第1話 死神と呼ばれた男



木星蜥蜴の侵攻が地球圏にまで及んで半年…
地上の各地では木星蜥蜴の無人兵器による攻撃が行われていた。
当初は苦戦を強いられていたが、ネルガル重工製の機動兵器『エステバリス』が
投入されて以来、少しは互角に近い戦闘が行われるようになっていた。
しかし、だからといって戦局は思わしくはなかった。
欧州、オセアニア、極東方面はまだマシな方だった、最も酷いのは北アメリカ方面で最前線は激戦区となっていた…

だがそれも1ヶ月程前から少し事情が変わってきていた。
たった1人の傭兵が1体の機動兵器と共に現れて以来戦死者数が激減し、敵無人兵器の撃墜数が異様に上がったのである。
その男の腕前は確かに超一流だった、戦闘能力、判断能力、その他どれをとっても現存するパイロットの中では
太刀打ちできる者は居ないのではないかと噂されていた。
しかしそれ程の腕前を持ちながらも、その男の戦い方は一言で言えば異常だった。
敵を殲滅する為には味方の犠牲すら伴わないのである、むしろ単独行動により味方を危機に陥れることの方が多かった。
そのせいか既に男が配属された部隊は2つ壊滅していた。
そしていつしか男はその風貌から『漆黒の死神』の異名で呼ばれるようになり味方からも恐れられていた。
男の名はテンカワ・アキト…その顔はバイザーをしている為に口元しか見えず、漆黒のマントを身に纏い
自ら駆る機動兵器も漆黒に染め上げていた。


そして今日も木星蜥蜴との戦闘に向かっている。
近くの街に敵無人兵器が現れたということで、1小隊(内エステバリスは4機)のみでの出撃であった。

「隊長…何で急にあいつが配属されたんです?」

移動中のトラックの中で1人のパイロットが初老の隊長グレンに尋ねる。

「さあな…上の考えてることはわからんよ。
 まぁ奴の腕前はお前も知ってるだろう?
 今回は心強い味方さ…」

そう言ってグレンはトラックの奥の方で身動ぎひとつせず沈黙しているアキトの方を見た。

「しかし隊長、聞いたことはあるでしょう?あいつの噂は…」

今度はグレンの正面にいた男が尋ねてきた。

「何だエリック…お前もか……。
 確かに噂は聞いてる、なんでも死神とかって言われてるらしいな
 だが奴の腕は確かだ…俺達が束になって掛かっても勝てないほどにな
 ま、見た目は確かに死神に見えないでもないがな」

そう言って、グレンはクックックッと笑った
なんな様子を見ながら最初の質問をしたパイロットは今まで疑問に思っていたことを口にした。

「ですが…それって、あいつが乗ってるエステが特殊だからじゃないんですか?」

「ロイ、お前知らないのか?
 今のお前みたいに思った奴がいてな…
 奴のエステのデータをシミュレーターに入れてやったらしい
 …どうなったと思う?」

グレンがそう答え、エリックがロイと呼ばれた仲間にニヤニヤしながら言葉を続けた。

「1分持たなかったって話だぜ…
 しかも1週間ほど病院の世話になったらしい
 つまりだ…あいつのエステはあいつにしか操縦できないって事だ」

そう言った後、エリックは併走している輸送トラックに搭載されているアキトのエステバリスを眺めた…
アキトのエステバリスは一般のエステバリスとは大きく違っていた。
まず機動性を高める為に大型のスラスター等を追加装甲と共に装着させ
更に最大出力を上げる為にフィールドジェネレーター等も追加してある
そのせいで全長が一回りほど大きく、まさに鎧を纏っているような感じになっていた。
一目ではとても同じエステバリスに見えないほどに…
そしてそれが漆黒に染め上げられているのだ、威圧感はかなりのものである
ちなみにそのエステバリスを持ち込んできたのは他ならぬアキト自身だ。
一体何処でエステバリスを手に入れたのかは謎だが個人所有として認められていた。
どのみちアキトにしか操縦できないのだから…

