第2話 金色の瞳を持つ2人



アキトの元にプロスペクターとゴートが訪れて1週間後…
1機の輸送機が北アメリカにあるニューデリー基地に到着していた。
その機体にはネルガル重工のマーキングがされており、現在は物資の積み卸しを行っていた。
そしてその光景を眺めながらアキトは呟いた…

「なるほど、話を付けたとはこういうことか…」

アキトが言っているのは先日プロスペクターが言った「基地指令とは話を付けた」という言葉の裏にあったことである
現在行われている物資の量はどう考えても通常よりも多いのだ、しかも一企業から直接になのだ。
つまりネルガルはアキトを通常よりも水増しされた物資と引き替えにしたということだった。
しかしアキトはその事に対して別段怒るわけでもなく、ここまでしてアキトを欲しがるプロスペクターに興味を持っていた。

やがて物資の積み卸しも終わり、今度は積み込みが始まる
そして積み込まれているのはアキトのブラックサレナだった。
トレーラーに固定された漆黒の機体はゆっくりと輸送機に積み込まれていく
それを確認するとアキトはその場を離れ、輸送機に向かって歩き始めた。




「…むぅ」

輸送機に同乗して来ていたゴートは少しだけ焦っていた
物資の搬出は既に終了し、現在は荷物の積み込みが始まっている。
だが肝心のテンカワ・アキトが現れないのだった…
当初の予定では既に乗り込んでいてもらわないといけないのだが何処かに姿を眩ましてしまっていた。
離陸の時間も迫ってきていたのでそろそろ探しに行かないといけないか、そう思っていたところに

「…待たせたな」

「!!…テンカワか、脅かすな…
 一体いつから其処にいたんだ?気配を全く感じなかったぞ…」

ゴートは正直いってかなり驚いていた、ネルガルのシークレットサービスとしてかなりの訓練を積んでいたしそれなりに自信もあった
しかしアキトはそのゴートをもってすら気配すら感じさせなかったのである
当初は唯のパイロットと思っていたが今はその考えを改めさせられていた。
気配の消し方もそうだが立居振舞からして全く隙がないのだ、おそらく正面から戦えば負ける…そうゴートは感じていた。

「すまんな、少し荷物を取りに行っていただけだ…」

アキトは一言そういい輸送機に向かって歩き始めた。

「むぅ…」

相変わらず掴み所がないアキトに対してゴートは戸惑うだけだった
そして2人が乗り込んで暫くすると輸送機は離陸した、行き先は日本にあるネルガル本社である




















日本に到着したアキトはネルガル本社で一度プロスペクターと会い、契約に関しての再確認をした後
ゴートに連れられてネルガル研究所に来ていた。
これからネルガルの新造戦艦が完成するまでの間、ここで生活することになったのだ。
研究所とは言ってもここにはエステバリスの研究所や訓練施設もあるのでアキトにとっても不満はなかった。
当然ブラックサレナもここに運ばれてきていた。

ゴートによって宿舎に案内された後、アキトは案内を断り所内の地図を片手にひとり施設内を散策していた。
前もって本社の方から連絡があったとは言え、黒尽くめの男が歩いているとさすがに人目を引いたが…
そんな視線を気にとめることもなく地図を眺めながらアキトが施設内を歩いていると前方から1人の少女が歩いてくるのが視界に入った。
少女は髪をツインテールにしており、肌も人形のように白かった
そして最もアキトの目を引いたのはその金色の双眸であった…その姿はアキトの記憶の中にある1人の少女を彷彿させるのだった。

「私の顔に何か付いてますか?」

少女はアキトの目の前まで来ると問い掛けてきた…
気が付けばアキトは立ち止まり、少女を凝視していた。

「…すまない。
 君が知り合いに似ていたんでな、少し驚いたんだ」

「そうですか」

少女は特に気にした風でもなく無表情なままだった。
そしてそのまま言葉を続ける

「あなたが今日ここに来る予定のパイロットの方ですね?」

『何で知ってるんだ?』アキトがそう口を開こうとする前に少女は更に言葉を続ける
まるで目の前にいる青年が何を言おうとしたのかを知っていたかのように

「その格好を見れば誰でも分かると思います。
 昨日プロスさんから連絡がありましたから…
 黒色のバイザーとマントとした人が来るけど決して怪しい人じゃないって」

アキトはその言葉を聞いて思わず苦笑いをしていた。
どうやら事前にプロスペクターの方から連絡が入っているのは分かっていたが
そういう説明をされているとはさすがに思っていなかったのである

