第4話 ナデシコ内乱




ナデシコは現在太平洋上を航行していた
格納庫では先程の戦闘で驚異的な戦闘力を披露したアキトがブラックサレナと共に収容されていた

「やるじゃねぇか、テンカワ。おまえ一体何者だ?」

「…ただのパイロットさ」

ブラックサレナから降りてくるとウリバタケが近寄って声を掛けたがアキトは素っ気なく答えただけだった

「ま、そういうことにしておいてやるよ」

本当は色々と聞きたい事でもあるのだろうが他に仕事があるのか名残惜しそうにそう言ってブラックサレナを眺めた後、ウリバタケはその場を離れた
その光景を少しの間見つめていた後、格納庫から出ていこうとするとアキトの目の前にウインドウが開いた

「お疲れさまでした、アキトさん。
 プロスさんが呼んでいます、ブリッジまで来てもらえますか?」

ルリはウインドウに映ったアキトに少しホッとした表情を見せると労いの言葉を掛け、連絡事項を告げる
アキトの実力を知らなかったルリは実際の戦闘を初めて目の当たりにしてとても心配していた
敵機動兵器の数が多い事もそうであったが、たった1人で出撃した事に不安を感じていたのだ…
だがそんなルリの心配をよそにアキトは見事な戦闘を繰り広げ無事に帰還した、そしてその顔を見て安心したのだった

「…わかった、すぐに行こう」

「それでは後ほど…
 一段落したら後で一緒に食事をしましょう」

アキト返事を確認すると最後に食事の約束を取り付けた後、ルリは笑顔を残したままウインドウを閉じた
そしてアキトは早足でブリッジに向かっていった







プシュッ


ブリッジの扉が開きアキトがブリッジに入ってくると一斉に注目を浴びた
先程の戦闘を見ていた全員はどんな人間が入ってくるか興味津々だったのだ、しかし入ってきた人物を見て皆一様に驚きの表情を浮かべる
何しろ入ってきた人物は顔を半分ほど覆うバイザーに漆黒の服…更に全身を覆うマント付きだ、これで驚かない人間は居ない…
だが注目を浴びている本人は特に気にすることもなくプロスペクターに近寄っていった

「いや〜テンカワさん、実に見事な腕前でしたね。
 さすがは漆黒の死神、というところですか…」

「何を今更…で、用件は?」

そしてアキトが目の前まで来るとプロスペクターは笑顔を絶やすことなく先程の戦闘を賞賛した
しかしそれをアキトはサラリと受け流し用件を聞く

「いえ、特にこれといった用件ではないんです
 改めてブリッジの皆さんに紹介しておこうと思いまして
 何しろパイロットの方はブリッジに居ることも多いですからねぇ
 と、いうことで、皆さん!こちらが先程囮役をしてくださったパイロットのテンカワ・アキトさんです」

「そういうことか……
 テンカワ・アキトだ、宜しく頼む」

そういってプロスペクターはにこやかな表情でブリッジクルーにアキトを紹介するが
かたや紹介される側のアキトの方は実に無愛想だった
まぁこれが彼の基本スタイルなだけにいつもと変わらないといえばそれまでなのだが…
そしてブリッジクルーがプロスペクターによって紹介されている中、一部の人間だけは彼の何気ない一言に固まっていた
『漆黒の死神』の名は軍部の間には広まっていたのだ、当然ながらその噂にはかなりの尾鰭が付いてはいるだろうが…
そしてそんな周りの雰囲気をものともせずユリカが声を掛ける

「ア〜キ〜ト〜

その声を聞いた瞬間、アキトは端から見てもわかるほど大げさなくらいの溜息をついた

「…何か用か、ユリカ」

「嬉しい、今でも私のことユリカって呼んでくれるのね♪」

アキトの一言に表情を綻ばせ喜ぶユリカ、反対にアキトはそれを見てまたもや溜息をつくのだった。

「おやテンカワさん…艦長とはお知り合いで?」

「…昔火星でな」

「ところでアキト、何でそんな格好してるの?」

2人のやり取りを見ていたプロスペクターは全員を代表するようにアキトに尋ねるが
その尋ねられた当人は溜息をつきながら答えるだけだった
そしてユリカの何気ない、誰もが思うであろうその質問にブリッジ内には沈黙が訪れた



