星蜥蜴がチューリップで一種の瞬間移動、つまりボソンジャンプを行うことでほぼ無尽蔵の攻撃を仕掛けていることは知っているわね?
 ネルガルは地球軍とは別個にこのシステムの解明を急いでるの…」

「木星蜥蜴ははなから無人兵器だし、クロッカスもクルーは全滅していた。
 何故ナデシコだけが生物を生きたままでボソンジャンプさせられたのか…しかも地球に」

エリナの説明に続いて話し始めたのは一人の科学者だった。
そしてその言葉に反応したのは誰でもない、同じ科学者であるイネス・フレサンジュであった。

「その原因が私達にあるとでも?」

イネスそう言って目の前にいる科学者をまるで睨むように見つめている。
勿体ぶった説明に腹を立てているようにも見える…説明好きではあるが説明されるのは嫌いなのかもしれない。
そんな彼女にアキトはネルガルの思惑を語ってみせた。

「こいつらは生体ボソンジャンプを実現したいのさ…
 人間を乗せた兵器を火星や木星に送り込めれば戦況は変わる。
 なにより地球側には木星側の様に優れた無人兵器を作る技術はない」

「いや…木星側も生物をボソンジャンプさせることには成功していない。
 彼らがその技術を得るより前に我々がその上をいかなければこの戦争は負ける…」

アキトの言葉にまるで反論するかのように一人の科学者が声を上げる。
その内容にバイザーで隠されたアキトの表情が少し歪むが誰も気づくものは居なかった。
そしてエリナは「これを見て頂戴…」と記録映像を再生し始めた。
そこに映っていたのはボソンジャンプ直後のナデシコ内の映像である、そしてそれには突然姿を消し
展望室へと再び姿を現したユリカとイネスの姿が映し出されていた。
それを見てさすがに唖然としてしまうユリカとイネス…そんな2人の様子を見てエリナは話を進めた。

「あなた達3人には間違いなく不思議な力がある、地球にはそれが必要なの。
 ……これはCC、私達はチューリップクリスタルと呼んでいるわ」

そう言うとエリナは懐から青色のクリスタルを3人に見えるように掲げた。
そして手元にある端末を操作して一室の様子をスクリーンに映し出した。
そこには大量のCCが保管されていた、その光景をバックに更にエリナは話を続けた。

「CCが最初に発見されたのは火星極冠遺跡の鉱山から、その後ネルガルが統括的に管理してきた。
 これらの成分はチューリップと同じ組成でできてるの、あたしの仮説…CCはボソンジャンプのトリガーである!
 今後はこのCCを使っての実験も考えているわ、これには幾つかの条件付だったけどテンカワ君も協力してくれる事になってるわ」

エリナの言葉の中にアキトの名前が出てきて驚きを隠せないユリカとイネス…当のアキトは腕を組んだまま沈黙を守っている。
ここまで話し終えた時、会議室に緊急の知らせがありそれを聞いたエリナや科学者達は慌ててその場を後にした。
そして取り残される事になったアキト達3人…この3人だけをこの場に残した事はある意味エリナにとって最大のミスだっただろう。

















エリナ達が駆け込んだのはこのアトモ社にある実験ドームだった。
そこにはガラス越にチューリップが存在しており一体何の研究をしているのかは限られた者達にしか明かされていなかった。
そして彼女達が到着したのとほぼ同時にそのチューリップに変化が見え始めた。
エリナ達が唖然と見守る中、チューリップ内部より何かが吐き出されるように現れそのまま落下して床に叩き付けられた。
それは一昨日行われた生体ボソンジャンプ実験によりチューリップ内部に進入しそのまま連絡が途絶えたままになっていた
耐圧仕様のエステバリスだった。
その様子を見て呆然としていたエリナに背後から声が掛けられた。

「なるほど…すでに生体実験もやっていたのね」

「あ゛…」

振り向いた先にこの失敗を一番見られたくない人物達が居るのを見て唖然とするエリナ…
普段ではまず聞けないような間抜けな声などを出している。

「実験成功には程遠いみたいですね…」

「いや…その…あれはね……」

更にユリカにのんびりした声で追い討ちを掛けられ益々焦り始めるエリナだったが背後から怒気のこもった声を掛けられると彼女の表情は凍りついた。

「何故生体実験を続けている?
 確か止めると…そう約束した筈だったが?」

「そ、それは…その……」

「答えろ…エリナ」

視線を逸らさぬままエリナに近付き答えを問うアキト…
そんなアキトに対してエリナは視線を逸らす事しかできず返答もままならなかった。
しかし彼女に助け舟を出したのはイネスだった。

