第3話 花の名を冠する戦艦


ホシノ・ルリ誘拐未遂事件から約半年…
今日は新造戦艦のあるサセボに移動する日だった

「いよいよ今日ですね、アキトさん」

ルリはいつものようにアキトの部屋で朝食を採りながら向かい側に座っているアキトに声を掛けた。

「そうだな…
 ここに来て半年だが、あっという間だったな」

アキトはこの半年間で起きた事を思い出しながらルリに答えた。
あの日以来、いつの間にか2人は一緒に食事をするようになっている
当初はぎごちなかった2人だが今では自然と接することができるようになり
ここに来た頃は2人とも無表情だったが時々笑みがこぼれるほど感情が表に出るようになっていた。
それ以外の時でもアキトとルリは一緒にいる事が多く、所内でも多数目撃されていた。
ちなみに昼食時になると時々プロスペクターやゴートまでが顔を出すことがあり
2人曰く『食堂より美味しい』とのこと…

そして食事が済むと身支度を整え、2人は身の回りの物が入ったバッグだけを持ってサセボに向かった

















<<とある一室にて>>



「で、どうだった?
 例の機体の情報は結局収拾できずかい?」

「はぁ、残念ながら…
 メンテナンスはテンカワさんが御自分で行っていましたし
 セキュリティも万全でして、はい…
 X線での撮影も試みましたが肝心なところはブラックボックスになっておりました」

そう言って男は申し訳なさそうに報告する

「そうかそいつは残念だな
 半年もあればきっと何か情報が掴めると踏んでたんだが…」

「申し訳ございません、ですが一つだけ分かったことが…
 あれはエステバリスに非常に酷似した機体をベースとして外部装甲を取り付けているようです」

「ほぅ、それだけでもかなりの収穫だね
 ま、性能の方はこれからじっくりと見せてもらおうよ
 それから情報収集はくれぐれも忘れないようにね。じゃ、あと頼んだよ」

「分かりました、それでは…」

そして通信を切り、普段の笑みに戻ると

「さて、これからが忙しくなりそうです」

そう言って男は通信室から出ていった。






















<<ネルガル重工サセボドッグ>>


アキトとルリはドッグ入り口でプロスペクターを呼んでもらい、現在は海底ドッグ内部を案内してもらっている
そして2人の目の前にはネルガル重工が建造した新造戦艦『ナデシコ』がその巨体を静かに横たえていた…

「「…………何度見ても変な形して(るな、ますね)」」

これがナデシコを見たアキトとルリの率直な感想だった。
それを聞いたプロスペクターは「これは手厳しいですなぁ」と笑いながらナデシコの説明を始めた。
暫くナデシコの説明を聞いた後、艦内の案内をしてもらう事となった、ルリは既に何度も来たことがあるので先にブリッジに向かっていた
そして格納庫に行くと一機のエステバリスが踊ってた……
アキトは隣で唖然としているプロスペクターに無駄とは思いつつも聞いてみることにした