「…ミスター
 俺は部屋に戻るとする、あとは頼む」

その一言だけを残しアキトはブリッジから出ていった
そんなアキトの行動を不思議そうな表情で見ていたユリカは

「も〜アキトったら相変わらず照れ屋さんなんだから♪」

と、ひとり頬を染めて身をくねらせていた

『『『『『『『それは絶対に違う!』』』』』』』

ユリカを除く他のクルーは全員心の中でそう突っ込んだ























それから暫くしてユリカは仕事を副長のジュンに押し付けるとアキトの部屋の前まで来ていた、もちろんアキトに逢う為である

「アーキートー♪」

そして何度か声を掛けて返事がないことを確認すると懐から何かを取り出した

「フッフッフ〜、ちゃ〜んと居るのは判ってるんだからね、アキト
 ユリカは艦長さんだからこんなのがあるんだから♪」

そう、ユリカが取り出したのはマスターキーだった
これでアキトの部屋に進入しようという魂胆らしい
そしてマスターキーをスロットに差し込む………が、何故か扉は開かないままだった

「あ、あれ?何で?どうして?
 マスターキーなのに何で開かないの!?」

本来なら開くはずのマスターキーで開かない扉にユリカがパニックになっていると
目の前にウインドウが開いた、そして…

「艦長、アキトさんの希望でその部屋はプロスさんが持っているマスターキーでしか開かないようになってますのであしからず」

アキトから頼まれたのであろうルリがユリカのマスターキーではその扉は開かないと宣告してウインドウを閉じた
そしてユリカはその通信を呆然として聞いた後

「そ、そんなぁ〜〜〜〜〜〜〜!!!!」

ナデシコ中に響き渡るほどの絶叫が聞こえたのだった



















あの後、アキトに会いたい!とユリカが駄々をこねるので見かねたプロスペクターがアキトに頼み込み
今食堂では感動の再会が行われていた…


「ねぇアキトアキト♪
 ホントに久しぶりだよね〜、10年ぶりかな?
 火星で行方不明になったって聞いてたから心配してたんだよ?」

「…………」

嬉しそうにはしゃぐユリカと対照的に憮然とした表情なままのアキト

「ねぇアキトー、何で返事してくれないの?
 ユリカの事忘れちゃったの?」

涙ぐんで訴えかけるユリカにアキトは観念したように口を開いた

「お前のことは忘れようにも忘れられん
 大体お前は…
「いやぁ〜〜〜ん、もう!アキトったら最初からそう言ってくれればいいのに」

アキトの台詞を最後まで聞くことなくユリカはイヤンイヤンと身をくねらせて照れまくっていた
そんなユリカの姿を見てアキトは深い溜息をつくと1人妄想に浸っているユリカを置いて歩き出した
妄想から覚めると目の前から居なくなったアキトをユリカは慌てて追いかけた

「あ、アキト待ってよー
 ところでおじさま達は元気?やっぱり最初はご両親に挨拶に行かないと〜♪」

「…2人はもう死んだ」

そしてユリカはさり気なくとんでもないことを言うがアキトから返ってきたのは全く予想だにしない言葉だった

「…え?」

「お前、本当に何も知らないんだな…
 ミスマルのおじさんは何も言ってなかったのか?」

「ご、ごめんなさい、お父様は何も…」

「そうか…」

振り返ったアキトに両親の死を聞かされ、ひとり暴走しかかっていたユリカも
さすがに無神経な事を聞いてしまったと暗い表情を見せ、アキトにどう声を掛けようか迷っていたが
先に口を開いたのはアキトだった

「ユリカ、お前に一つだけ言っておく
 俺はお前の知っている頃の俺とは違う、もう俺に付きまとうのは止めろ…」

「そ、そんなアキト…」

アキトに言われたことがショックだったのかユリカはすがるようにアキトのマントを掴もうとした
しかしそこには既にマントはなくアキトは背を向けて歩き出していた…

「ア、アキ…
「艦長、お取り込み中に申し訳ありませんが至急ブリッジに戻ってください。
 プロスさんから重大発表があるそうです」

「あ、は、はい…」

アキトを追いかけようとしたところに目の前にウインドウが開きメグミから連絡が入った
メグミに返事はしたものの、アキトを追いかけるべきか艦長としてブリッジに行くべきかどうかユリカは暫し迷っていたが
立ち去っていくアキトの背中を悲しそうな表情で見つめた後、トボトボと肩を落として食堂を後にした…





























