「………行け、テンカワ・アキト」

「………どうだ、一緒に来ないか?ジュン
 どうやらナデシコは人材不足らしいからな」

最早諦めたのか若干なげやり気味な台詞をアキトに投げかけるが
逆にアキトはジュンをナデシコに戻るように説得し始めた。
さすがにこれには驚いたのかジュンは顔を上げ、アキトをモニター越しに見つめた。

「なっ!?……今更僕にナデシコに戻れというのか?」

「ああ…ユリカには優秀なサポート役が必要だ。
 それにお前がいなければ誰がユリカを守るんだ?」

「……テンカワ」

何を今更…と言いたげにジュンはアキトに言うが
アキトの言った台詞はジュンの心を動かすには充分な威力を秘めていた

「ジュン、ユリカのナイト役はまだ空いてるんだぞ?
 後は…今後のお前次第だ」

「…………わかった」

「そうこなくてはな
 さて、あいつを回収してナデシコに戻るとしよう」

「あぁ…」

そしてアキトとジュンは戦闘不能に陥り、何とか墜落だけは避けようと辛うじてその場を漂っていたガイを回収しナデシコに戻って行った。
ジュンの復職に関してはプロスペクターは異存はなく、快く了承が得られた。

アキト達が帰還した直後に第二防衛ラインのミサイル群がナデシコを襲ったが
相転移エンジンが臨界に近づいたナデシコのディストーションフィールドによってそのほとんどを無力化していた…
そして最後に残った第一防衛ライン『ビッグバリア』ですらもはやナデシコを止めることはできなかった…
連合軍は最後の意地とばかりにバリア衛星の出力を最大にして抵抗は試みたものの、逆にその幾つかを破壊される結果となってしまった。

















機動戦艦ナデシコ
-Revenger-

第6話 『新たな仲間と共に』
















多少ゴタゴタはあったが無事に地球引力圏を脱出したナデシコ…
しかし現在格納庫は非常に慌ただしい状態になっていた。
何故なら先程まで戦闘を繰り広げていた3機が戻ってきた為である。
そして整備班長であるウリバタケが一番最初に確認したのがヤマダ機の状態だった。
無茶を承知しながらも失敗確実な作戦を実行しただけにかなり心配はしていたのだ。

「おい、ヤマダの方は生きてるか!?」

「何とか生きてるようです」

取り敢えず本人の無事を確認した後、近寄ってきたアキトとジュンを睨みながら愚痴をこぼした。

「はぁ、それにしても随分と壊してくれたもんだぜ…
 おまけに1−Bタイプはお空のお星さまになっちまいやがった。」

ヤマダの為とはいえ作戦を実行させたのは実質アキトだった為に素直にウリバタケに謝った。
そして壊した張本人であるジュンも一緒になって謝った。

「すまなかったなウリバタケさん」

「ホントにすまない」

2人とも素直に謝ってきた為にウリバタケのお小言も少しで終わった。
そしてこれからの事をアキトに訪ねるのだった、無茶な作戦を実行してまでやりたかった事を…

「まぁ全員無事だったからいいけどな…
 で?どうするんだ?テンカワ」

アキトもウリバタケの言いたい事が分かっていたのか、破損したエステバリスから降りてくる
ヤマダを視界に捉えながらウリバタケに答えるのだった。
そしてジュンにブリッジ行くように告げるとアキトはヤマダに近づいていった。

「ああ…あいつのことは任せてもらおう
 ジュン、お前はブリッジへ行ってミスターとユリカに復職を報告しておけよ」

「ああ、わかった…ありがとう、テンカワ」

ジュンはこれから起こる事を気にしながらも格納庫を出ていくのだった。





豪快に破損した自分の愛機を見つめながらガイは悔しそうに呟いていた。

「くっそー、なんで俺様がこんな目に…」

実際ナデシコに戻れただけでも奇跡に近いのだが
そこはさすがにプロスペクターの選んだ人材だったというところであろう…
そして格納庫から出ていこうと踵を返したところにアキトが近寄ってきた。