「ミスター…あれは一体なんだ?」

「お、おかしいですなぁ、確かパイロットの方は3日後に合流予定のはずなんですが…」

そしてプロスペクターは近くにいた拡声器を持って怒鳴っている整備員に声を掛けていた。

「ウリバタケ班長、これは一体どうしたんですか?」

「おぅ、プロスさんか…どうしたもこうしたもねぇよ。
あの馬鹿、調整中のエステにいきなり乗り込みやがった」

「班長!パイロットの名前出ました……えっと、ヤマダ・ジロウです」

「ちっがーーーーう!!!」

大音響と共に先程まで踊っていたエステバリスから突っ込みが入る

「俺の名はダイゴウジ・ガイ…ガイって呼んでくれ!」

そう言いつつエステバリスはポーズをつける

「ヤマダさんでしたか…
 困りますなぁ、確か合流は3日後の筈では?」

「いや〜はっはっはっ、本物のロボットに乗れるってんで一足先に来ちゃいました」

プロスペクターはこめかみを押さえつつ問うが返ってきた答えは豪快な笑い声と理由だった…
そして格納庫にいる全員が唖然としていると

「諸君だけにお見せしよう!
 このガイさまのウルトラグレート必殺技を!!
 ガァイ!スゥパァー!!ナッパァァァァァァァ!!!」

そんな台詞と同時にエステバリスは右拳を天空へと突き上げる、そして次に聞こえてきたのは凄まじい衝撃音だった…










騒動が一段落し改めてプロスペクターはアキトにウリバタケに紹介した。

「こちらが整備班の班長を勤めるウリバタケ・セイヤさんです
 テンカワさんも何かとお世話になるでしょうからご紹介しておきます。
 ウリバタケ班長、こちらはパイロットのテンカワ・アキトさんです」

「おぅ、あんたもパイロットか
 それにしても妙な格好してやがるな…もしかしてあの黒い奴のパイロットか?」

「そうだ、宜しく頼む」

プロスペクターの紹介にウリバタケはアキトの格好を訝しげに見たが特に気にしたようでもなく
黒一色のアキトの格好を見て以前から気になっていた黒い機体の事を聞いてみる
アキトにしてもウリバタケの視線を気にもとめず聞かれた事を肯定した

「んじゃちょっと聞きたいんだが…
 あれのセキュリティの解除方法を教えてくれ、整備しようにも近づけやしねぇ」

「その必要はない。
 あれの整備は不要だ…俺がやる、あんた達にはこいつの方を頼む」

見慣れない機体を触ってみたいのかウズウズしながらウリバタケは言うが
アキトはそれを拒絶し、代わりにディスクのようなものを放った。

「自分でするだぁ?そりゃあ俺達を信用してないって事か?
 それに…こいつは何だ?」

「別にそういうわけじゃないんだがな、あいつは特別製でな他人に任せるわけにはいかないんだ…
 そのディスクにはブラックサレナに取り付ける高機動ユニットの図面が入ってる
 そいつはあんた達に任せる、腕は一流なんだろう?」

「仕方ねぇなぁ、まぁ勝手にしな…
 それにしてもあのゴツイ機体にまだ何か取り付けるってのかよ
 ま、これはあとで見せてもらうことにするぜ」

アキトの言葉に対してウリバタケはまだ納得はしていないようであったが
図面の方に興味を引かれたのかディスクを片手にその場を後にした…



「………よろしいのですか?テンカワさん」

「ああ…
 それにしても残念だったな、ミスター
 これでブラックサレナを詳しく調べられなくなった」

プロスペクターはアキトのことを心配して言ったのだが
アキトはそれに対して皮肉で答えた。

「…やはりお気付きでしたか?」

「あれはさすがにあからさまだろう?」

「さて、私はブリッジの方へと戻ることにします」

プロスペクターはわざとらしく聞き…
アキトは苦笑いながら答え…そしてプロスペクターはその場を後にした
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それから暫くした頃ブリッジでは…

「ちょっと!それどういうこと?
 既にクルーは居るからあたし達は要らないですってぇ!?」

「艦長は地球連合大学の戦略的シミュレーションの実習において無敗を誇った逸材です」

「その艦長は一体何処にいるのよ!」

連合軍から来たムネタケとゴートのそんなやり取りがされている中、操舵士のミナト・ハルカ、通信士のメグミ・レイナード
オペレーターのホシノ・ルリは固まって話をしていた