いつの間にか他の2人もエリックと同じようにアキトのエステバリスを眺めていたが
アキトの声によって現実に引き戻された。

「…隊長」

それは静かだったが響きのある声だった。

「どうした、テンカワ?」

「………奴等が来る」

「奴等?木星蜥蜴の連中か?
 だが索敵班の連中からは何も……

アキトの言った言葉を訝かしみながらそう言おうとした瞬間、車内のスピーカーから連絡が入り
走行中だったトラックは急停止していた。

「敵無人兵器がこちらに向かってきます!
 隊長!至急戦闘準備をお願いします!!」

その報告に驚愕し、何故この事が判ったのかアキトを問いつめようとした時には
既にアキトは自身の愛機『ブラックサレナ』に向かって駆け出していた…

       ・
       ・
       ・
       ・
       ・
       ・

普段無人兵器はバッタ、ジョロをあわせても大体50機程度で行動していた、大規模な戦闘でもない限りは…
しかしこの時はそれを遙かに上回る数だった。
おそらく軽く200機は越えていただろうというのが、生還した隊員の言葉だ。
そしてそのほとんどを撃墜したのがアキトだということも…

この時の戦闘はまさに熾烈を極めた。
無人兵器は人工知能及び学習能力があるらしく、まずは指揮車を潰しに来る
指揮車にはエステバリス部隊の生命線とも言えるエネルギーフィールドを発生させる装置を積んでいる
これが破壊されてしまうとエステバリスは内蔵のバッテリーのみでしか稼働できない
バッテリーは長く持っても10分ほどである。
通常は比較的離れたところで待機するのだが、今回は敵襲を受けた為に待避が出来なかったのだ
そして指揮車を守ろうとしながら敵を撃破していくグレン、エリック、ロイのエステバリス…
アキトは既に敵陣奥深くで戦闘に突入している為に援護は期待できない
しかし多勢に無勢である、いつしか隙をつかれ指揮車は破壊されてしまった。

「た、隊長!このままじゃ…」

「くっ、救援信号は送ってある!
 何とか持ちこたえるんだ!!」

弱音を吐くロイを叱咤しながらも、グレン自身現状のままではどうにもならないことは悟っていた。
そう、奇跡でも起きなければこの劣勢はひっくり返せはしなかった。
被弾箇所は増え続け、既にコクピットの中は警告表示で赤く染まってる
エステバリスが行動不能になるのはもはや時間の問題だった。
このままでは遅かれ早かれ全滅する、そう考え始めていた矢先…

「うおぉぉぉぉ!?」

エリックの叫び声が聞こえ、そちらに視線を向けると倒れ込んだエステバリスに無人兵器が群がっていた。
そして、轟音が辺りに響き渡った……エリックのエステバリスの爆発と共に

「エリィィィィック!!!」

無人兵器達は一番損傷の激しかったエリック機を集中して攻めていた。
それをカバーしようにもグレン、ロイ共に自分のまわりに居る無人兵器を
相手にするのが精一杯だった…そして、その結果がこれである

「こうなったら俺が奴等の注意を引きつける!
 その間にお前は逃げろ!」

「無茶です隊長!
 それに…逃げ切れるほどのバッテリーは残っていません」

すでにエステバリスの活動限界は目前に迫っていた。
その後も2人は奮闘したがついには追い込まれ、見渡す限り無人兵器しかいなくなっていた。
そして気が付けば部隊は2人を残して壊滅していた…

「すまんな、ロイ…どうやらここまでのようだ」

「……隊長」

そんな会話を交わした直後にエステバリスの電源が落ちる
そしてバランスの取れなくなったエステバリスは地面に倒れ伏した…
真っ暗になったコクピットの中でグレンは最後の時を待った。
しかし何時までたっても何も起こらなかった、だが爆発音は確かに聞こえる
そしてグレンはこの時になってアキトの存在を思い出した。

