「よし!
 グラビティブラスト、撃て!!!」

そしてアキトの命令と共にナデシコから漆黒の光が放たれた…
その光に飲み込まれたチューリップは徐々に重力波に押し潰され、ついには爆発した



「チューリップの消滅を確認しました」

ルリがアキトに振り向きながら現状を報告する
それに対してアキトは頷き、更に指令を下す

「よし、ヤマダ機を回収後、至急この空域を離脱
 以後は予定通りのコースで進んでくれ」

「「「了解」」」

ルリ、ミナト、メグミの3人はアキトの指令を受け作業に入る
そんな光景を眺めながらゴートは1人思うのだった
『テンカワが艦長をした方がいいのではないか?』と…そう、あくまでアキトはパイロット
そんなアキトの指揮に誰も異議を唱えず戦闘をこなす、まさにナデシコならではだ
その後ブリッジに戻ったユリカに『さっすがアキト♪』とか言われて迫られたのはお約束である


そして離脱していくナデシコをトビウメは黙って見送るしかなかった

「提督、追撃は」

「無駄だ、我々に勝ち目はない
 それに我が艦の足では追いつくことはできん」

「…ユリカ」

士官の1人がコウイチロウに進言するも、それはあっさりと却下された
そしてナデシコを見送るしかないコウイチロウ達とともにそこにはジュンが居るのだった






































機動戦艦ナデシコ
-revenger-

第5話 『火星へ向けて…』









































「いや〜テンカワさん、実にお見事でしたねぇ」

「大したことじゃない。それよりも済まないな、勝手なことをして」

「いえいえ、構いませんよ。
 経済的にも実に効率的でしたし、あなたの違う一面も見ることが出来ましたからねぇ」

そういって眼鏡を指で押し上げるプロスペクター
表情自体は笑ってはいるがその奥の目は鋭いままだ、そしてアキトと真っ向から向き合っている
その緊迫した空気を破ったのはゴートだった。

「所でテンカワ…
 先程の件だが、本気で艦長を切るつもりだったのか?」

「ゴートさん、アキトがそんなことするはずないじゃないですか〜♪」

「さぁな…
 だがミスマルのおじさんの性格は十分承知してるつもりだ」

ゴートの問いに対して最初に答えたのはユリカ本人だった。
しかもにこやかに、そしていかにもアキトを信用していますといった表情で…
当のアキトは完全な否定はしなかったが明らかにミスマル提督を説き伏せる自信はあったようだった。

(ですが否定しなかったということは最悪の場合は…)
そう内心思いつつもプロスペクターは表情を変えることなくアキトに問うてみる

「ほぅ…さすがといったところですか
 それにしても剣術まで嗜まれていたんですね、テンカワさん」

「正確に言えば抜刀術だがな…」

アキトはそう答えながら自分の腰元に目を向ける、マントをしていて分かり難いが刀は腰に差したままなのだ
そのせいでマントは不自然な形に盛り上がっている
この際だからとプロスペクターはダメもとで他にも何かできることがあるのかと聞いてみることにした。

「抜刀術…ですか、他にも何かお得意なのがおありで?」

「銃もある程度は使える」

そしてアキトはマントの中から今度はリボルバーを取り出してみせた。

「パイロットでありながら格闘術、剣術、そして射撃…まさに何でも有りですな」

「むぅ…」

簡単に言ってのけるアキトに対してプロスペクターとゴートの2人は絶句するしかなかった
確かにただのパイロットではないとは思っていたが、あきらかに2人の予想を超えているのだから…



「ところでミスター、ムネタケ達はどうするつもりだ?」

「おお、そうでしたな…
 このまま艦内に置いておくわけにもいきませんし、困りましたなぁ」

この話はここまでだ、という風にアキトが急に話題を変える
プロスペクター自身もこれ以上は詮索するつもりもなかったのでムネタケ達のことを本気で考え始めた…
手に持った電卓で計算しているのはおそらくムネタケ達に掛かる維持費(この時点で既に物扱い)であろう