「確かあの人達ですよね?火星に戦艦落とした人達って」

「文句を言いたくなるのもわかるけどね〜」

「バカばっか」

などと3人で話していると、ブリッジの扉が開き一人の女性と青年が入ってきた。そして女性の方が一言

「みなさぁ〜ん。私が艦長のミスマル・ユリカで〜す。ぶぃ♪」

「「「「「「「ブイ!?」」」」」」」

「またバカ?」

これでみんなのハートをしっかりキャッチ♪と思っているユリカをよそに全員が呆然としていた
ルリは独り冷静に突っ込んでいたが…


艦長のミスマル・ユリカと副長のアオイ・ジュンがブリッジクルーに改めて自己紹介して暫くすると
地響きと共にナデシコ内の警報が鳴り響いた

「敵の攻撃は我々の頭上に集中している」

「敵の目的はナデシコか…」

「そうとわかれば反撃よ!」

ゴートとフクベ提督の言葉を聞いたムネタケが声を上げる

「どうやって?」

「ナデシコの対空砲火を真上に向けて敵を下から焼き払うのよ!」

「上にいる軍人さんとかはどうするわけ?」

「どうせもう全滅しちゃってるわよ!」

「え〜それって非人道的じゃないですか?」

「きぃ〜〜〜!」

攻撃方法を答えたムネタケはミナトとメグミに反論されるとヒステリックな声を上げた
するとそれまでブリッジ内での成り行きを見守っていたフクベ提督がユリカに意見を求めた

「艦長の意見を聞こうか…」

「囮のエステバリスを射出、敵を集めながら誘導してもらいます。
その間にナデシコは海底ゲートを抜けて一旦海中へ、その後浮上して集まった敵をナデシコの主砲による殲滅。これでいきましょう!
ルリちゃん、エステバリスのパイロットいるかな?」

「はい。ですが1人は現在医務室で骨折の治療中です」

「……へ?」

ユリカは少しだけ考える仕草をすると、思いついた作戦を言葉にしそれを行動に移そうとルリにパイロットの所在を確認するが
どうやら骨折中らしい…その事に対してユリカは呆然とするしかなかった
そしてルリは格納庫で起こっていた騒動をモニターに映し出して説明の代わりとした

「諸君だけにお見せしよう!
 このガイさまのウルトラグレート必殺技を!!
 ガァイ!スゥパァー!!ナッパァァァァァァァ!!!」

ドガシャァァァァァァン!!!

「おたく…足折れてるよ?」

「な、なにぃ〜!?」

「おーし。この馬鹿を医務室に運べ〜」

「「「うぃーす!」」」

「お、俺のゲキガンガー!!!」

これを見た瞬間ブリッジクルーは全員目が点になった
そしてハッと我に返ったユリカが言葉を漏らす

「えぇ〜、そ、そんなぁ…誰か他にエステバリスの操縦できる人いないの?」

「パイロットはもう1人居ます、現在の居場所を検索してみます…」

『検索終了』

「………どうやら既に迎撃に出ようとしてるようですね」

そう言ってルリの出した映像には漆黒の機体がエレベーターで地上に向かっていた

「ルリさん。すみませんがテンカワさんに通信を繋げてもらえますか?」

途中からブリッジに戻ってきていたプロスペクターの声に頷きルリはアキトに通信を繋げた












時間は少し戻って格納庫…

アキトはブラックサレナの整備をしようと思い格納庫に残っていた
そして何から始めようか悩んでいたところにウリバタケが走ってやってきて怒り出した

「テ、テンカワとか言ったな、お前どういうつもりだ!」

「…何のことだ?」

何故ウリバタケが怒っているのかアキトには大体予想ができていたが敢えて惚けてみる

「さっきお前が渡したディスクの中身のことだ!
 プロスの旦那からその機体のおおよそのスペックは聞いてる、そんなものにあれを着けたら中にいる人間は死んじまうぜ!
 それともうひとつあったあの武器…ありゃあ一体なんだ?常識の範囲を超えちまってる!」

「ふっ…
 その事だったら問題はない、あれは既に使ったことがあるものだ
 言っておくが俺はまだ死ぬつもりはない
 それと武器だが…面白いだろう?」

そういってアキトは笑いながらウリバタケの言う高機動ユニットの危険性を一蹴した
その言葉を聞いてウリバタケが絶句していると更に驚くべき言葉がアキトの口から紡ぎ出された

