プロローグ



2185年、火星

ゴォォォ……

空港から1機の星間宇宙艇が飛び立つ
そしてそれを見送る一家…

「行っちゃったわね…、ユリカちゃん」

母親らしき人物が息子に向かって言う

「どうしたアキト、涙ぐんだりして…」

父親らしき人物も息子の雰囲気に気がついたのか顔を除き込みながら訊ねる

「……(やっとあの地獄かあら開放される)」

そしてその息子は内心そんな事を考えていた

父はテンカワ・タクマ、母はサトミ、そして息子はアキトという
この火星でネルガルの研究チームに携わっている一家だ
今日はお隣に住んでいたミスマル一家が急に地球へ引っ越すこととなり、その見送りに来ていたのだ

「アキトはユリカちゃんと仲良かったものね」

「そ、そんなことないやい!」

サトミはニコニコしながら息子に向かって笑いかけるがアキトの方は顔を赤面しながら否定する…
(なんで母さんはあれで仲良かったように見えるんだろう…)
そんな事を思いながらもアキトは過去に有ったさまざまな事を思い出し冷汗をかいているのだった…

「さて、見送りもそろそろいいだろう。家に戻るとしよう」

「そうですね、夕飯の支度もしないといけませんからね」

そう言った両親に促がされながらアキトは家路につくのだった。
それまで今日は人生最良の日だと信じて疑わず……


そしてそれは空港を出てすぐに起こったのだった
ドカァァァァァン!!!!!
突然の轟音と衝撃…
まだ小柄なアキトはその衝撃により吹き飛ばされてしまうがすぐに両親が駆けつけて来た

「大丈夫か!アキト!」

「大丈夫?アキト…」

両親は心配そうな顔をして息子の顔を覗き込む

「うん…、大丈夫……一体何が起こったの?」

強がりを言いながら両親に心配を掛けまいとするアキト
そして後ろを振り返ってみると、空港から所々火の手が上がっていた…
あまりのことに言葉が出ないアキト

「ここから早く離れよう」

「そうね、アキト行きましょう…」

そう言われ両親に手を引かれ足早に現場を離れようとするアキト
しかし運命の歯車は既に狂い始めていた、彼にとって最悪の方向に…

「……テンカワ博士とそのご家族ですね?」

2人の黒いスーツ姿の男達にいきなり背後から声を掛けられ驚きながらも返答するタクマ

「そうだが……君達は?」

「ネルガルシークレットサービスの者です…」

「博士たちの保護に参りました」

そう男達は返答したがそれを聞いた瞬間、両親の顔は明らかに緊張したような表情に変化したのをアキトは見逃さなかった
暫しの沈黙の後、黒いスーツの男が口を開いた…

「…………こちらに車を用意してあります、お急ぎを」

そういって未だ火の手を上げている空港の方を示した
それを見て、タクマは何やらサトミの耳元に小声で呟いた後

「わかった、ではそっちに行くとしよう…」

そう言って2人の男達を促がし歩き出そうとした瞬間
一人の男に体当たりしもう一人の男とぶつかる様にバランスを崩さすと大声で叫んだ

「逃げるぞ!!!」

そうタクマが言った瞬間には既にサトミはアキトを腕に抱き走り出していた
男達が自分達を助けに来たわけではなく、ネルガルの意志に従わない両親を殺しに来たという事には
この時のアキトにはまだ分かっていなかった…

体当たりされバランスを崩した男達はすぐに体制を立て直し、懐からサイレンサー付きの銃を取り出すと
3人が逃げて行った方に向かって走り出した

サトミからアキトを受け取り全力で走るも、タクマは逃げ切れる自信はなかった
せめて人通りの多い所までと思っていたのだが、先程の空港の爆発があったせいで人通りは少なく
逆に人通りが少ない方へと逃げて込んでしまっていた…このままでは拙いと思い引き返そうと体を翻した時
『プシュッ』という空気を切り裂く音がし、同時に足に激痛がはしった