「だったら俺に良い考えがある、任せてくれないか?」

「そうですか、でしたらこの件はテンカワさんにお任せしましょう
 ………できるだけ穏便にお願いしますよ?」

悩むプロスペクターはこれ幸いとアキトに任せることにしたが
最後に付け足したような台詞はその時のアキトの表情を見てしまったからだった。
バイザーに隠されて目元は分からないが口元だけが妙にニヤけた表情を見てしまっては
さすがにムネタケ達に同情せずにいられない、これからの彼らのことを思えば…


「わかった
 ん?ミスター……副長はどうした?」

「おや?そういえば…
 艦長、先程アオイ副長はヘリに乗っていましたか?」

「え?ジュン君ですか?
 …そういえば乗ってませんでしたね?」

(((((オイオイ)))))

ブリッジから出ていこうとしてアキトは誰か足りないことに気が付き
その事をプロスペクターに聞いてみたが返ってきた言葉に唖然とするしかなかった。
そして今までのやり取りをしっかりと聞いていたルリ、ミナト、メグミ、ゴートらも唖然としていた。
哀れジュン、ユリカとプロスペクターに存在を忘れられ見事に置いてけぼりであった。

そしてムネタケ達はどうしたかというと…
全員空きコンテナに詰められ、そのまま海上に放り出されたらしい…
せめてもの救いは数日分の食料と共に救難信号を発信するようにしていたこととか





























<地球連合統合作戦本部ビル>


ここ地球連合統合作戦本部では現在会議が行われている真っ最中であった
議題は当然ナデシコである

「ナデシコを見過ごすことはできん!
 地球人類は一致団結して木星蜥蜴と戦う時なのだ!
 だが彼らは火星に向かうという、こんな勝手を許すわけにはいかん!」

と、これは地球連合軍総司令官のお言葉…
世界各国の代表者達が聞く中で総司令官の言葉は続く
しかしそこに秘書官から緊急通信が入ったとの連絡が入る

「総司令!緊急連絡が入っています
 …その、ナデシコからです」

「なに?」

その言葉と同時に開かれたウインドウにはフクベ提督と何故か振袖姿のミスマル・ユリカが映し出されていた。

「あけましておめでとーございまーーす♪」


「「「「「「「おぉーーーーー!!!」」」」」」」

そしてそのユリカの姿をみて議会内に居た人達は騒然となる
そのほとんどが別の意味でかなり盛り上がっている人達なのはたぶん気のせいだろう…
後ろに居たフクベ提督が何とか代わろうとするが時既に遅かった。


「君はまず国際的なマナーを学ぶべきだな」

「へ?あらご挨拶どうも、折角だけど時間がありません」

総司令からキツイ言葉がもれるがユリカは気にする事なく言葉を続ける
そしてその口から紡がれた言葉は流暢な英語とは言え、まさに宣戦布告に近いものだった。
当の本人は穏便に済ませたいのかもしれないがそれを言われる方はたまったものではない
しかも軍人側から見ればふざけているとしか思えないような格好(振袖姿)をした女子大生くらいの女性に言われれば尚更である
まさに『可愛さ余って憎さ百倍』の諺通りだ。