「ちっ、テメェか…
 俺を笑いに来たのか」

近寄ってきたアキトを睨み付けながらガイはアキトに向かって口を開いた。
しかし返ってきた言葉はキツイものだった。

「そうだ、最初に言ったはずだ…あの作戦には欠陥があると
 それに皆の言うことも聞かずに飛び出して結果があれだ、笑うなという方が無理だな」

「くっ…」

アキトの口から紡がれる言葉は辛辣なものだった…
しかし、事前に作戦の事を否定されていた上にその作戦自体が失敗した為に何も言えないガイだった。

「今回の事でお前の事がハッキリとわかった気がするよ…
 お前自身は自分の事を正義の味方だと思っているようだがそれには程遠い
 俺から言わせればお前は只の目立ちたがり屋でしかないんだ!」

「なんだとぉ!」

これにはさすがのガイも激昂した。
自分はゲキガンガーのような正義の味方に憧れ、只それだけの為にパイロットになったのにそれを否定されたのだから…

「なら聞こう…お前の信じるゲキガンガーは仲間の話も聞かずに飛び出したりするのか?
 仲間とは協力せずに一人で敵を倒そうとするのか?
 お前は只単にゲキガンガーの名を語って目立ちたいだけなんだ!」

「!!!」

アキトの言った台詞に言葉をなくすガイ…
まさしくガーーーン!という表情のまま固まってしまった。

「お前の考えが変わらないようならこの戦艦を降りるんだな
 これ以上貴様の勝手な行動のせいでみんなを危険に晒すわけにはいかない
 正義の味方になる以前に自分が一体何をしたいのか考えろ…
 それと守るモノを見つけろ、そうすれば自ずと何をすべきか分かるはずだ」

取り敢えず言いたい事は言ったのか、固まったままのガイをその場に残して
アキトは自分達を離れて見ていたウリバタケの方に向かっていった。




「いいのか?テンカワ…あいつ放心してたぞ?」

「構わん…これだけ言って変わらないようならミスターと相談するだけだ」

近寄ってきたアキトに声を掛けつつも目線は未だヤマダの方に向いているウリバタケ…
そんな事は気にすることもなくアキトはヤマダを一瞥しながら呟くだけだった。

「まぁこの件は任せたよ。
 でだ!発進前の声の正体は教えてくれるんだろうな?」

この件はここまで!っというような感じでいきなりウリバタケの表情が変わった。
そして発進する前に聞こえた声の正体の事に話題が変わった。
この時のウリバタケの表情は『これから一体どんな秘密を聞かせてくれるんだ?』という風にニヤケていた。
アキトはそんな彼の表情をみて苦笑いしながらサポートAIであるミコトを呼ぶのだった。

「そうだったな…ミコト、自己紹介だ」

そしてアキトの声に反応して彼の肩口付近にウインドウが現れ、その中には一人の少女が映っていた。

《はい、master
 初めまして整備班の皆さん、私はブラックサレナ搭載AIミコトです。
 以後お見知り置きを…》

自己紹介を終えるとミコトと呼ばれたその少女はウインドウの中で流暢にお辞儀して見せた。
この時点で気が付いた者は居なかったが、その少女は少しだけルリを大人にした風な感じの容姿をしていた。

「「「「「「なっ!?」」」」」」

突然現れたウインドウの中の少女が放った言葉はウリバタケを筆頭にその光景を眺めていた整備班を凍り付かせた。
しかし、そんな事に気が付く風でもなくアキトはミコトについて説明し始めた。

「こいつには戦闘中、俺のサポートをしてもらってる
 今はCGで姿を見えるようにしてはいるが普段は文字と音声でしか認識できない。
 ん?…どうしたんだ?」

説明しながらフッと周りにいる面々に視線を戻した時になってアキトは漸く周りの状況に気が付きどうしたのか尋ねた。
そんなアキトにウリバタケは驚きの表情を隠せないまま呟くのだった。

「お、おい、テンカワ…こいつは一体!?」

「自己紹介してただろう?AIのミコトだ」

ウリバタケの質問にあくまで冷静に答えるアキト…
しかし彼が聞きたい事はそんなことではなかった。

「そうじゃない!これほどのAIを一体誰が作ったってんだ!
 ナデシコのオモイカネでもこんなことできねぇぞ!」

「それは教えることは出来ない…
 まぁ他に聞きたいことがあったらミコトに直接聞くといい
 ある程度のことは教えてくれるはずだ。後は頼んだぞ、ミコト」

《はい、master》

半分怒ったような感じでアキトを問い詰めようとするウリバタケではあったが
アキトが表情を曇らせ俯いたまま答えを濁した為にそれ以上のことを追求する気にならなかった。
そしてアキトは後のことをミコトに任せてその場を後にするのだった。
彼が居なくなった後も格納庫では暫くの間、ミトコに対して整備班による質問責めが収まることはなかった…