「…まさかテンカワか!」

グレン自身は指揮車を落とされた時点でアキトも撃墜されると思っていた。
いかに腕前が超一流であってもエネルギー切れになれば動けなくなるのだから…
動かなくなったエステバリスから這い出たグレンが見たものは信じられないものだった。
数十という無人兵器を相手に見る者を魅了するような、しかもまるで舞うかのような動きを見せる漆黒のエステバリスがそこに居た。
両腕に装着されたハンドカノンで無人兵器を正確に打ち抜きつつ、フィールドを張りながらの突進攻撃
無人兵器から多数打ち出されるミサイルを紙一重で回避しながらそれらをやってのけるアキト
通常では考えられないようなスピードでエステバリスは戦場を動き回っている
もちろんそれはアキトだからこそ出来る動きなのだが…
そしてその光景が数分程続いた後その場には動くものはなかった、漆黒のエステバリスを除いて…
戦闘終了後グレンは不思議に思っていた、何故彼のエステバリスだけが稼働し続けたのかということを









この戦闘があった後、アキトはやる事がなくなっていた。
敵味方の部隊共々壊滅させてしまう漆黒の死神の噂が広まってしまった為にどの部隊でも扱いかねていたからだ。
何しろ救助に向かった部隊が見たのは、無傷で立つ漆黒のエステバリスのまわりにある無数の残骸だったのだから…味方を含む
アキトがやった訳ではないしろ、そんな光景を見て思い出すのは死神の異名の方だった。
さすがに3度目ともなるとその噂も無視できなくなる…おかげでそれ以降、アキトはどの部隊からも酷く煙たがられていた。
この日もやることがなく、ひとりブラックサレナの整備をしていると格納庫に入ってくる2人組が居た。

「テンカワ・アキトさんですかな?」

そしてアキトの前で立ち止まると不意に声を掛けてきた。

「…俺に何か用か?」

「実は私こういうものでして…」

そういってちょび髭を生やしたサラリーマン風の男が差し出してきたのは名刺
アキトはブラックサレナを整備する手を止め受け取ったそれを見ると一言…

「…………プロスペクター?…本名か?」

「いえいえ、ペンネームみたいなものでして
 そしてこちらはゴート・ホーリー、私の部下です」

ゴートと呼ばれた巨漢の大男はアキトに向かって僅かに頭を下げていた。

「で、ネルガルが俺に何の用だ?」

アキトがプロスペクターをバイザー越しに睨みながら問いただすと
眼鏡をクイッと上げながら答えた。

「あなたをスカウトに来ました」

「スカウト?俺をか?
 ……それはパイロットとしてか?」

アキトはそう言いながら愛機に目をやった。

「もちろんですよ
 我々は現在一流のスタッフを集めています、そしてテンカワさん
 その中にあなたは含まれているんですよ」

プロスペクターはブラックサレナを見た後、アキトに視線を戻し言葉を続けた。

「現在我が社では新型戦艦を建造中でして…
 どうしてもパイロットが必要なのですよ
 そしてあなたに目を付けた…と、いう次第でして
 そうそう、この基地の司令官の方には既に話は付けおりますので…」

「一企業が戦艦ね……
 それにしても随分と手回しがいいな
 …………いいだろう、ちょうど此処にも居づらくなってたんでな、その誘いを受けよう」

アキトは呆れながらも少しだけ考える素振りを見せただけで簡単に承諾した。
そしてそれを聞いたプロスペクターは何処からともなく一枚の紙を取り出した。

「契約書です…善は急げといいますからね
 ここに記入をお願いできますか?」

何処から出てきたのか分からない契約書に驚愕しながらも受け取り、それに注意深く目を通していく
そしてとある一ヶ所のことで暫く話し合いをし無事にそれを無効にさせた。
プロスペクターはかなり渋ってはいたが…
その他に幾つかの要望を盛り込んだ後、契約書に書き込む直前になってアキトはひとつ聞いてみることにした。

