平成21年5月5日
毎年5月5日瀬戸内市牛窓の千手山弘法寺で行われる踟供養(ねりくよう)は、阿弥陀仏が極楽浄土からこの世へ死者を迎えに来る
「来迎」の浄土信仰をもとに、六観音が中将姫を極楽浄土に来迎する有様を劇化して、浄土信仰を身近に感じさせる行事ではないかと思います。
つまり、、六観音らの一団があの世からやってきて(弘法寺石段を降りてきて行道橋を渡る)、往生者(中将姫の小像)を連台に乗せて、
阿弥陀仏の待つ極楽浄土(弘法寺東寿院)へ導くというふうに感じました。煌びやかで神々しい行事に感動を覚えます。
この弘法寺は、報恩大師の建立した備前四十八カ寺の一つであり全盛期には七堂伽藍のほか、四十八の僧房があり、
山嶽仏教の一大道場として栄えた歴史があり、現在は遍明院、東寿院二カ寺となっていますが、
その山容は、霊地として荘厳な趣きがある名刹です。
弘法寺の踟供養は、中将姫伝説の本元である奈良県当麻寺と岡山県久米南町の法然上人生誕地の誕生寺の練供養と共に
日本三大練供養と言われています。


正面本堂から石段を降りれば約40米の行道橋が設えてあり、奥の幕の間が中将姫(小像)が菩薩の御来迎を待つ場所

弘法寺遍明院
午後2時から本堂では法要が行われます。僧侶と稚児が円陣を
作って読経しながら内陣を回ります。
外ではご信徒の方が、美しいご詠歌を流し、清浄な空気に包まれます。

午後3時過ぎ、印金の清澄な音が響くなか、導師が捧持した中将姫の
小さい御像が石段を降りて行道橋の奥に向かいます

中将姫の像は、行道橋の幕の間に安置されます。


行列は警護役の棒を持った役に続いて花稚児,ホラ貝、どら、僧、稚児、天童、地蔵、
後尾は六観音というような順序で、総勢70人ほどが2列になって進んで来ます。
行道橋の袂で僧侶がハスの花を模った紙を空中にまく散華がありました。
行列は順に行道橋の両側に並び最後尾の六観音のお通りに道を開けます。


天童2人(紺の衣装)は仏面を被っているので付き添いが付いています。

錫杖を持つ地蔵2人も仏面を被っています。

終始合掌し、付き添いに誘引された六観音は中将姫の像の前に進み出て、中将姫の受け渡しの儀式をします。
菩薩は、中将姫を僧から受け取って後ろの観音の持つ連台の上に置きます。
観音は、儀式の途中、三度膝を曲げてのお辞儀を繰り返して厳かに儀式を進めます。踟供供養の中で敬虔で荘厳な情景に感動を覚えます。


観音は、現実に捉えれば往生者を迎えに来る
「迎え人」ならぬ「迎え仏」の使者なのでしょうか。心打たれる瞬間です。


中将姫受け渡しの儀式が終わって約三百米先の弘法寺東寿院へ
ゆっくりと進みます。


弘法寺東寿院
東寿院では、中が空洞になっていて人がが入っている
「迎え仏」の阿弥陀如来が、両側の人に支えられて
行列の来るのを待っています。
この阿弥陀如来の洞内には、永仁四年の銘(1296)があるそうで、
鎌倉時代からの歴史が感じられます。

中将姫の像を捧持した観音が東寿院に着きました。
迎え仏の阿弥陀如来は、両側の役に支えられて、お辞儀をして
迎えます。
行列一同が東寿院に入って荘厳な行事が、聖なる余韻を残して
終わります。