ちなみに…そんな騒ぎがあったにも関わらず、ガイはその場に佇んだままだったと後に整備班の一人は語ったとか
















ナデシコは現在、ターミナルコロニー『サツキミドリ2号』へと向かっていた。
ここで残りのパイロットの補充と最後の補給を済ませて火星へと向かう手筈になっているのだった。

「あと1分でコロニー見えます」

「わかりました、停泊準備をお願いします」

ルリの報告を聞き、ユリカは各員へと指示を送る
そして他の面々も着々と作業を進めていった。
その中の一人、メグミ・レイナードはサツキミドリ2号へと通信回線を開いた。

「こちらは機動戦艦ナデシコ、サツキミドリ2号聞こえますか?」

「こちらサツキミドリ2号了解
 いや〜可愛い声だねぇ」

メグミの通信を受けたサツキミドリ2号の管制官は返事を返した後、彼女の声を聞いた感想を嬉しそうに言ってきた。
かたやメグミはというと、管制官の言うことは聞き流し業務を遂行していた。
向こう側は仕事慣れしている為か、かなり言葉遣いも砕けたものだった。

「これより停泊します、準備の方は…」

「OKOK、任しといてくれ」

しかし、通信中いきなりノイズが入りそのまま途絶えてしまった。

「え?なに?」

「コロニー方向より衝撃波来ます」

「被害状況を確認
 本艦は警戒しながらそのまま前進します…」

突然の通信途絶にメグミは混乱していたが、その横に居るルリは別段慌てた様子はなく冷静に状況を報告していた。
そしてその報告を聞いたユリカも冷静に指示を下す。

「ディストーションフィールドに飛来物が接触!
 …どうやらサツキミドリ2号からの脱出艇のようです」

「至急救助をお願いします
 ディストーションフィールドを一時的に解除、救助が終わり次第再展開してください」

ディストーションフィールドによって脱出艇が弾かれたことを報告するルリ
ユリカは脱出艇の救助を要請すると更なる指示を下していくのだった。

「さっきまで…交信していたのに…
 さっきまで…お喋りしてたのに……」

「メグミちゃん、生存者居ないか気を付けて」

かたや初めて人の死を実感したメグミはパニックに陥っていた、そんなメグミにユリカからは指示が下るだけだった。

「え?あ、はい」

「側面より機影を確認、数は4機!
 機影拡大します」

ユリカの言葉で我に戻ったのかメグミは生存者が居ないか探し始めた。
その直後ルリによりナデシコに近づいてくる機影が発見された。
そして報告を聞いて攻撃準備を始めるゴート

「攻撃準備完了、攻撃を開始する!」

「待って!あれは…
 エステバリスの0G戦フレーム!」

攻撃準備が整い今まさに攻撃しようとしたその瞬間、ユリカによりその攻撃は中止された…
モニターに映し出された映像にはエステバリスが映し出されていた。

「味方なら識別信号を送ってくるはずだ」

「いいえ…識別コードを忘れてるだけ」

接近するエステバリスを敵と判断しているゴートはユリカに攻撃を促すが
ユリカは自信たっぷりに頭を振るだけだった。

「何故そんな自信たっぷりに?」

「ほら!あれを…」

あまりの自信のあり方にゴートはユリカに問うが、彼女はニコニコしながらモニターに写るエステバリスを指さした。
そしてそこに写ったエステバリスを見てゴートは怒るどころか呆れるしかなかった。

「ワイヤーに白い目印…牽引する時の基本だが、それは車の話だ!」

「木星の蜥蜴があれくらいお茶目だったらよかったのにね」

そんな会話を聞いていたミナトは笑いながら接近してくるエステバリスを見つめるのだった。






格納庫には先程救助された脱出艇と共にサツキミドリ2号からやってきたエステバリスが格納されていた。
そして皆が見守る中、コクピットのハッチが開かれた。

「かぁ〜たまんねえぜ、ったくよ〜」

「「「お、おんな…」」」

その場に出てきた人物を見てその場にいた全員が驚くのだった。
その時ちょうど辿り着いたユリカとジュンも同様に驚いていた。
てっきりエステバリスに乗っているのは男のパイロットだと思っていたからだ。
そして皆が呆然と佇む中、その女性パイロットはユリカに向かって口を開いた。