「自己紹介が遅れましたね
 私は新造戦艦のオペレーターをする事になっている
 ホシノ・ルリと言います、宜しく」

ルリと名のった少女はそう言ってペコリと頭を下げた

「テンカワ・アキトだ
 知っての通りパイロットだ」

アキトも少女に向かって名のる
そして少女の方に目を向けると何やら不思議そうにこちらを見ていた。
表情にはあまり表れていないがアキトにはそんな風に感じられた…

「あの…テンカワさん、一つ聞いていいですか?」

「俺のことはアキトでいい…
 で?なんだ?」

ルリがアキトに向かって気になっていたことを尋ねようとすると
アキトはそんなルリに自分の事は名前で呼ぶように言い、そのまま質問を促した

「わかりました。
 私のこともルリでいいですよ、アキトさん
 聞きたい事というのはそのバイザーのことです
 何でそんなモノをしてるんですか?」

「…………」

ルリもアキトに対して自分のことは名前で呼ぶように言うと
そのまま疑問を口にした、そしてその問いにアキトは押し黙ってしまった。
その沈黙を質問に対する拒絶と思ったルリはすぐさまアキトに謝った。

「すみません…会ったばかりなのにこんな質問をしてしまって
 今のことは忘れてください」

そういってルリはまた頭を下げた

「別に怒ってはいない
 それに…質問に答えないとも言ってない」

そう言ってアキトは質問に答えるべくルリの目線にあわせる為に身を屈めると
徐にバイザーを取ってみせる、そしてそこにあったのはルリと同じ金色の双眸であった。
だがその瞳には本来あるはずの輝きは存在していなかった。

「!!!」

ルリはバイザーを外したアキトの素顔を見て驚愕した。
おそらくは何も見えていないだろう瞳に驚きもしたが、それよりもルリを驚かしたのはその瞳の色だった。
金色の瞳は遺伝子操作を行った証…
つまりアキトも遺伝子操作をされた人間という事が分かったからだ
そしてルリが唖然としていると

「昔、ちょっとした実験のせいで俺の目はほとんど見えなくなってな
 このバイザーはその視力を補う為にしてるんだ、これには…まぁそういう機能があってね
 だからこれさえ掛けていれば人並みには見えるんだよ
 …バイザーとしてるのはそういう理由さ」

そう言ってアキトはバイザーをかけ直した後、ルリの頭をクシャクシャっと撫で立ち上がった。
頭を撫でられたルリは恥ずかしかったのか若干頬を赤らめてアキトに抗議の視線を投げかけている
しかしそんなルリに気付いた様子もなくアキトは口元を緩めながら口を開いた。

「ふふふ…
 それにしても不思議なものだな」

「何がですか?」

ルリはきょとんとしながらアキトに聞いた。

「この話は誰にもしたことはなかったんだがな…
 まさか今日初めてあった君にするとは思ってもみなかった
 もっとも、誰も聞いても来なかったけどな」

「そうなんですか?」

若干戯けながらそう言ったアキトに対して、ルリは若干驚いているように見えた
とは言ってもさほど表情に変化は見られないが…

「ああ…
 そうだ、出来ればこの事は他の奴等には言わないでおいてくれ
 別段隠すつもりはないが、あまり知られたくもないんでな」

「分かりました。アキトさんがそういうなら黙っておきます」

「済まないな…」

「いえ、私が余計な事を聞いてしまったのがいけなかったんですから…」

2人はそれから暫くの間、他愛もない話を少しだけするとその場を後にした。
端から見ると妙にミスマッチな光景だった、黒衣の青年と1人の少女
しかし2人にとってはまさに運命の出会いであったのだが…
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深夜……

「ハァハァハァ……」

アキトはまるで悪夢に魘されたかのように汗だくになっていた

「暫く見ることが無かったんだが、やはりあの子に会ったからだろうな………メノウ……」

今日の昼間に偶然出会った少女を思い出しながら、1人の少女の名を呟くとアキトは虚空を見つめたまま暫く佇んでいた。
そしてどれくらい佇んでいたのだろうか…アキトはある気配が近づいて来るのに気が付いた。
素早く身支度を済まし、自らの気配を消す
アキトが感じた気配は部屋の前を通過し、更に奥の方へと進んで行った。
そしてその場所は昼間出会った少女が言っていた宿舎の場所だった。
状況を素早く理解し、アキトは気配が集まっている方に向け駆け出していった。
その場所に着くと何者かがルリを抱きかかえ走り去ろうとしているところだったがその前方に回り込み、行く手を阻むアキト…
侵入者は3人…この施設に進入しルリを連れ出そうとしたのだろう
いきなり眼前に現れたマントとバイザー姿のアキトに対して若干の驚きはあっても怯みはしていなかった。