今ブリッジではナデシコの主要クルーが集められていた
プロスペクターが重大な発表があるというので招集されたのだが、アキトの姿はこの中にはなかった
ちなみにこの様子はコミニュケを通じてナデシコの全クルーに中継されている
そしてプロスペクターが口を開いた

「今までナデシコの目的地を明らかにしなかったのは妨害工作を防ぐためです」

「我々の目的地は火星だ!」

プロスペクターの声にフクベ提督が続いた
そしてその一言にその場に集められた面々は静まりかえった

「では現在地球が抱えている侵略は見過ごすというのですか?」

「多くの地球人が火星に植民していたというのに連合軍はそれらを見捨て地球にのみ防衛戦を引きました
 火星に残された人々と資源はどうなったんでしょう」

「どうせもう死んでるんじゃないんですか?」

そしていちはやく我に返ったジュンの疑問にプロスペクターは正論で返す
更に厳しい突っ込みをルリから受けたが…

「わかりません。ただ確かめる価値は…
「そうはいかなくてよ!」

そしてプロスペクターが言葉を続けようとした時
ブリッジの扉が開きムネタケと共に数人の兵士が駆け込んできた、手に銃を持って…

「血迷ったか、ムネタケ!」

「提督、この艦は頂くわ」

言い寄ろうとしたフクベに対してムネタケは見下したような感じで言い返していた

「その人数で何が出来る…」

「あら残念ね、既にこの艦は私の部下が制圧したわ」

ゴートの言葉にムネタケは自慢げに答える
その言葉と共にスクリーンには銃を突き付けられ身動きの出来なくなったクルー達が映し出された

「ふふふ、諦めなさい。この艦は軍が上手に使ってあげるわ
 ほら、来たわよ」

そしてムネタケは作戦が成功したことに対して満足そうにし
その呟きと同時に一隻の戦艦が海中から浮上してきた

「こちらは連合宇宙軍第3艦隊提督、ミスマルである」

「…お父様」

「「え?」」

スクリーンに映し出されたのはミスマル・コウイチロウ提督…すなわちユリカの父であった
そんなことを知らないミナトやメグミは声を揃えて驚くだけであった

「お父様?これはどういうことですの?」

「おぉユリカ元気かい?」

「はい♪」

「これも任務だ、許してくれ…パパも辛いんだよ」

まわりの状況を無視して親バカな会話がされる中
プロスペクターがずれた眼鏡をなおしながらコウイチロウに話しかけた

「困りましたなぁ、連合軍とのお話は済んでいるはずですよ
 ナデシコはネルガルが私的に使用する、と」

「我々が欲しいのは今確実に木星蜥蜴どもと戦える兵器なのだ。それをみすみす民間に!」

「いや〜さすがミスマル提督、わかりやすい!では交渉ですな、そちらに伺いましょう!」

「よかろう…但し!作動キーと艦長は当艦が預かる!」

コウイチロウが言うことは最もだった、事前にネルガルから戦艦を所持するとは聞いていたがよもやこれ程までの高性能とは思ってなかったのだ…
しかもこれ程の戦艦があれば戦局をひっくり返せるかもしれないとなれば強引にでも手中にしたくもなる
そしてそれを分かっているプロスペクターは交渉を持ちかけると、コウイチロウは作動キーと艦長を要求するのだった
そのユリカはというと…

「え〜っとぉ…」

「艦長!奴等の言うことなんか聞くんじゃねぇ!」

「ユリカ!ミスマル提督の言うことの方が正しい!
 これ程の戦艦をむざむざ火星に…」

「ユリカ〜私が間違ったことを言ったことはないだろう〜?」

「ん〜…」

艦長席の前で思案に暮れるのだった…
そんなユリカをみて猛反対するヤマダとコウイチロウの言うことを指示するジュン
そして娘に対して泣き落としをするコウイチロウの言葉がユリカを投げかけられていた
そして他のクルーはその状況をただ見つめるだけであった


プシュッ

「その必要はない」


そんな雰囲気の中、ユリカが作動キーを引き抜こうとした瞬間、ブリッジの扉が開く音と共に声がした
全員の視線がそちらに向くがそこには誰も居なかった
そして視線を元に戻そうとした時、何かが倒れるような音が複数聞こえてきた