「このブラックサレナの真の力を出すにはあれが絶対に必要なんでな…」

そう言ってアキトは愛機を見上げるのだった

「そうかい…だったらもう何も言わねぇよ、この2つは俺が完璧に仕上げてやる!
 だから俺にその真の力とやらを見せてくれ!
 あと…その機体、いつか俺に触らせろよ」

「あぁ、そのうちな…」

そしてウリバタケはにやけながらも自信満々にアキトにそう言った、アキトの方も軽く笑って返事をした
しかし次の瞬間、アキトの表情は急に険しくなった

「お、おい…一体どうしたってんだ?」

ウリバタケは異変に気付き声を掛けるがアキトは黙ったままだった…

「どうやら手厚い歓迎を受けそうだな…」

暫く虚空を見つめていたかと思うとバイザーのせいで口元しか分からなかったが
表情を若干綻ばせながらそう言ったようにウリバタケには見えた
そしてアキトが振り向いたと同時にブラックサレナが起動しまるで主を迎え入れるかのように
手を下ろしコクピットハッチを開いたのだった

「なっ!?
 そんな馬鹿な!パイロットが乗ってもいないのに起動しただと!?」

「だから言ったろう?こいつは特別製なのさ」

たった今、自分の目の前で起こった信じられないような出来事にウリバタケは驚愕していた
そんな彼を見ながらアキトはさもこれが当然と言わんばかりに一言だけ言うと愛機に乗り込んでいった
そしてブラックサレナがエレベーターシャフトに悠然と向かっていく姿を唖然としながら見送ったのだった












ブラックサレナに乗り込んだアキトはエレベーターシャフトに到着するまでに状況の確認をすることにした
そして愛機に搭載されているAIに尋ねる

「ミコト、状況を報告しろ」

《yes,master…
 現在ドッグ上空には約200機の無人兵器が確認されています。
 駐留軍が交戦していますが直壊滅すると思われます》


AI『ミコト』…
このブラックサレナに搭載されている管理コンピューターである
その性能はおそらくナデシコに搭載されているAI『オモイカネ』に匹敵すると思われる
だが現時点でいえばおそらく『ミコト』の方が上であろう、彼女は既に自我に目覚めているのだから…


ミコトの報告を聞いている間にブラックサレナはエレベーターシャフトに到着した
そしてボタンを押すとエレベーターは地上に向かって上昇していった

《master…ナデシコから通信が入っています。
 如何なさいますか?》

「……繋いでくれ」

ミコトの報告に数瞬考えたがアキトはナデシコとの通信をする事にした
状況から見ておそらくはプロスペクター辺りだろうと踏んでのことだ

アキトとコミュニケが繋がった瞬間、耐Gスーツに身を包んだその風貌に全員が驚いたのでプロスペクターは簡単にアキトの事を説明した
そして現在の状況と経緯をアキトに話し、囮になってくれないか頼み始めた。

「……囮だと?」

「はい。現在戦闘が可能なパイロットはテンカワさんしか居ないものでして」

「つまり敵を10分間引きつけ、ナデシコの主砲軸線上に誘導すればいいわけだな?」

「お願いできますかな?」

「殲滅した方が早いとは思うがな、まぁいいだろう。
 今日はナデシコ就航の日だ、花は持たせよう。だが敵が何機残るかは保証できないがな」

正直プロスペクターはこれほどあっさりとアキトがこの作戦を承諾するとは思っていなかった
最悪拒否されるか…(それはそれで構わないのだが)そう思っていた
ルリとゴートも同じように思っていた為に少し驚いた表情をしている
出来ればここは艦長とナデシコの力をアピールしておきたかったのでプロスペクターとしては喜ばしいことであった


「あーーーー!アキト!アキトだぁ!!!」

そしてそれまで2人のやり取りを見ながら何かを考えてこんでいたユリカが急に大声を上げはしゃぎ始めた

「ユリカ、知り合い?」

「うん!アキトはわたしの王子様なの!」

他の皆がユリカの言動に驚いている中、副長のジュンが問いただすとユリカは嬉しそうに答えた
かたやアキトの方はというと、いきなり王子様と呼ばれ呆然としていた

「あ、あんたは一体誰だ?俺の事を知っているみたいだが…」

「え?私の事忘れちゃったの?火星じゃお家がお隣だったじゃない」

何故自分のことを知っているのか気になったアキトはその事を聞いてみると
ユリカはさも意外というような表情になりながらも火星でのことを答えた
そのことを聞いたアキトは考えること数瞬…