「それより…さっき木星蜥蜴が生体ボソンジャンプの技術を得る前にっていっていたけど
 つまり彼らも私達同様相転移エンジンやチューリップを手に入れたに過ぎない…ってことよね?」

イネスは厳しい表情で顔をチューリップに向けたままエリナに問い掛けた。
そしてそれとほぼ同時に非常警報が鳴り響くのだった。

「フィールドジェネレーター破壊!」

「チューリップ内部より巨大なディストーションフィールド発生!」

「ボース粒子大量に検出!」

「え?」

突然の事に回りにいる職員達は慌しく動く回っている。
先程のイネスの問い掛けにどういう意味があったのか理解できないままエリナは突然の出来事に呆然としていたが
その隣ではアキトが淡々とした口調で今起こっている事の予測をした、そしてそれはまさに最悪の事態となった。

「実験機がもしも敵の母星まで到達していたとしたら気付くだろうな、地球側の生体ボソンジャンプ実験の開始を。
 そうなれば考えられるのが実験の妨害、そして破壊……くるぞ!」

アキトの声と共にその場に居る全員の目の前でチューリップから現れたのは巨大な人形をした2体の機動兵器だった。
そしてそれは完全に姿を現すと活動を開始した…その直後辺りは閃光に包まれるのだった。



























「カワサキシティに木星蜥蜴出現」

木星蜥蜴の襲撃はドックに停泊中だったナデシコにすぐに知らされる事となった。
そしてクルーの大半がナデシコに戻ってくると副長であるジュンの指揮の下、迎撃に向かうのだった。



「な、なにぃ!?ゲキガンガーが相手だと!?」

「ホントそっくり〜」

敵を映したスクリーンを見た途端ガイが驚きの声を上げた、そしてガイ同様ゲキガンガーをよく知っているヒカルも驚きを隠せないでいた。
何故2人が驚いているのかというと、敵機動兵器と思われる機体が彼らのよく見るゲキガンガーというアニメに出てくるロボットに酷似していたからだ。

「連合軍は全滅か…」

「敵は小規模ですがグラビティブラストを持っています」

そんな2人を横目にアカツキは状況をいち早く確認する、それに続いてルリが敵の情報をパイロット達に告げた。
その後ジュンとゴートにより部隊編成が告げられるとパイロット達は出撃して行った。
ちなみに陸戦フレームはヒカル、イズミ、リョーコ、砲戦フレームはガイとイツキ、そして空戦フレームはアカツキという編成内容だ。
相手は大きいながらもたったの2機…それに対してこちらはアキトが不在ながらも6機もいるのだ。
本来ならばてこずるようなことはなかったのだろうが今回だけは相手が悪かった。






「たぁぁぁぁぁぁぁ!
 フィールドが…なんだぁ!喰らぇ!」

機動兵器同士の戦いが開始されて早々、リョーコが敵の機体に取り付こうとした。
だが強力なフィールドに阻まれ押し返されかけたがリョーコは力押しで無理やり破ろうとした、しかし…

「なにぃ!?」

突如として目の前の相手が消えてしまい、いきなり抵抗がなくなった為にバランスを崩しかけたところに
今度は何もなかった背後に敵が現れ攻撃を仕掛けてきた。

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」

「リョーコぉ!」

辛うじて直撃は免れたものの、リョーコは何がどうなっているのか分からなくなっていた。
そしてそれは目の前で見ていたヒカルも同様だった。
その光景は他のところでも見られ、エステバリス隊の攻撃は敵に致命的なダメージを与えることはできなかった。
そして逆に動揺したこちら側が劣勢に追い込まれていった。

「何あれ…訳わかんないよ!」

「落ち着いて!私が前に出ます!」

まるで瞬間移動をして自分達に攻撃してくる敵に対してヒカルはパニックに陥りかけていた。
そんなヒカルに対して毅然とした態度で彼女を諭すとイツキは敵の一体に向かって突撃していった。
そしてワイヤードフィストを放ち、敵に絡ませると自ら敵に圧し掛かり至近距離からの攻撃を行った。