その音のした方を向くとそこには黒き衣を纏い二振りの刀を手にしたアキトがひとり佇んでいた
そして床には自分たちに銃を突き付けていた兵士達が全員倒れている
そう、先程扉が開いた時に入ってきたのはアキトだったのだ
誰も居なかったわけではなく扉が開いた瞬間、気配を殺したまま目にも留まらぬ速さで死角に移動し
更に兵士達に接近、叩きのめしたのだった
そして気が付けば残るはムネタケただ一人になっていた
その場に居合わせた者は一瞬のことで何が起こったのかわからない、全員そういうような表情だった

「…殺したのか?」

「峰打ちだ…、殺してはいない」

いち早く何が起こったのか理解したゴートがアキトに尋ねる
アキトは刀を携えたまま、ユリカとムネタケの居る艦長席に向かって行った

「あとはお前だけだ…」

そして呆然としている2人の前まで来ると、一振りはムネタケの首筋に…
もう一振りはなんとユリカの首筋に刀を当てたのだった

「なーーーっ!?
 き、貴様ぁ!!!」

この事態に一番早く気が付いたのはやはりコウイチロウだった
そして娘に刀を突き付けるアキトを睨み付ける
これが普通の人間ならばそれこそ竦み上がるほどの視線なのだが
相手はアキトである、涼しい顔で受け流しコウイチロウに対して言った

「早く部下達に武装解除を命令しろ
 さもなくば…この2人を殺す」

「な、な……」

スクリーン越しにでもアキトの殺気に充分に感じられた
もし自分が従わなければあの青年は娘を傷つけるだろう、即座にそう判断したコウイチロウは
アキトのいう通りにするほかなかった

「わ、分かった…」

最愛の娘を人質に取られた為に渋々ながらも了解するコウイチロウ…
その人質となっているユリカはキョトンとし、ムネタケはガタガタと震えるだけだった
そして他のクルーは唖然としながらそんな状況を眺めるしかできなかった

「私は連合宇宙軍第3艦隊提督、ミスマルである…本作戦は失敗した
 全員武装を解除し投降しろ…」

最初はコウイチロウの通信に驚きを見せていた兵士達だったが
ウインドウに映し出されたブリッジの状況を見て納得したのか銃を下ろし人質に取っていたクルー達を解放した
それを見たアキトはゴートに彼らを拘束するように手配させ、そしてそれが確認されると一刀を振り下ろした


鈍い音がするとそこにはアキトによって殴り倒され気絶したムネタケが床に横たわっていた
それを心配そうに見ていたプロスペクターに向かって

「心配するな、気絶してもらっただけだ」

そう言うとユリカに突き付けていた刀も収めると改めてスクリーンに向き直った

「相変わらずご息女にはお甘いですな、ミスマルのおじさん」

「何?貴様におじさん呼ばわりされる筋合いはないわ!」

アキトによっていきなりおじさん呼ばわりされ激怒するコウイチロウ
作戦が失敗したことによりその苛立ちは倍増されている、だがアキトの方は笑うだけだった

「それはただ単にあなたが覚えてないだけですよ
 火星で随分とお世話になりましたよ…隣に住んでいたテンカワです。覚えていませんか?」

「火星…テンカワ…………!!!」

「その顔はどうやら思い出せてもらったようだな」

アキトは懐かしそうにコウイチロウを見ながら言葉にする
その言葉を反芻しながらコウイチロウの顔は次第に驚愕の表情に変わっていった
そしてその表情を見て、アキトは満足そうにするのだった

「まさか…アキト君なのか!?そんな馬鹿な!
 テンカワ一家は火星のクーデターで全員行方不明になったはず
 それが何故今頃になってナデシコに…まさかご両親も生きているのかね!?」

「ナデシコに乗ったのはほんの偶然ですよ
 それと二人はもう死んだ」

「そ、そうか…」

コウイチロウは思いもしなかった再会に驚きつつも疑問を口にする
アキトはそんな疑問に淡々と答えただけだった、そして…

「さて…昔話はここまでだ、後のことはミスターに任せる」

「分かりました。
 それではミスマル提督、これから交渉にそちらに伺いますが宜しいですかな?」

「マスターキーは渡せんぞ」

「…分かった、では艦長共々こちらに来てくれたまえ」

自分の仕事は終わったとばかりに以降のことをプロスペクターに任すアキト
そしてプロスペクターが交渉に行くと言った後にさり気なくマスターキーの事も言っておく
現時点での優位性がなくなったコウイチロウはその条件で飲むしかなかった
そうしてプロスペクター、ユリカ、ジュンの3人はトビウメに向かった
その光景を暫く眺めていたアキトは何気なく呟いた