「これでハッキリしたな…
 ナデシコは地球連合軍の敵だ!」

「あらそう?
 ではお手柔らかに…」

そういってユリカは不適な笑みを浮かべると軽くお辞儀をして通信を切った。
その態度は総司令を怒らすには充分なことだった、そして肩を震わせながら一気に捲し立てる

「ことはもはや極東方面軍だけの問題ではない
 全軍上げてナデシコを撃沈せねば秩序はない!」

「しかしあれを撃沈すれば最新鋭戦艦を失うことになります
 それにクルーは民間人です…ミスマル提督、あなたも何か」

総司令をなんとか落ち着かせとうと極東指令は何とか食い下がる
そして隣にいるミスマル・コウイチロウにも何か言うように求めるが…

「我が娘ながらとんでもないことを…
 振袖姿に色気がありすぎる
 フフッフフフッフフフフフフフフフッ」

親馬鹿…ここに極まれり





















ナデシコブリッジにて…


「現在地球は7段階の防衛ラインで守られている
 我々はこれを逆に一つずつ突破していかなければならない」

「スクラムジェット戦闘機と宇宙艦隊はバッタと交戦中
 おかげでこの2つは事実上無力化していますから、現在は地上からのミサイル攻撃である
 第四防衛ラインを突破中ということです」

ゴートとプロスペクターが現在の状況を報告する
まとまった軍事行動は久しぶりであった為、木星兵器が刺激され
現在世界各国で無人兵器群との激しい戦闘が起こっていたのだ。
そしてこの事が更に連合軍総司令官の怒りを増長させたのはさすがに知る由もない。

「でも面倒くさいね
 一気にビューンと宇宙に出られないの?」

「そう、それが出来ないんだなぁ〜」

それを聞いたメグミが疑問を口にするが、ミナトがそれを否定した
そしてそれを引き継いだのはオペレーターのホシノ・ルリ

「地球引力圏の脱出速度は秒速11.5q…
 その為にはナデシコのメイン動力である相転移エンジンを臨界まで持っていかないと
 それだけの脱出速度が得られないんです」

「そして相転移反応が臨界点を得られるのは高度5万q…
 だけどその前に第三、第二防衛ラインを突破しないといけないから…きゃっ」

「またディストーションフィールドが弱まったな」

ユリカがルリの言葉を更に引き継ぎ、全員に説明するように話していると突然衝撃がナデシコを襲い
ひとり振袖を着ているユリカは見事にバランスを崩し尻餅を付いた。
そんな中、ゴートは何事もなかったようにその衝撃の原因を誰に聞かすわけでもなく1人呟いていた。

「痛たたたたた…」

「着替えたらどうかね?」

尻餅を付いて着物がはだけてしまったユリカに対してフクベ提督は忠告する。

「はぁーい、分かりました…
 でもその前に♪」


















「ア〜キ〜ト〜〜♪」

アキトに振袖姿を見せるために格納庫まで来ていた。
実に天真爛漫なユリカらしい行動といえる

「ねぇアキトぉ、降りてきてよぉ〜」

「おいテンカワ、艦長が呼んでるぞ?
 いいのか?」

整備中のブラックサレナから降りてこようとしないアキトに対してユリカは更に呼びかけてきた
そんな光景をアキトと同じ所から眺めながらウリバタケはニヤニヤとしながらアキトに話しかけた。

「特に問題はないだろう?
 それに今はこいつの整備の方が重要だからな」

「しかしお前が降りていくまで居座りそうな雰囲気なんだがな…」

あまりユリカに関わりたくないのか、あくまで整備に拘るアキトだが
下を眺めたウリバタケはそう言って苦笑いするのだった。

「はぁ…仕方ないな
 ルリ、居るか?」

「はい、何でしょう?アキトさん」

仕方ないといった表情をしつつコミュニケでルリに通信を繋ぐと最後の手段に出るアキト

「今格納庫にユリカが居てな、うるさくて整備に集中できないんだ
 済まないが何でもいいから理由を付けてブリッジに呼び戻してくれ
 大体艦長がブリッジから長時間離れるわけにはいかないだろう」

「艦長は今格納庫なんですか? ちょうど良かったです
 先程からコミュニケに連絡を入れても応答がなかったので探していたんですよ」

「「………」」

ユリカが格納庫にいると聞いた瞬間、ルリの表情が一瞬ではあったが怒ったような呆れたような表情になった。
しかしすぐにいつもの表情に戻るとブリッジでもユリカを捜していたと告げた。
どうやらユリカはコミュニケを切っているらしく、さすがにこれには2人とも呆れるしかなかった。
だがこの通信の時、一瞬だけルリが見せた表情には違う感情が含まれていたのに気付く者は居なかった。
もしこれをミナト辺りが見ていたら気が付いたかもしれないが…