「繋がっていればいくら瞬間移動されても同じことです!」

絶間なく浴びせられる砲撃に堪りかねたのか敵の機動兵器は光と共にその場から消えた、イツキのエステバリスと共に…。
そしてこの事は後に悲劇を生む事になる。

























その頃アトモ社に居たアキト達は奇跡的に瓦礫の下敷きになるような事もなく掠り傷程度の怪我で済んでいた。
そして今は何処から取り出したのか双眼鏡を手に完全に観戦モードに入っていた。
本来なら艦長であるユリカとパイロットであるアキトはナデシコに向かわなければいけないのだろうが
ナデシコは敵機動兵器を挟んで反対側に居る上に、そこに行くまでの交通手段がなかったのだ。
コミュニケで通信を送って迎えに来てもらえばいいのだろうが、そのコミュニケはアトモ社に入る折外しており
今頃は恐らく瓦礫の下敷きになっていることであろう。
そんな訳で4人は現在も半壊したアトモ社のビルの上で戦いを眺めているしかなかった。
そしてエリナとアキトが恐れていた事が遂に起こってしまった。

「いけない!もしあれがボソンジャンプなら生身の人間は…」

エリナの叫びと共に戦場ではイツキの機体が光と共に敵機動兵器と消失し数瞬後、少し離れた場所に再び光と共に現れた。

















光と共に現れた2機の機動兵器はその場に重なって崩れ落ちた。

「イツキ!大丈夫か!おい、イツキ!?」

「…だ、大丈夫です。
 暫く…動けそうにないですが……」

再び現れたがいいが全く動く気配のないイツキのエステバリスに向かってリョーコが話し掛けると弱々しい声ながらもイツキが返信してきた。










「あれは…ボソンジャンプじゃなかったの?」

その光景を遠くから見ていたエリナは唖然とした表情で双眼鏡を覗いたまま呟いた。

「いや…あれはボソンジャンプだ。
 要するに、彼女も適格者だったというわけだ」

「「「!!!」」」

同じ様に双眼鏡を覗きこんでいたアキトがエリナの呟きに答えた。
そしてその言葉を聞いてその場に居た3人は一度はアキトに向き直ったが暫くすると再び双眼鏡を覗きこんで戦況を見守ることにした。










「よっしゃー!今度は俺様がやってやるぜ!
 とぉりゃーーー!!!」

先程の攻撃方法が的確と判断し、イツキと同じ砲戦フレームを駆るガイが勢いよくもう1機の敵機動兵器に向けて駆け出していった。
そして先程のイツキと同様にワイヤードフィストを敵に絡ませると敵に取り付き攻撃を開始した。
1発、2発と敵に攻撃を加えたが次の瞬間、ガイのエステバリスは敵機動兵器と共にその場から消え去った。
しかし数瞬の間を置いて敵機動兵器が出現するとガイのエステバリスは力なくその場に落下した。

「おい、ヤマダ?ヤマダーーー!」

「無駄よ…コクピットが……」

「そ、そんな…」

リョーコが叫ぶもイズミの言葉通り無駄だった…ガイの乗るエステバリスのコクピットは圧壊していたのだ。
あまりの事にヒカルもただ呆然とするしかなかった。
先程のイツキの時は何事もなかったのに何故ガイはダメだったのか…この場に居る者ではその理由は分かるはずもなかった。






この光景は当然ナデシコでもモニターしており、それを見た瞬間ブリッジ内は凍りついた、そして…

「い、嫌ーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」

突然メグミが絶叫した。
もはや艦内公認のカップルと言っても同然のような関係だったガイとメグミ…
そのガイがメグミの前で無残な最期を遂げてしまったのだ、当然といえば当然かもしれない。
一瞬、誰も反応できなかったがあまりの取乱しようにミナトが側に駆け寄って落ち着かせようとした。

「メグちゃん、しっかりして!メグちゃん!?」

「ガイさん!?ガイさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」

ミナトがしきりに押さえつけようとするも何処にそんな力があるのか、小柄なメグミからは考えられないような力を出しまったく押さえることができなかった。
それを見たゴートが2人に気付かれないように近付き背後に回るとメグミの首筋に向かって手刀を叩き込み気絶させた。

「ミ、ミスター!」

「すまんな…こうでもせんと舌を噛み切らんでもないのでな」

ゴートの手荒い行動にミナトが責めようとするが彼の言葉を聞いてさすがにそれ以上は何も言えなくなってしまった。
それほどメグミは錯乱していたのだ…
恐らくプロスが連絡したのだろう暫くすると医療班の人間が現れ、メグミを担架に乗せて医務室に向かっていた。
その間その場に居た者で喋ろうとするものは誰も居なかった。そして皆、彼女が無事立ち直ってくれる事を思わずにはいられなかった。