「あんたらのことだ、既に俺の事は全部調べ尽くしてるんだろう?」

「もちろんです。
 テンカワ・アキト、19歳。火星のユートピアコロニー出身。10年前、火星のクーデターで行方不明に…
 1ヶ月ほど前にこの北アメリカ方面に傭兵として現れ、のちに『漆黒の死神』と呼ばれ現在に至る
 そして……テンカワ博士のご子息でもある」

アキトの問いにプロスペクターは淡々と答えた。
最後の所は若干言い淀んではいたが…

「そこまで調べておいてよく俺を誘う気になったな…
 一体何を企んでるんだ?」

アキト笑いながらもそう言うと契約書にサインし、それをプロスペクターに手渡した。
契約書を受け取ったプロスペクターはそれを確認しながらひとつだけ聞いてみることにした。

「テンカワさん…ひとつだけよろしいですか?」

「ひとつだけならな…」アキトはそう言って戯けて見せた。

「では……お父上は、テンカワ博士は生きているのですか?」

その瞬間アキトの雰囲気が一変した、有無を言わせぬような重圧が辺りを覆う
それまで一言も口を開かずプロスペクターの側にいたゴートが即座に彼を庇うように前へ飛び出した。
しかしその重圧も一瞬のことで辺りは何もなかったように静寂に包まれる
そして気が付けばアキトはマントを翻し奥に歩き始めていた、そして去り際に
「……もう死んだよ」と答えていた。

アキトが立ち去った後も暫く2人は動けないでいた…

「ミスター、本当によろしいのですか?」

「ええ、私達には彼が必要なんですよ
 それにしても、死神の一面見させてもらえるとは思いもしませんでした
 もしかすると私達はとんでもない人をスカウトしたのかもしれませんなぁ」

そう言いながら2人はその場に鎮座する漆黒のエステバリスを見上げるのだった…



あとがき


こんにちわ、双海 悠です。
こんにちわ、アシスタントのホシノ・ルリです(ペコリ)
悠:遂に本格的にスタートです、此処までが長かった(遠い目)
ル:そうですね…散々書き直してましたからね、大して変わらないのに…
悠:ルリさん、妙にツッコミが厳しいですね(汗)
ル:当たり前です!元々は私とアキトさんのラブラブなSSの筈だったのに…何ですかこれは一体!?
悠:何って…S『スッパーーーーン!!!』 グハッ
ル:そんな当たり前なことは聞いてません(ギロリ)
悠:ハ、ハリセン…一体何処にそんなモノを……
  どっちにしても仕方ないんだよ、私には恋愛物は書けないと判明した時点で!(爆)
  と、取り敢えず(今は)アキト×ルリ路線では行くつもりだけど、甘いモノにはたぶんないらない
  だからそんな目で睨まないでください(滝汗)
ル:そうですか…だったらまぁ良しとしましょう
悠:あと基本路線はシリアス系を目指すつもり…まぁこれは私の表現力次第かな
ル:じゃあ無理ですね(きっぱり)
悠:ぐっ…あとは主人公最強主義(笑)なのでそういうシナリオになるでしょう
ル:当然です!アキトさんは強くて格好いいんです(ポッ)
悠:はいはい、ご馳走さま。
  取り敢えずアキトくんは既に最強の名を欲しいままにしてます(笑)
  そしてネルガルにもスカウトされました
  今後は出来るだけ早めにTV版の話に近づけていきたいと思ってます
ル:次回は私との運命の出会いですね!?(ポ〜ッ)
悠:トリップした人はおいといて…
  まだ始まったばかりですが、気長にお付き合いしてくださる方がいれば幸いです
  それではまた次回にてお会いしましょう〜
ル:はぁ〜運命の出会いによる誰にも阻むことの出来ない2人の恋物語…アキトさ〜〜〜ん
悠:完璧に逝っちゃってるよ…(汗)


おしまい


ご意見ご感想等があれば、遠慮なくこちらへメールを下さい♪


NEXT:「金色の瞳を持つ2人」