「ぐわっ!」

タクマはアキトを抱きかかえたまま地面に倒れ込んだ

「あなた!」

サトミがタクマに近寄り肩を貸そうとした時、正面から先程の男達が近付いてきた…

「あまり面倒を掛けないで欲しいですね、テンカワ博士…」

銃を構えながら近寄ってくる2人にタクマとアキトを庇いながらサトミが涙ながらに叫んでいた

「お願い!私達はどうなっても構わないから…
 この子だけは…アキトだけは助けてください!!」

しかし、この叫びには男達には届かず一言だけ言い放つと銃の引き金を引いた……

「すまないな、これも上からの命令なんでね…
 3人とも始末しろってな……」

男は言い終えると同時に銃の引き金を引いた
そして立て続けに3発の銃声が聞こえたと思うと「ドサッ」っという音と共に
サトミは地面に倒れ伏した、そして広がっていく血溜まり…

「サトミーーーーーー!!!」
「母さーーーーーーーん!!!」

男が放った銃弾は1発も外れることなくサトミの身体に消えていき、彼女の命をいとも簡単に奪った…

「心配するな…すぐに逢える……」

もう一人の男が銃をこちらに向けてそう言い放った瞬間、またも3発の銃声が聞こえた
その銃弾は母親に駆け寄ろうとしたアキトの小さな身体に吸い込まれるように消えていった
そして母親の元に辿り着く寸前「あっ」という小さな声と共に倒れた

「ア、アキトーーー!!
 き、きさまら……」

タクマは撃たれたアキトに駆け寄りグッタリとした体を抱きかかえつつ涙した
そう、自分のせいで妻も息子も撃たれたのだから…

「では博士、妻子のもとへと送って差し上げましょう。
 あの世というのもがあるなら、そこでお幸せに…」

そう言った男はこれで嫌な任務から開放される、そう思いつつ銃を構え引き金に指を伸ばした…

タクマはサトミとアキトを抱きかかえ涙しながら最後の時を待ったがいつまでも経っても銃声は聞こえなかった
聞こえてきたのは複数の声と男達の怒声そして悲鳴であった

「少々遅かったか…」「どうします隊長?」
「だ、誰だ貴様ら!!」
「現場を見られた、構わん!殺れ!」
「……滅!」

どうやら目撃者が現れたらしい…そうタクマは考えていた
そしてその人達も自分たちと同じ運命を辿るのだと思い悔やんだ
まったく無関係な人達までも巻き込んでしまったのだから
しかし聞こえてきたのは銃声と共に聞こえる驚愕の声だった

「なっ!?」

ドシュッ!

「ぐわっ!」

「き、貴様ら一体……『ズバッ!!』ぎゃっ!」

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「テンカワ博士だな?我々と一緒に来てもらおうか…」

顔を上げると網笠を被った男が目の前に立って私を見下ろし、そう言い放った
そして声を出そうとした時、腕の中のアキトが微かに動くのが感じられ、僅かに声をあげた

「と、父さ…ん…痛…いよぉ……」

「ア、アキト!大丈夫か!?しっかしりろ!!」

そしてタクマは目の前の男に向かって頼み込んだ

「君が誰なのかは知らない!助けてくれたのには礼を言う…
 一緒に来いと言うなら一緒に行く!だから…だからこの子を助けてくれ、頼む!!!」

タクマはアキトを抱きかかえたまま男に向かって土下座した
暫くの間があり、そして男はこう言った…

「ふっ、まぁよかろう…治療はしてやる、だが助かるかどうかは
 そやつ次第だ。弱い者は死ぬ、それが自然の摂理だ…
 それとそなたの妻の遺体も引き上げる、自らの手でともらってやるがいい…」


そして男は一緒にいた男達に命令し、サトミの遺体と共に私達を連れていった
タクマはその時アキトが助かる事を祈りつつ、最愛の妻の死という現実を直視していた
さらにネルガルに対しての復讐心と共に……
ふと彼らの名前を聞いていない事を思い出し、改めて聞いてみた

「ところで…君の名は?」

「…北辰」

そしてこの場に残されたのは2人の男の切り刻まれた遺体だけだった…

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それから10年…
とある草原に光の粒子と共に黒衣の青年が現われるのだった
一体の巨人を携えて…





あとがき


はじめまして、双海 悠です。
今回、ナデシコのSSを初めて書いてみました
ずーっと前から思ってたことを今回書いてみようと思ってます
それはTV版を見てるとOPでやたらと格好いいんですよ、アキトくんが(笑)
ですから、そんなアキトくんが書いてみたくてこのSSがスタートしました
果たして何処まで上手に掛けるか分かりませんけど、頑張ってみようと思います
呆れずに最後まで読んでいただけると幸いです…
それでは次回のお話をお楽しみに
でわでわ〜


おしまい


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