「おい、まず風呂…それから飯な!」

「あ、あの…あなた名前は?」

「人に聞く時はまずてめぇからだろ」

突然話しかけられて戸惑うユリカだったが、取り敢えず名前を聞いてみた。
しかし、問い掛けられた方は礼儀を弁えなかったユリカに対して逆に問い返してきた。

「私はミスマル・ユリカ、本艦の艦長です」

「あたしはスバル・リョーコ…
 で?風呂何処?」

逆に問い質されたユリカはにこやかに自己紹介をした。
そしてそれを聞いたパイロットの方も自らの名前を名乗るのだった…

「エステバリスの0G戦フレームは4機だけか?」

そんなやり取りを後ろから眺めていたゴートはリョーコに向かってエステバリスのフレームの数を問うた。
当初の予定では全部で5機の予定だったからだ。

「格納庫の残骸の中にまだ1機残ってるけど
 さすがに全部は持ち切れなかったぜ」

「あとの2人のパイロットはどうした」

「さぁなぁ、生きてるのかおっちんでるのか」

格納庫にまだ残ってはいるとゴートに説明するリョーコであったが
あの騒ぎの中4機分を運んできたリョーコは大したものである。
ゴートもその事を十分に分かってはいるのか今度はパイロットのことを尋ねるが、これに関してはリョーコも分からないらしかった…
しかし、先程収容された脱出艇から現れた人物によって一瞬訪れた静寂は破られた。

「生きてるよ〜ん」

「うぇ!」

これにはさしものリョーコも驚いていた。 そしてもう一人のパイロットである女性は呆然と自分を眺める面々を前に自己紹介を始めた。

「どーもー、あたしパイロットのアマノ・ヒカル
 蛇使い座のB型18歳〜
 好きな物はピザの端っこの堅いとことちょっと湿気たお煎餅でーす。
 よろしくお願いしまーす。」

そして自己紹介を終えた後、呆然と自分を見つめる面々に気が付いたのか
疑問を口にすると、その言葉で皆我に返ったのか苦笑いしながら否定するしかなかった。

「あれ?どうかしましたか?」

「「「い、いいえ」」」

「2人残りゃ上等かぁ…」

そんな光景を見ながらリョーコは溜息を付きながら呟くが
その言葉に反応したのか通信機からもう一人のパイロットの呟きが聞こえた。

「勝手に殺さないで」

その声に一番に反応したのはヒカルだった。

「イズミちゃん!生きてたんだ、今何処?」

「それは…言えない
 それよりツールボックス開けてみて…」

返事に従ってリョーコは先程自分がエステバリスと共に持ってきたツールボックスをリモコンにより開いてみた。
そしてその中からスモークと共に出てきたのは最後の一人のパイロットだった。

「あ〜空気が美味しい」

その姿を見た途端リョーコは怒りを顕わに近寄り、全力でツールボックスを閉めようとする

「おらぁーーーー!」

しかし中にいた人物は閉められては堪らないと全力で抵抗しながらも自分で言った駄洒落に一人爆笑するのだった。


「ああぁぁぁぁいやぁぁぁぁ!
 お願いだから閉めないで…鯖じゃないんだからさぁ
 ……くくく、あーっはっはっはっはっ」

そしてそんなイズミを見つめながら先程の駄洒落に怒りを削がれたリョーコは溜息を付きながら簡単に彼女の自己紹介を済ませた。

「こいつはパイロットのマキ・イズミ、以下略」

こうしてナデシコには個性的な女性ばかりのパイロットが追加されたのだった。
格納庫は唖然とした表情の面々が立ちつくす中、イズミの笑い声だけが木霊していた…










格納庫での出来事も落ち着いてナデシコを案内している途中
ユリカは残りのエステバリスのフレームを回収してくるように3人に依頼した。

「エステバリスの点検補修後に生存者の確認と残り1機の回収をお願いね?」

「へいへい、人使いの荒い船だねぇ」

「そういえば、ここの居るっていう2人のパイロットは?」

ユリカの言葉にげんなりしながらもリョーコは承諾した。
そのやり取りが終わると今度はヒカルが先に乗っているパイロットについて尋ねてきた。
そのヒカルの質問を聞いてユリカは待ってましたとばかりに自慢げに答えるのだった。

「一人はテンカワ・アキト、ナデシコのエースパイロットであり私の王子さまです♪
 私がピンチになったらいつも助けてくれるんですよ♪
 そういえば…もう一人のパイロットのヤマダさんは?
 プロスさん何処に行ったか知ってます?」