「すぐにゴートさんに行ってもらいますのでそれまで我慢してください
 あ、それともうすぐ第三次防衛ラインに接近します、何時でも出られるように準備の方もお願いします」

「わかった」

そう言ってルリとの通信を終えあとはゴートが来るのを待つだけとなった。

「ってこたぁ、ゴートの旦那が来るまでは賑やかなままだな」

「…そういうことだな」

それから暫くしてゴートがユリカを連れて行き格納庫にはいつもの静寂が戻った。
しかし整備班の面々は逆に寂しそうにしていたように見えたのは間違いではあるまい







その頃、第三次防衛ラインでは…


「ナデシコを…ユリカを絶対に止めてみせる
 行くぞ!目標…機動戦艦ナデシコ!」

そう言ってデルフィニュウムを駆るのはユリカ達に置いてけぼりにされたアオイ・ジュン
彼は第三次防衛ラインまで行き、ミスマル提督の説得すら振り切りナデシコを…ユリカを止めようと今まさに出撃しようとしていた。

































第三防衛ラインの機動兵器デルフィニュウム9機が接近していることが分かり、現在ナデシコでは戦闘態勢に移行しつつあった。

ナデシコ搭載機動兵器エステバリス空戦フレームを駆るのはヤマダ・ジロウ(魂の名前:ダイゴウジ・ガイ)である
未だ完治していない足の骨折もなんのその!しっかりと今回も出撃するのであった。
本当は待機の予定であったのだが本人がそんなことに納得するはずもなく…
放っておいても勝手に出撃する可能性もあるのでそれならばと、仕方なく許可が下りたというわけだった。

エステバリスが発進となりウリバタケが注意事項、ゴートが作戦を言っているのだが相手が悪かった…
ガイはそれらの事を聞くこともなく、1人ゲキガンガーの歌を口ずさみながらカタパルトへと移動していく

「ダメだ!ぜんっぜん聞いちゃいねぇ…
 ブリッジからの通信1回切ってもらえ!」

「お〜い、博士〜
 研究所のバリアー開けてくれ〜」

まったく説明を聞かないガイに対してのウリバタケの怒りも虚しくエステバリスは出撃しようとしていた。
そして更に何か言おうと思ったのだが、ふと見ると漆黒の機体がまだ動いていない事に気が付く

「おい、テンカワはどうしたんだ?
 さっきまでそこで待機していたはずじゃなかったのか?」

「あ〜あいつならもうすぐ来るんじゃねぇか?」

「そうか…ならいいけどよ」

その言葉を聞いてウリバタケは視線を漆黒の機体から目の前にいるガイの機体へと戻し
さっきまでは必死になって叫んでいたので気付かなかったが、説明するのを諦めた今になって重大な事に気が付いた。

「って、おいヤマダぁ!
 何手ぶらで行こうとしてやがる!死ぬ気かぁ!」

「だ〜か〜ら〜俺はダイゴウジ・ガイだっての!
 まぁ任せろって、いい作戦があるんだなぁ〜これが」

そう…目の前にいるエステバリスは全く武装していなかったのだ、これから戦闘を行おうというのに…
しかしガイはそんなウリバタケの叫びも無視し、まずは自己主張した後に作戦があるとにこやかに言うのだった。
そしてそこに少し遅れて出てきたアキトがやって来た。

「どうした?」

「おぉ、テンカワか…ちょうどいいところに来た。
 この馬鹿!何も持たずに出撃しようとしてるんだ」

「………お前一体何を考えてるんだ?」

まさに助かった…というような表情でウリバタケはアキトに助けを求めた。
2人が揉めている事情を聞いたアキトはさすがに呆れるしかなく、ガイに問い質すのだった。
そしてその言葉を待ってましたとばかりにガイは考えていた作戦を2人に説明し始めた。

「はっ、これだから素人は困る…いいかぁ、よく聞け!
 まず敵が正面に迫ってきたら俺が素早く下に回り込み敵を誘き寄せる
 当然こっちには武器がないと敵は思ってるはずだ
 だがここで研究所から射出されたスペースガンガー重武装タイプに空中で合体!敵が怯んだ隙に一気に殲滅!!
 これぞ名付けて!ガンガークロスオペレーション!!!