ブリッジが重苦しい雰囲気に囚われる中、先程ガイと共に現れた敵機動兵器に変化が現れた。

「何だ!?」

突如立ち上がり、いきなり胸の装甲が開いたかと思うと高出力のディストーションフィールドが敵機動兵器を包みこんだ。
その出力はまさに戦艦並みといってもいいだろう。
残ったエステバリス隊が攻撃を加えるもディストーションフィードに阻まれてまったく効き目がなかった。







この光景を見ていたイネスが双眼鏡から目を離すことなく呟くように隣に居るエリナに話し掛けた。

「最悪ね…最初から自爆用にプログラムされていたんだわ」

「自爆…?」

「あいつは周囲の空間を相転移しようとしている…
 ま、この街が消し飛ぶことは保障するわ」

あまりに普通に話すイネスに唖然としながらもエリナが聞きなおすと今度は視線をこちらに向けて
まさにお手上げというような表情で状況の説明をしてくれた。
その会話を聞いていたユリカももうどうにもならない状況に絶望しながらアキトに声を掛けた。

「ア、アキト…」

そんなユリカに対してアキトの方はまったく悲観的になっておらず
仕方がないといった風に一度溜息を付くと、エリナに向かって声を掛けた。

「……………エリナ、CCをすぐに持って来い」

「…え?テンカワ…くん?」

さすがにエリナもこの状況では最早何をしても助からないと思っていたのか、一瞬アキトの言った言葉の意味が分からなかった。

「急げ!時間がない!
 それともこのままここで消えてなくなりたいのか?」

「アキトくん…あなたまさか……」

アキトの言った言葉に意味に気が付いたのかイネスが驚いたように問い掛けた。
そしてアキトから返って来た言葉はその場に居る全員を驚かすには充分すぎるものだった。

「あまり気が進まないんだが…もうこれしか手が残ってないからな。
 見せてやるよ、CCを使った単独のボソンジャンプを…」

そう言うとアキトは未だに暴走を続ける敵無人兵器を睨みつけるのだった。




「ねぇ、あれ!」

最初にそれに気が付いたのはイズミだった。
いつの間にそこに現れたのか、ディストーションフィールドに包まれた敵機動兵器のすぐ側にアキトが立っていた。
そのイズミの声でリョーコもアキトの存在に気が付き驚きの声を上げた。

「テンカワ!?いつの間にあんな所に?」

「アキトさん!?」

そしてその光景は当然ナデシコの方でも確認されルリ達ブリッジクルーも驚きの表情で見つめていた。
アキトはエリナにCCを幾つか用意させるとそこから敵機動兵器の側までボソンジャンプしたのだ。
勿論その光景を目の当たりにしたエリナやイネス達はその場で呆然とした表情で立ち竦んだまま事の成り行きを見守っている。
アキトが後で迎えに来ると言った言葉を果たして聞いていたかどうかは怪しいものだが…
ジャンプし終えたアキトはエリナから手渡されたCCの幾つかを敵機動兵器が展開しているディストーションフィールドに向かって投げつけると
それはフィールドに張り付き、それを中心にして光が輝き始めた。

「おい!テンカワ!
 何やってんだよ、おい!」

「心配するな、すぐに戻る。
 場所は……ふん、月でいいか………………」

リョーコがアキトに向かって叫ぶが当のアキトの方はリョーコの乗るエステバリスを一瞥しただけで
彼女達に聞こえるかどうか怪しいような小さな声で呟き頭上を見据えると意識を集中し始めた。
そしてアキトと敵機動兵器を中心に光が煌き始め…

「…ジャンプ」

「テ、テンカワーーーーー!」

アキトが呟いたと同時に光の粒子だけを残してアキトと暴走していた敵機動兵器はその場から消え去った。
目の前で起こった突然の事にリョーコが叫ぶがアキトにその声が届く事はなかった。
突然の事に最初はイツキやガイの時と同じ様にすぐ別の場所に現れるのかとその光景を見ていた誰しもが
考えたがいつまでたってもアキトと敵機動兵器はその場に姿を現すことはなかった。
そして漸く自分達の危機をアキトが身を挺して救ってくれた事に気付くと重苦しい雰囲気が漂い始めた。
今回の戦いでナデシコは2人の仲間を失った事になるのだから…