「さぁ…何やらテンカワさんと言い争っていましたが
 その後に何処に行かれたかは…」

ユリカの分かり難いパイロットの紹介に唖然としている3人娘を気にも留めず
プロスペクターにガイのことを尋ねるが彼も知らないようだった。

そんな二人のやり取りを呆然としながら聞いていたリョーコはパイロットの事を詳しく聞くことを諦め
先程格納庫で目にした黒い機体の事を聞くことにした。

「ところでよ…あの格納庫にあった黒い奴は何だよ?
 もしかして新型か?」

「え〜あたし達のが一番新しいじゃなかったの?」

その事を聞いてヒカルもちょっと不満げな言葉と表情をプロスペクターに向けた。
しかしプロスペクターから返ってきた答えは先程より更に分かり難い答えだった。

「あれはテンカワさんの私物でして…
 我々もよく分かっていないのです、はい」

「「はぁ?」」

そしてそのままこの話は訳の分からないまま終わってしまい
結局3人娘は後からゴートに詳しく聞くまで殆どの事は分からずじまいだった…





暫くしてエステバリスの点検等が終了した為、リョーコ達3人は生存者の確認と
残りのフレームを取りにサツキミドリ2号に向かっていった。
そしてその3人を追うべく格納庫に一人の男が颯爽と現れた。

「おい!お前宇宙用乗れるのか!?」

「任せろウリバタケ!俺だってパイロットだ、基本くらい知ってるぜ!」

「だからその基本を知ってるのか!?お前は!!」

ウリバタケは何度もその男、ガイを押し留めようとはしたがエステバリスに乗り込まれてしまい
もうこうなっては彼らの手に負えるはずはなかった。

「よーし、待避だー!
 馬鹿が無茶するぞー!」

またしてもガイは皆の制止を振り切るかたちで飛び出していった。
そしてその光景を今回は黙って見つめるアキトだった…
先程見た彼の表情は今までのものとは違っていた為にそれを確認したかったのだ。
そんなアキトの期待に応えるが如く、ガイの乗ったエステバリスはナデシコとサツキミドリ2号のちょうど中間点で制止するのだった。




先行しているリョーコ達はナデシコでの騒動を知る由もなく既にサツキミドリ2号に到着していた。

「生物反応は無し」

「目的ポイントの位置確認」

「豚の角煮…ククク」

生存者の確認を認められなかった為に3人はフレームの回収に向かうことにした。
そんな中イズミは一人駄洒落を呟いて笑っていたが…

「よーし、突っ込むぞぉ…ナデシコからのエネルギーライン切れるからな
 予備バッテリー動作確認」

「素潜り開始〜」

「豚の角煮……あっはっはっはっ」

ナデシコのエネルギーラインから外れた3機はサツキミドリ2号内部に進入していった。 その中イズミだけは先程言った自分の駄洒落に笑いが止まらなくなっていた… そんな仲間を苦笑いしながらリョーコとヒカルは奥へと進んでいった。
「あ〜〜っ、おっきい真珠み〜っけ」

「さてと…じゃ回収作業はじめっかぁ」

格納庫部に到着した3人はそこに横たわる0G戦フレームを発見した。
そしてフレームを確保する為に作業を開始しようとしたその瞬間、動くはずのない目の前の機体が動き出した。
よく見ればその機体にはバッタが取り憑いており機体を制御しているようだった。

「なにぃ!?」

「デビルエステバリスだぁ!」

「蜥蜴にコンピューター乗っ取られてる!?」

その光景に驚くリョーコ…
その機体を見てとっさに名付けるヒカル…
そして最も冷静に状況を見つめていたのはイズミだった。
三者三様の反応ではあったが咄嗟の判断はさすがはプロスペクターがスカウトしただけの人材である。
デビルエステバリスは立ち上がった瞬間にバッタのミサイルを発射、3機を狙ったが
3人ともディストーションフィールドによってそれを防いでいた。