作戦の説明をし終えて1人興奮しているガイと呆れている2人、そしてアキトとウリバタケが同時に口を開いた…

「「……………バカ?」
 ってーか、うちにはスペースだかアストロだか知らねぇがガンガーなんて乗せてねぇんだよ!」

2人の口にした言葉はまったく同じだった…
そしてそれに付け加えるようにウリバタケはさっきの説明の中に出てきた聞いたことのない装備はないと言った
何となく予想は付いていたがないと言えば諦めるか?そう思ったのだ、しかし…

「1-Bタイプの事じゃないですか?」

「おぉ〜それそれ!」

ウリバタケの横で一緒に作業していた整備班の1人がガイの言った装備に気付いてしまい口にしてしまった。
そしてガイはそれを聞いて嬉しそうに同意するのだった。

「お前…敵がわざわざ合体するのを黙って見てると思ってるのか?
 合体とかをする前に撃ち落とされるのが関の山だ。
 それにアニメじゃないんだ、実戦でそんなことをしてたら死ぬぞ…」

「俺もテンカワと同意見だ…
 黙って武器を持ってこい!それが嫌なら待機してろ!」

それまで口を閉ざしていたアキトは先程の作戦に重大な欠点があることを指摘した。
当然その指摘にはウリバタケも同意する、アキトの言った通りそんなことが可能なのはアニメの中くらいなのだから…
そして武器を持ってくるように促すがガイは2人の指摘にすら反論した。

「はっ、そうやって俺様の活躍の場を取ろうって魂胆なんだろうがそうはいかねぇぜ!
 研究所は俺様が守ってみせる!」

「…………」

ガイをこの場に残して出撃しようとしていたアキトはガイから返ってきた言葉を聞いてブラックサレナの動きをその場で止めてしまった。
そしてアキトの口から思いも掛けない言葉が発せられた。

「…いいだろう、その作戦でやってみろ」

「お、お前まで何言ってやがんだ!?テンカワ!」

「へっ、なかなか物分かりがいいじゃねーか
 ダイゴウジ・ガイ!行くぜ!」

しかしアキトの雰囲気の変化にまったく気が付かなかったガイはブラックサレナが動きを止めた事を不思議にも思わず
活躍の場をエースパイロットである自分に譲ったのであろうとしか考え、ガイはそのまま単身出撃していった。






「おぉ〜来やがった来やがったぁ
 束になって来やがったぁ!」

「行くぞ…アタック!!!」

ひとり先行したガイのエステバリスとジュンの率いるデルフィニュウム部隊が戦闘を開始した。
デルフィニュウム部隊が接近してくるガイのエステバリスに向かって一斉にミサイルを発射する。
しかしガイは無数に迫ってきたミサイルを急降下で躱し、そのまま降下していった。
そしてそれを追ってデルフィニュウム部隊も全機降下していくのだった。

「よーし、着いてきた着いてきた
 今だウリバタケ!スペースガンガー重武装タイプを落とせ!」

「班長…ヤマダさんが何か言ってますよ?」

「本当にいいんだな?テンカワ」

自分の作戦通りに事が順調に進んでいると確信したガイはウリバタケに合体用の装備を射出するように通信を入れてきたので
ウリバタケは再度アキトに確認を取った、何しろ元々作戦自体に無理があるのだから…