「その子を返してもらおうか」

「ネルガル…の者ではなさそうだな」

「その子の知り合いだ
 今なら見逃してやる、その子を置いて行け…」

アキトの静かだが僅かに殺気を含んだ言葉にも特に臆することもなく
最初からこのようなケースを予想していたかのように、ルリを抱きかかえた1人だけが走り去っていこうとした。
しかし、その歩みは数歩で止まり男はその場から動かなくなった…

「「!!!」」

「言ったはずだ、その子は返してもらう…と」

動かなくなった男、正確に言えば動けなくなった男の両足には細い針のようなモノが突き刺さっていた
一体いつの間に投げられたのかすら男達には分からなかった
いや、もしその場に他の人間が居たとしても判らなかっただろう
アキトは一瞬のうちに、しかも予備動作もなしでこの場を離れようとする男に向かって針を投げつけたのだから…
仲間の異常に気が付いた男達は迷うことなくアキトに襲いかかっていった。

アキトは腰を僅かに落とし身構えると、正面からナイフを持って斬りかかってくる男に対してまっすぐに踏み込んでいった
そしてアキトは踏み込みざまにナイフを持つ男の右腕を左の拳で払い、そのままの勢いで鳩尾に下から突き上げるように右肘を叩き込んだ
その瞬間、鈍い音と男の呻き声が辺りに響き渡り宙に浮き掛けた男の体はそのまま後ろに倒れていった…

動きの止まったアキトに向かってもう1人の男が突っ込んでくる
しかし慌てる風でもなく突進してくる男に向き直ると、一歩踏み込み武器を持った腕を払い今度は右の掌底を相手の顔面に叩き込む
そして相手の突進してきた勢いを利用し顔面を掴んだまま首をへし折った

「ゴキッ!!!」

静寂の中に響き渡る鈍い音、アキトが手を離すと男はその場に崩れ落ちた…
そしてアキトはゆっくりと動けない侵入者に向かって歩いていった

男はこの時、状況が分からず混乱しかけていた…
背後で聞こえてくる音だけを頼りに状況を掴もうとするが
おそらく仲間は全員やられただろうと言うことだけはハッキリとしていた。
そして殺気を放ちながら近づいてくる、黒尽くめの男…今まさに男は絶望の淵に立たされていた

「た、頼む!助けてくれ…俺達はただ雇われただけなんだ!」

そういって命乞いする男に対してアキトは冷ややかな目を向けると一言尋ねた。

「お前らの雇い主は誰だ?」

「………………
 ク、クリムゾンだ」

その言葉と共に意識がなくなった…男の首には足に刺さっていたのと同じ針が深々と刺さっていた。
唯一この男にとって幸せだったろう事は痛みすら感じることなく絶命したことかもしれない…


アキトはルリを既に息絶えた男の手から自分の元に抱き寄せると、彼女の部屋へ向かって歩き出した…
しかしその部屋は無惨にも扉は壊され、室内も荒らされていた為
仕方なく自分の部屋へと連れて行くと自分のベッドに気を失ったままのルリを寝かしつけた
そしてアキトはソファーへ座り先程男が言った言葉を反芻していた…

「クリムゾン…か……………」
























騒がしい一夜が明けて翌日…

元々朝が強くないルリは若干の違和感を覚えながら目を覚ます
それでも完全に意識が覚醒するまでにはゆうに10分は掛かっただろうが…
意識がハッキリするに連れて昨夜の事を思い出していく

「ここは…何処なんでしょうか?」

のんびりとした口調で言いながら周りを見渡してみる…質素な部屋だった、ベッド以外には何もない
誘拐されたのならもっと監視のキツそうな所に居ても良いはずなのに、どう見ても部屋の一室にしか見えない
そしてそのままベッドの上で思考を巡らせていると部屋に一つしかない扉が開き見覚えのある人が入ってきた