「アキト…さん……嘘、ですよね?
 こんなことって……アキトさん………」

ナデシコのブリッジではシートに座ったままルリが呆然としながら呟いていた、その瞳は潤んでおり今にも涙が溢れそうになっている。
そんなルリに誰も声を掛ける事はできなかった、あまりの出来事に他の皆もただ呆然とするしかなかったから…
ただミナトだけがルリの側にいきどう彼女を慰めようと考えつつも声を掛け倦んでいた。
だからこそ皆気付くのが遅れた、ちょうどルリの背後に現れた光に、そしてその光が人の形を取り始めたことに…

「…呼んだか?ルリ」

「………?
 ア、アキト…さん?」

そしていきなり背後から掛けられた聞き覚えのある声に緩慢な動きで顔を向けると
そこには先程光と共に消えたアキトが立っていた。

「どうした、まるで幽霊でも見てるような雰囲気だな?」

「でも…さっき」

「すまんが説明はあとだ。
 まずはアトモ社に行ってくれ、イネスとユリカ達がそこで待っている。
 それとエステバリス隊も収容してやらないとな」

ルリや他のクルーの表情を見て苦笑しながら何事もなかったように声を掛けると
信じられないといった表情で問い掛けてきたルリを制してアキトは艦長席に居たジュンに向かって声を掛けた。

その後、アキトの無事を知った他のクルー達は喜ぶ者もいればリョーコやウリバタケの様に怒鳴り散らしてきた者も居た。
しかし格納庫に鎮座したガイの機体を調べ彼の死が確実のものとなった時、艦内は悲しみに包まれた。
数ヶ月間共にした仲間の一人が死んだ事はクルー達にとってショックな事だった。
それに彼は存在感もあったし、メグミとの関係のこともあった為に余計に悲しむものが多かった。
そんな重苦しい雰囲気の中、ナデシコは一旦ドックに戻る事になった。















現在格納庫ではイツキが行動不能に追い込んだ敵機動兵器の解体作業が行われていた。
本来その場で音楽など流れるはずはないのだが、解体作業を進めるにつれてその音量が大きくなり作業する者達の手を止める結果となった。

「誰だ〜ゲキガンガーなんか歌ってんのは!」

「違うっす、こん中からっすよ」

「んなわけあるか、無人兵器だぞ…」

整備班長のウリバタケが遂に痺れを切らし文句を言うが正面で作業している整備班の一人が反論をした。
しかしその整備班の反論はウリバタケからすれば納得のいかないものだった、何しろ現在解体しているのは無人兵器の筈なのだから…
だが頭部のハッチらしき所を開けると彼等は言葉を失った、そこは明らかにコクピットと呼べる内装をしておりそこからゲキガンガーの音楽が流れ出していたのだった。

この事により暫く後に今迄明かされていなかった事実の一つが露見する事となる。










あとがき



こんにちわ、双海 悠です。
実に約3ヶ月ぶりの更新となりました………
これを読みに来てくださっている方々、ホントにスミマセンでした!(汗)
まさか自分でもここまで間隔が空いてしまうとは思ってもみませんでした(^^A
取り敢えずここで言い訳はしないでおきます、どうせ愚痴しか出てきませんので(笑)

さてさて作品の方ですが…
ガイ、ここで力尽きちゃいました、てへっ♪(オイ
3ヶ月前の時点ではこんな展開になるとは思ってなかったんですけどねぇ(^^;
色々と考えている内にこういう展開となってしまいました
イツキをTV版通りの展開で逝ってもらってもよかったんですが(マテ
思い留まってみました、何故か選択肢の中には全員無事というのはなしです(爆)
果たしてこれが吉と出るか凶とでるか…私にも分かりません(笑)
すでにメグたんをどうしようかと色々悩んでますしヽ(´ー`)ノ
それからアキト君の新型機、結局花の名前で落ち着かせてみましたー
これは実際かなり悩みました、2日は確実に掛かってます(ぉ
取り敢えず花言葉は意味はありません、個人的に恰好よさそうな名前を選んだつもりです
まぁ機体性能とかは敢えて書かないでおきます、ボロでそうですし
何かおかしくない?とかって思ってもどうか見逃してやってください、メカには弱いので…私(笑)

それではまた次回のあとがきにて…
失礼します〜(ペコリ)

おしまい


ご意見ご感想等があれば、遠慮なくこちらへメールを下さい♪



【メニューに戻る】
NEXT:『????』