「ああ…
 これであいつも少しは目が覚めるだろう」

「はぁ〜どうなっても俺は知らんからなぁ…
 ヤダマー、すぐ落とすから受け止めろよー」

作戦失敗を見越してもそれでもやらそうというアキトに半ばなげやりな感じでウリバタケは1-Bタイプを射出した。



「来た来た来た来たぁー!行くぜぇ!
 ガンガァァァァクロォォォォス!!!
 おぅわぁ!」

向かってくるスペースガンガー重武装タイプを確認したガイはこの作戦の見せ場である合体のタイミングを計りながら接近してくる装備に軸線を合わせた
そして今まさにアサルトピットを分離するか?という瞬間に後方から追ってきていたデルフィニュウム部隊のミサイル攻撃によって
スペースガンガー重武装タイプは見事に撃墜されてしまった…
さすがのガイもこれには顔を引きつらせていた、彼の頭の中には合体中の攻撃はタブーとなっていたのだから………
もちろんこの光景はナデシコからは丸見えで、すかさずユリカが通信を入れてきた。

「あのーもしかして作戦失敗ですか?」

「な、なんのぉ…
 根性ーーーー!」

ユリカの通信で我に返ったのか今度は降下から急上昇に切り替え、後方のデルフィニュウム部隊に向かっていった。
そしてその中の1機に目標を決めると自分の持つ必殺技を繰り出した。

「ガァイ!!
 スゥパァァァァァナッパァァァァァァァァァァァァ!!!」


右の拳にディストーションフィールドを収束し、いかなる装甲をも突き破る…まさに当たれば一撃必殺の技である
不意を付かれた不幸なパイロットはその攻撃を躱す事ができず、ガイの攻撃をまともに喰らい爆発した…

「おっしゃー!
 こいつはいけるぜー!なぁーっはっはっはっはっはっ!」

彼のこの攻撃はヒットアンドウェイなればこそ威力を発揮するのだが
自分の攻撃により撃墜された敵機を見て気をよくしたガイはその場で高笑いを轟かせるのだった…
当然その隙を見逃すはずもなく、デルフィニュウム部隊は彼を包囲する
しかしそんな状況になってもガイの高笑いは止まることはなかった……

「ヤマダさん完全に囲まれました」

そしてその状況を伝えるルリの台詞がブリッジに虚しく響くのだった…




「テンカワ…そろそろ行った方がいいんじゃねぇか?」

《master、私も整備班長と同意見です》

「そうだな、これで少しは懲りてくれればいいんだが…
 それにしても腕は一流だが性格に多少の問題有りとはよく言ったものだ」

かたや傍観者と化していたアキトもウリバタケとブラックサレナ搭載AIミコトの言葉に頷いて出撃することにした。
若干の愚痴をこぼしつつ…

「おいテンカワ!
 今声が聞こえたが誰かそこに居るのか!?」

「あぁ…それは帰ってきたらで説明する
 テンカワ・アキト、ブラックサレナ出るぞ!」

ミコトの声がウリバタケ達にまで聞こえたせいで外野の方はかなり驚いているようだった。
その事は後で説明すると返事を返すとアキトは戦闘空域に向かってブラックサレナを発進させた。




「ユリカ…力尽くでも君を連れて帰る
 抵抗するならナデシコは第三防衛ラインの主力と戦うことになる…
 これが最後のチャンスだ、ナデシコを戻して!」

「ごめん、ジュン君…私ここから動けない、ここが私の居場所なの…
 ミスマル家の長女でもない、お父様の娘でもない
 私が私でいられるのはここだけなの!」

戦闘も最終局面に入り、デルフィニュウム部隊に半ば無理矢理参加したジュンがユリカに向かって最後の説得を試みていた
しかしユリカも自分の意志を曲げるつもりはなくジュンの説得に応じる気配はなかった。