「これで暫くは暇になりそうだな、今の内に食事でもしておくか…
 ゴート、何かったら連絡してくれ。ルリ、行くぞ」

「はい、アキトさん」

そう言ってルリは嬉しそうにしながらトコトコとアキトの側に行くとそのままブリッジを出ていった

「それじゃ私も行くかな〜」

「あ、それじゃ私も」

そんな2人を興味深そうに見つめていたミナトとメグミも2人の後を追ってブリッジから出ていった
そしてブリッジに残されたのはゴートとフクベの2人だけだった…

「むぅ…」











現在トビウメで交渉が行われている中、ナデシコ食堂ではアキトとルリ、そしてミナトとメグミが同じテーブルで食事をしていた
あの後2人を追いかけたミナトとメグミが2人と相席を希望したのだ、特に断る理由のない2人は快くそれを受け入れた
最初2人はアキトに対して気難しい性格をしているのではないか?という先入観があった
しかしそれは一緒に食事をしてみることであっさりと違うことに気付かされた
そして暫く談笑しながら食事をしていたがミナトはずっと気になっていたことをアキトに聞いてみた

「ねぇ、アキトくんって、ルリルリと知り合いなの?」

「ん?あぁ、ルリとはここに来る前に半年ほどネルガルの研究所で一緒だったからな」

「そうなんだ…」

そして返ってきた答えは思っていたとおりの答えだった
その後にルリが言ったことを除いては…

「その間一緒に生活してました」

「「え?」」

「まぁ俺がルリの食事を作ってたからな」

「「へ?」」

一緒に生活していたというルリの言葉にミナトとメグミは驚いたが、更にその後にアキトの言葉には唖然とするしかなかった
誰がどう見てもこんな格好をした人間が料理を嗜むとは思えない
そして何とか固まり掛けた意識を元に戻しメグミが聞き直す

「ア、アキトさん…お料理できるんですか?」

「アキトさんの作る料理は絶品ですよ?」

「「はぁ〜」」

メグミの疑問にルリはまるで自慢するかのように答えるのだった
そんなルリをみて2人は何とも言えないような返事しかできなかった
そしてアキトの方を見ると何やら厳しい表情をしていた

「アキ…」
「残念だが話はここまでだ
 どうやらチューリップが動き始めたらしい」

「「「え!?」」」

ミナトが何かあったのか聞こうとする前にアキトが口を開いた
そして3人が驚きの声を上げたとほぼ同時にゴートからの通信が入ったのだった











体力的に劣るルリをアキトが抱きかかえてブリッジに到着した時
目の前でチューリップがトビウメの護衛艦クロッカスとパンジーを吸い込むのがほぼ同時だった
それから少し遅れてミナトとメグミがブリッジに到着する

「どうするテンカワ?」

ゴートの問いに一瞬だけ考える仕草をするアキト…

「ミスター達は?」

「交渉は失敗したらしい。
 急いでこちらに戻るという連絡があった」

「そうか…
 ルリ、グラティブラストをチャージ
 ゴート、もう1人のパイロットは出られるか?
 確かヤマダとか言ったな」

「俺の名はダイゴウジ・ガイだー!!!」

いきなり開いたウインドウに驚き、その大声にその場に居合わせた全員が顔をしかめる
当然ながらそのウインドウに映し出されているのはヤマダ・ジロウ…もといダイゴウジ・ガイ
そして場所はどうやらエステの中からのようであった

「どうやら出られるようだな
 ミスター達が戻ってくるまでチューリップの注意をそらせるんだ
 戻り次第グラビティブラストで撃破する、離脱するタイミングこちらで言う」

「おう、任せとけ!
 エースパイロットの実力を拝ませてやるぜ!」

バイザーで分かり難いがアキトも若干顔をしかめていた、それ程の大声だったのだ
それでもアキトは的確な指示を出し、ガイも自信満々に返事をし出撃していった

「テンカワ…
 お前が出た方が早いんじゃないのか?
 それにヤマダは一応怪我人だぞ?」

「撃破するわけじゃないからな…あいつでも問題はないだろう
 それに俺が出てもあの様子じゃあいつも出てきただろうしな」

ゴートの問いにルリ、ミナト、メグミの3人はさり気なく首を縦に振っていたが
アキトの言葉を聞いてそれも納得するのだった









今目の前のモニターにはチューリップの周りを空戦フレームのエステバリスが飛び交っている映像が映し出されている
プロスペクターにスカウトされただけあって腕の方は本当に一流らしく見事に囮をこなしていた
時々「ゲキガンフレアー」とか「ゲキガンウィング」とかが聞こえてくるのはご愛敬である