「火星…ユリカ………ま、まさかミスマル・ユリカなのか!?
 な、何でそんな所に居るんだ!?」

「ユリカさんはこのナデシコの艦長なのです」

「うん。ユリカ艦長さんなんだよ、えっへん♪」

プロスペクターが答えたことに、ユリカは同意し胸を張って可愛く威張っていた
そして何かを思い出したように凍り付いてしまったアキト
バイザーをしていて表情はわかりにくいが確実に顔は引きつっていた

「そ、そんな……ユリカがこの戦艦の艦長だと!?」

「ユ、ユリカ!奴は一体誰なんだ?」

「アキト?アキトは私の王子様!私が危ない目にあったら助けてくれるの」

ユリカが艦長ということを知って唖然とするアキト
かたやあまりにもユリカが嬉しそうにするのに嫉妬したジュンはユリカに問いただすも
当のユリカは質問に答えながら目をハートマークにして爆弾発言をする

「だ、誰が王子様だ!誰が!」

「またまた〜アキトったら照れちゃって

「うぅ…ユリカ〜」

アキトは完全に否定したが、こうなったユリカはもはや何を言っても聞く耳持たなかった
ジュンは後ろの方でいじけていたが…
そして暴走し始めたユリカを放っておいてアキトは逃げるように通信を切ってしまった
そんな状況を呆れながら見ていたブリッジクルー
中でもルリ、プロスペクター、ゴートの3人は初めて見たアキトの狼狽えた姿を見て驚いていた
『あの人にも苦手なものはあったんだ…』これが3人が出した共通の意見だった




一機の漆黒に塗られた機体がエレベータに乗って地上に向かう
その中でアキトは多少俯き精神を集中させていた…当然先程のことは既に忘却の彼方だ

「この緊張感…久しぶりだな」

もうすぐ地上に着くと思われた時、アキトは誰にも聞こえない程度の小さな声でつぶやいた

「エレベーター停止、地上に出ます。バッタ、ジョロの数200」

「頑張ってくださいね」

「作戦は10分間。とにかく敵を引きつけろ。健闘を祈る」

ルリの状況報告とメグミの声援、そしてゴートが簡単に作戦を復唱し
それを最後にブラックサレナ内に映っていたコミニュケの映像は途切れる。
そしてエレベーターは地上に出たアキトは顔を上げ回りを確認する…敵、敵、敵、見渡す限り無人兵器が蠢いていた
しかしこの状況においてもアキトの顔は微かに笑っていた

「おぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

アキトの咆吼と共にIFSが眩いほどの光を放つ、そしてブラックサレナは上空へと飛翔した
その時両腕に装備されているハンドカノンを機体を回転させながら連射し、まずは周囲にいた無人兵器を沈黙させた
そして着地した後は高速移動しながら無人兵器へ向かっていく
すれ違いざまにハンドカノンで撃ち抜き、背後から接近したものは紙一重でかわしつつ背面に装備されているテールバインダーで叩き落とす
まさにそれはトップクラスのパイロットでもおそらくはできないであろうほどの動きだった
ブラックサレナは凄まじいスピードで敵陣を突破していく、もちろん相手を撃破しつつ…
アキトが操縦する機体の異常なほどまでの動きにブリッジクルーは暫く声も出ない状態になっていたが
一人黙々と作業をこなしていたルリの一言で皆我に返った

「ブラックサレナ、現在敵機動兵器の約3割を撃破。艦長、ナデシコ発進準備整いました」

「い、一体何者なの?あの黒いのは!」

「すごい、すごい、すっご〜い♪さっすがアキト♪やっぱり私の王子様だね

「「すっごぉ〜い…」」

「ほぉこれは…凄まじい戦闘力ですな。よもやこれ程までとは…」

「むぅ…」

モニターを眺めていた者は全員驚きを隠せないようだった
これ程までの力を持ったパイロットの戦闘を初めて間近でみるのである、当然と言えば当然かもしれない
だが例外が一人だけ居たが…ユリカは大はしゃぎだった
ルリはアキトの活躍を見入っているユリカに対してもう一度声を掛けた…