「僕の頼みでも…?
 ………だったら、まずはこいつを破壊する!」

「うぉーーー!
 離せぇーーーー!」

そう言ってジュンが向けた視線の先にはあの後数機を撃破し善戦はしたが、今はデルフィニュウムに両脇から拘束されているガイだった。
ジュンがガイに向かって発砲しようとしたその時、エステバリスを拘束していた2機のデルフィニュウムは爆発四散した…
そしてジュンの前に現れたのはブラックサレナだった。

「そこまでにしてもらおうか」

「あくまで僕の前に立ちふさがるのか…テンカワ・アキト!」

さすがに見殺しにする気はなかったのかアキトが遠距離からの狙撃で残っていたデルフィニュウムと共にガイを拘束していた機体をも撃破したのだった。
ユリカを取られたと思っているジュンにとっては、まさに最も憎らしい相手が目の前に現れたのだ
感情を剥き出しにしてアキトに食ってかかろうとしたが、ここで一番最初に行動したのはさっき拘束されていたガイだった。
相手の注意がアキトに向いたのでさっきのはらいせとばかりに奇襲を掛けたのだった、だが…

「喰らえぇぇぇ!
 ガァイ!!
 スゥパァァァァァナッパァァァァァァァァァァァァ!!!」

「甘い!その程度の技で!」

「なにぃ!?
 うおぉぉぉぉぉ!?」

このタイミングならばまず決まる、恐らくガイ自身もそう思っていただろう
しかしジュンはガイの必殺の一撃をあっさり躱すとそのままカウンターでエステバリスの頭部を打ち砕いたのだった…
それを目の前で見ていたアキトは意外な動きを見せるジュンに感心していた。

「ほぉ…やるじゃないか
 ただの士官候補のお坊ちゃまかと思っていたんだがな」

「勝負だ!テンカワ・アキト!!」

アキトがジュンに対して誉めているのか貶しているのか少々怪しい言葉を掛けるが
既にジュンの方は闘志を剥き出しにして突っ込んできていた。



今戦闘空域では漆黒の機体と純白の機体の2機だけが攻防を繰り広げている

《どうやら副長の実力はエースパイロット級のようですね、master》

「あぁ、本職のパイロットも一撃だからな…
 これ程の腕前だと副長にしておくのが勿体ないくらいだ」

《だったらこのままパイロットとして復職してもらっては如何です?》

「それでもいいんだが…
 そうなるとユリカのサポート役がいなくなる」

このアキトとミコトの会話の最中も当然戦闘中である
デルフィニュウムのミサイル全弾発射、すれ違い様の狙撃等これらの攻撃をあっさりと躱しつつ軽く反撃しながらジュンの力量を測るアキトだった。

《master、第二次防衛ラインに近づいています
 そろそろ頃合いでは?》

「そうだな…ではそろそろ終わりにするか!」

「な、なにぃ!?
 ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

ジュンが攻撃しそれをアキトが余裕で躱すといった行為が暫く続いていたが、幕引きは呆気なかった。
2機が組み合った時を狙って、ブラックサレナの背中に付いているテールバインダーがまるで生き物の様に動きデルフィニュウムを貫いたのだった。
この状態ではさすがにジュンも躱すことができず、機体に致命的なダメージを喰らうことになった。






「なぁーんだ、ジュンさんってあんまり強くないんですね
 ヤマダさんに勝っちゃったから強いのかと思った」

「そうねぇ…アキトくんに攻撃当たってなかったものねぇ
 それにあっさりと負けちゃったみたいだし」

この戦闘を見ていたナデシコのブリッジではメグミとミナトがそれぞれの感想を口にしたが
それに対してプロスペクターが相変わらずの笑顔で口を挟んだ。

「いやいや…
 それは違いますよ、お二人とも」

「「え?」」

プロスペクターの言葉にメグミとミナトは首を傾げたが、その後に続いたゴートの言葉に驚くことになった。

「アオイが弱いんじゃない、テンカワが強すぎるんだ…」

「「へ?」」

「その通りです…
 アオイさんの実力ならば、おそらく軍のエースパイロットにもなれます
 実のところ今回のスカウトで一番悩んだのがアオイさんなんですよ
 もちろん副長かパイロットかでです」