「ゴート、ミスター達の回収は?」

「うむ、たった今完了した」

「ルリ、グラビティブラストのチャージは?」

「はい、既に完了しています」

そんなヤマダに溜息をつきつつもアキトはゴートとルリに確認をするのだった
そして準備が全て整ったことが確認できると今度はメグミに指示を出した

「よし!ヤマダ機に連絡!
 至急離脱させろ!」

「はい!ヤマダさん、至急チューリップから離脱してください!
 ヤマダさん、聞こえてますか?ヤマダさん!?」

しかしメグミが幾ら通信してもエステからの反応はなかった
さすがにメグミも無視されたと思ったのか機嫌が悪くなったが根気よく通信を続けた
そしてそれを見かねたアキトが呆れたような声で通信を繋いだ

「……ガイ、死にたくなかったら離脱しろ」

「おぅ!了解!」

これに対する反応は実に早かった…
どうやらダイゴウジ・ガイという名前でなければ反応しない、このことには全員呆れるしかなかった
そしてアキトは改めて気を取り直すと顔を引き締めルリに命令を下した

「よし!
 グラビティブラスト、撃て!!!」

そしてアキトの命令と共にナデシコから漆黒の光が放たれた…
その光に飲み込まれたチューリップは徐々に重力波に押し潰され、ついには爆発した



「チューリップの消滅を確認しました」

ルリがアキトに振り向きながら現状を報告する
それに対してアキトは頷き、更に指令を下す

「よし、ヤマダ機を回収後、至急この空域を離脱
 以後は予定通りのコースで進んでくれ」

「「「了解」」」

ルリ、ミナト、メグミの3人はアキトの指令を受け作業に入る
そんな光景を眺めながらゴートは1人思うのだった
『テンカワが艦長をした方がいいのではないか?』と…そう、あくまでアキトはパイロット
そんなアキトの指揮に誰も異議を唱えず戦闘をこなす、まさにナデシコならではだ
その後ブリッジに戻ったユリカに『さっすがアキト♪』とか言われて迫られたのはお約束である


そして離脱していくナデシコをトビウメは黙って見送るしかなかった

「提督、追撃は」

「無駄だ、我々に勝ち目はない
 それに我が艦の足では追いつくことはできん」

「…ユリカ」

士官の1人がコウイチロウに進言するも、それはあっさりと却下された
そしてナデシコを見送るしかないコウイチロウ達とともにそこにはジュンが居るのだった


















あとがき



こんにちわ、双海 悠です。
こんにちわ、アシスタントのホシノ・ルリです(ペコリ)
悠:ふぅ〜疲れた(−−;
ル:一話書き上げるのに何日掛かってるんです?
悠:確かに一話だけど、実質二話分は書いたんですが…(汗)
ル:それはあなたが何も考えずに書くからですよ!
悠:はぅ!( ̄▽ ̄;
ル:今度からはもっとマシな書き方をするんですね
悠:善処します〜(汗)
  さて、今回アキトくんは少しだけ活躍です
  今回は剣術も使えることを披露しました、詳しくは書きませんでしたけど(^^;
ル:最初から剣術だけにしなかったのは何故なんですか?
悠:特に深い意味はないんです、両方使えるって事をどこかで書いておきたかっただけなので
  それに後々の話で都合がいいものですから…
  あ、機動兵器戦ではそういうのは使いません、機体がサレナなだけに(笑)
ル:あれは格闘戦には不向きな機体ですからね…
悠:代わりに鎌でも持たせてみようかという野望はありますけどね(爆)
ル:…死神だけにですか?安直な考えですね(ぼそっ)
悠:グハッ( ̄▽ ̄;
  でも細かな描写が苦手ですから何とも言えませんけどね…
  それと今回はガイくんがちょっとだけ活躍しました
  怪我してるのに頑張ってくれました、おそらく次回も頑張ってくれるでしょう(笑)
  できるだけ不幸にはしないつもりですが…ジュンとガイどっちがいいかな?(おぃ)
ル:やはりどちらかは不幸になるんですね、お約束ですか?
悠:お約束でしょう(きっぱり)
  ということでまた次回にて
  それでわ〜
ル:失礼します(ペコリ)



おしまい


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