「艦長。発進…しないんですか?」

「あ、そうだった…。それでは、機動戦艦ナデシコ発進します!
ルリちゃん、同時にグラビティブラストのチャージもお願いします」

「了解。ナデシコ、発進します」

ルリがコンソールパネルに手を翳すと掌にIFSの印が浮かび上がる
そしてナデシコは動き始めた…











「テンカワさん、そのままこのポイントまで敵を誘導してください」

「了解した!」

アキトはメグミの声と共にナデシコから送られてきた座標に向かってブラックサレナを疾走させた
そしてそれを追う敵無人兵器。目標地点に移動しながらもアキトは確実に敵を排除していった
実際には殲滅も出来たのだがアキトは敢えてそうしなかった、今回与えられた仕事はあくまで『囮』だったから…
しかし敵戦力を当初の3割弱にまで減らした腕前は充分に目立っていたが…

そして海岸まで辿り着くと海に向かってジャンプした
海に落ちるかと思われた瞬間、海面からナデシコが姿を現した
ブラックサレナはブリッジ上に着地し、ナデシコは朝日をバックに浮上した

「随分早かったな、まだ10分経ってないが?」

「あなたの為に急いできたの♪」

作戦時間の10分よりも2分ほど早く、到着した為アキトは疑問を口にしたが
ユリカから返ってきた言葉は疑問に対する答えとは少し違っていた
そしてブリッジにルリの声が響いた。

「グラビティ・ブラスト、チャージ完了しました。敵残存兵力、有効範囲内に全て入っています」

「了解。目標、敵まとめてぜぇ〜んぶ!てぇー!!」


ユリカの号令と共にナデシコから漆黒の光が放たれた…
そしてその光に飲み込まれた無人兵器は次々と重力波に押し潰され爆発していった
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「戦況を報告せよ」

「敵残存兵力0、地上部隊の被害は甚大だが戦死者数は0」

「これで認めざる得ないな…」

「まさに逸材!」

「まぐれよ!これは何かの間違いよ!」

フクベ提督の言葉にルリは状況報告をした
そして報告された結果は見事としか言えないような内容だった
そしてユリカのことを認めるフクベ、誉めるプロスペクター、納得しないムネタケが叫んでいた

「アキト。すごいすごいさっすがぁ〜」

「勘違いするな、これはおまえの為にやったわけじゃない。俺は自分の為にやっただけだ」

「またまた〜アキトったら相変わらず照れ屋さんなんだから

ユリカは自分のことよりもアキトを褒め称えていた
アキトは否定しつつも、昔と全く変わらず人の話を聞かないユリカに対して溜息を漏らすと
これから先の事を考えていた…











あとがき



こんにちわ、双海 悠です。
こんにちわ、アシスタントのホシノ・ルリです(ペコリ)
悠:遂にナデシコ登場です〜これからはここが舞台となっていきます
ル:やっと登場ですか…ここまで来るのに随分と掛かりましたね
悠:うぅ…それは言わない約束ですよ(汗)
ル:それにしても相変わらずヤマダさんは活躍の場がないんですね
悠:あっはっはっ、やっぱ骨折は外せないかなぁ…と(笑)
ル:まぁそれでこそヤマダさんなんでしょうけどね
悠:でもいずれは活躍して貰おうと思ってます
  まぁあくまで予定ではありますが…(笑)
ル:活躍の場…あるんですか?(ボソッ)
悠:あります!ってーか多分作ります、嫌いなキャラではないですからね〜
  誰かに身代わりになってもらうという手もなきにしもあらず(ぉ
ル:まぁ私はアキトさんさえ活躍してくれればそれで充分ですけどね
悠:それは確実なので安心してください、なんといっても彼が主役ですから(笑)
ル:そうですか…でも変な風に書いたらお仕置きですからね(にやり)
悠:が、頑張ります〜(滝汗)
  それとブラックサレナですが…性能は劇場版と同等と考えて下さい
  高機動ユニットに関してはかなり変更すると思いますが…
  それでは今回はこれにて…
ル:失礼します(ペコリ)


おしまい


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