そしてプロスペクターの意外な言葉に2人はもっとも驚くのだった

「「うっそぉー?」」






アキトとジュンの勝負は既に決着が付いていた

「…チェックメイトだ」

「くっ…ダメなのか…
 僕じゃ奴に勝てないのか…?」

「並の相手ならお前でも勝つこともできただろうが、残念だが俺とでは実力の差が有りすぎる…
 今回は相手が悪かったと諦めるんだな」

アキトの言葉にジュンはコンソールに拳を叩きつけた後、コクピットで項垂れていた…

「………行け、テンカワ・アキト」

「………どうだ、一緒に来ないか?ジュン
 どうやらナデシコは人材不足らしいからな」

最早諦めたのか若干なげやり気味な台詞をアキトに投げかけるが
逆にアキトはジュンをナデシコに戻るように説得し始めた。
さすがにこれには驚いたのかジュンは顔を上げ、アキトをモニター越しに見つめた。

「なっ!?……今更僕にナデシコに戻れというのか?」

「ああ…ユリカには優秀なサポート役が必要だ。
 それにお前がいなければ誰がユリカを守るんだ?」

「……テンカワ」

何を今更…と言いたげにジュンはアキトに言うが
アキトの言った台詞はジュンの心を動かすには充分な威力を秘めていた

「ジュン、ユリカのナイト役はまだ空いてるんだぞ?
 後は…今後のお前次第だ」

「…………わかった」

「そうこなくてはな
 さて、あいつを回収してナデシコに戻るとしよう」

「あぁ…」

そしてアキトとジュンは戦闘不能に陥り、何とか墜落だけは避けようと辛うじてその場を漂っていたガイを回収しナデシコに戻って行った。
ジュンの復職に関してはプロスペクターは異存はなく、快く了承が得られた。

アキト達が帰還した直後に第二防衛ラインのミサイル群がナデシコを襲ったが
相転移エンジンが臨界に近づいたナデシコのディストーションフィールドによってそのほとんどを無力化していた…
そして最後に残った第一防衛ライン『ビッグバリア』ですらもはやナデシコを止めることはできなかった…
連合軍は最後の意地とばかりにバリア衛星の出力を最大にして抵抗は試みたものの、逆にその幾つかを破壊される結果となってしまった。


こうしてナデシコは無事に地球を脱出し火星へと旅立って行くのだった……。





あとがき



こんにちわ、双海 悠です。
こんにちわ、アシスタントのホシノ・ルリです(ペコリ)
悠:………
ル:またですか?またなんですね!?(呆)
悠:最早言い訳不能です…(汗)
  しかも最悪なことに暫くはちょっと忙しくて更新スピードは上がりそうにないんですよ
ル:はぁ……何れ呆れられますよ?(ぼそっ)
悠:ぐはっ!( ̄▽ ̄;
ル:まぁ…いいです。
  それにしても何でジュンさんが強いんです?
  不幸になる予定じゃなかったんですか?
悠:最初はTV通りの役柄でもいいかな〜とか思ったんだけど予定変更です(笑)
  うちのジュンくんは強くいきます、アキトくんの次ぐらいに…
  でも女性関係では不幸になるかも(爆)
ル:そうなんですか?
  まぁ確かにユリカさん狙いでは厳しいかもしれませんね(クスッ)
悠:もしかしたら奇跡が起こるかもしれませんけどね(笑)
ル:奇跡は起きないから奇跡って言ううんですよ…
悠:ルリさん、それキャラ違う
ル:そんなこという人嫌いです
悠:……
ル:……ポッ(赤面)
悠:それではまた次回お会いしましょう〜
ル:失礼します(ペコリ)




おしまい


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