「どうやら目が覚めたようだな」

「ア、アキトさん!?
 どうしてここに居るんですか?」

「ここは俺の部屋だからな、君の部屋は無茶苦茶になってたから仕方なくここに連れてきた…
 それより目が覚めたなら朝食にするぞ」

驚いているルリに対してアキトは必要最低限のとこだけ伝え部屋から出ていってしまった
未だに呆然としながらもルリはベッドから降り、部屋の外へと足を運んだ…
そしてリビングと思しきところには朝食にしては少々豪勢な食事が所狭しと並んでいた
その料理を目の前にし更に驚きを隠せなかったが、次の瞬間ルリの思考は完全に停止した

「!!!!!」

キッチンと思われる所から出てきたのは料理を手にしたエプロン姿のアキトだった。
漆黒の服装に純白のエプロン…当然ながらバイザーは掛けたままである
ルリが再起動して最初に思ったことは『似合ってない』だった……

「立ってないで座ったらどうだ?」

そんなルリに気づきもせずアキトはルリに着席を促した
取り敢えず側にあった椅子に腰を下ろすとルリはアキトに疑問を投げかけた。

「あの…何で私がアキトさんの部屋で寝てるんですか?
 確か昨夜誰かにさらわれた、と思ってたんですが…」

「あいつらだったら俺が片付けた…
 そしてさっきも言った通り君の部屋は無茶苦茶になってたからな、だからここに居る」

アキトは料理をテーブルに置き、エプロンを外しながらサラリとルリの疑問に答えた
そしてテーブルに着くと料理を食べ始めた、そんなアキトを唖然として見つめるルリ…

「…食べないのか?」

「…あまりこういうのは好きじゃないものですから」

もはや開き直ったのか若干不機嫌そうにルリはアキトに言った。
そんなルリに対してアキトは少しだけ笑いながら

「好き嫌いは良くないぞ?
 それに子供はたくさん食べないとな」

「私、少女です」

アキトの言葉に対してルリはしっかりと自己主張する
そんなルリにちょっとだけ驚いた表情をみせると今度は苦笑いしながら

「まぁ兎に角食べてみろ、それにこの量は俺1人じゃ食べきれん」

結局ルリは渋々ながら料理に手を付けた。

「…美味しい」

ルリの一言を聞いてアキトは嬉しそうに笑い、そんなアキトを見つめてルリはちょっと照れた風に笑いだす
そして2人はぎこちなくだったが食事をし始めるのだった。

それから暫くすると急に外が騒がしくなってきた…
アキトには大体予想が付いていたので特に気にする風でもなく
ルリは料理と格闘しているので気にもしていなかった。
そして更に暫くすると激しくドアが叩かれた。

「テンカワさん、起きてください!プロスペクターです!」

アキトがその場で鍵は掛けてないと大声で告げると、プロスペクターは部屋へと入ってくるなり
慌てたように現在の状況を説明し始めようとしてそのまま固まってしまった。

「実は昨夜この施設に侵入者が入りまし…………
 ル、ルリさん!?…ここで一体何を?」

「?見ての通り朝食を食べてるんですよ、プロスさん」

「事情は後で話す、一杯どうだ?」

不思議そうに、しかも当然と言わんばかりに言い放ち食事を続けるルリ
そして湯飲みを促すアキトと固まったプロスペクター、端から見れば違和感この上ない光景だった
プロスペクターは『はぁ』と溜息をひとつつくと外に居るであろう部下達に向かって何か言い渡し、改めて部屋へ入ってきた

「それではご馳走になるとします」









あとがき



こんにちわ、双海 悠です。
こんにちわ、アシスタントのホシノ・ルリです(ペコリ)
悠:ちょっと時間掛かりましたけど第2話です
ル:ホントに遅かったですけど…遂に運命の出会いです!
悠:ル、ルリさん、やけにテンション高いですね(汗)
ル:当然です!おまけにアキトさんの手料理まで食べたんですよ?
  これでテンションが上がらない方がおかしいんです!
悠:……(汗)
ル:何か言いたそうですね?(ギロリ)
悠:いえ、何でもありません…(滝汗)
  さ、さて、今回は元々書く予定の無かったナデシコ搭乗前です
  取り敢えず2人を出会わせておきたかったので急遽書き足してみました
  まぁアキトくんが料理できる様にもしておきたかったので…(笑)
ル:どうせならこのままここに住み込んでも良いんですけど…(ボソッ)
悠:じ、次回はいよいよ舞台がナデシコに移って、ナデシコクルーも登場してきます
ル:私はアキトさんさえいれば充分ですけど?
悠:……(汗)
  性格等はTV版と変わらない…はずです(爆)
ル:本当にそう言いきれますか?
悠:…そ、それでは今回はこの辺で〜
ル:逃げましたね(くすっ)


おしまい


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