「くっそぉー、エネルギーの無駄遣いさせやがって!
 総重量はそっちの方が上なんだ、スピードの差で懐に潜り込んで…接近戦なら!」

そう言ってデビルエステバリスに突っ込んでいくリョーコであったが
相手は異様に素早く捉えることが出来なかった…

「うえぇ〜ん、速すぎるよぉ」

「図体重そうなくせに…やるわね!」

ヒカルとイズミもリョーコに倣って敵に接近しようとするが動きに翻弄されて逆に反撃される始末だった。

「どうするリョーコぉ?」

「ヘヘ、こちとら売られた喧嘩だ…やってやるぜぇ!」

リョーコに救いを求めるようにヒカルは問い掛けるが返ってきた言葉は強敵と相対して
俄然やる気になったリョーコの台詞だった。
そしてその言葉を合図として3人のコンビネーション攻撃が炸裂した…
ヒカルとイズミが囮になって注意を引きつけリョーコが接近する隙を作り出したのだった。
そしてまんまと相手の懐に飛び込むことが出来たリョーコはフルパワーでナックルガードに包まれた右の拳を叩き付けた。

「ボディががら空きだぜぇ!」

リョーコの攻撃を受けたデビルエステバリスは機体をくの字に折り曲げながらサツキミドリ2号の隔壁を突き破って
宇宙空間へと飛び出していった、ナデシコの方へと向かって…

「しまったぁ!ナデシコの方にいっちまったぁ!
 あっちには誰も居ねぇや」

リョーコ達3人は慌ててナデシコに戻ろうとするがとても間に合うような距離ではなかった。
そしてレーダーを確認した時にナデシコ前にいる1機のエステバリスに気が付いた…
その機体の識別からパイロットは先程ゴート・ホーリーから聞いていたヤマダ・ジロウと分かったので咄嗟に叫ぶことしかできなかった。

「ヤマダ!
 そいつを倒せ!」

敵が接近してくる事に気が付いたウリバタケもナデシコの前衛に出ているガイに対して叫ぶのだった。

「お前もアタックだぁ!」

ガイにも自分の方に向かってくる敵は確認できていた。
そして格納庫でアキトに言われたことを思い出しながら先程メグミ・レイナードと展望室で話し合ったことを振り返っていた…
その時になってやっとアキトに言われたことが分かったのだった
今の自分には守りたいものがある…その為にもここで負けることは許されないのだ。

「ナデシコは…メグミは俺が守ってみせる!
 行くぞぉ!ゲキガンフレアー!!!」

ガイの咆哮と共に彼のエステバリスは一筋の流星となり同じように向かってきたデビルエステバリスと激突した。
そして2機が激突した空間で大爆発が起こるのだった…




戦闘終了後、格納庫では歓声が沸いていた。
敵を見事に撃破したガイが皆によって出迎えられていたのだった。
そして整備班連中に手痛い祝福を受けた後、格納庫を出ようとしたところでメグミが出迎えに来ている事に気が付き
彼女の側に嬉しそうに近寄っていった。

「おめでとう、ガイさん♪」

「全部メグミのおかげだ…」

そう言って抱き付いてきたメグミに少し戸惑いながらも彼女に感謝するのだった。
彼女との展望室ので語らいによってアキトに言われた事に気が付かなければ以前の考え方のまま戦闘に繰り出し
もしかしたらもうここには立ってなかったかもしれないのだから…
2人はお互い照れていたが見つめ合っているうちにお互いの顔が近付いていき口付けをするのだった。
そして2人は寄り添いながら格納庫を後にした…
展望室で一体何があったのか、それは永遠に2人だけの秘密となるだろう
2人が共に歩んでいく限り………

その光景を遠くから見つめていたアキトはバイザー越しでも分かるほどにこやかな表情をしていた。
ガイとメグミの仲を微笑ましく思ったのか、ガイがパイロットとしての自覚に目覚めたからなのか
もしくはその両方かもしれないが…
こうしてナデシコは一人のクルーも欠けることなく火星へと向かっていくのだった。





あとがき



こんにちわ、双海 悠です。
こんにちわ、アシスタントのホシノ・ルリです(ペコリ)
悠:前回の後書きに書いた通り遅目の更新となりました(汗)
ル:まさに有言実行っていうやつですね…自慢できないですけど(呆)
悠:もう暫くはこんな感じになってしまいますがご了承下さいませ(^^A
  兎にも角にも第5話が終わりました。
  もう少しでやっと火星へ辿り着く事ができます…長かった(笑)
ル:過去形ではなく現在進行形ですよ?(ぼそっ)
悠:うぐぅ…(汗)
ル:それにしても今回は随分とヤマダさんの出番が多かったですね…私の気のせいでしょうか?
  あとアキトさんと私の出番がほとんどないようにも見えますが?(怒)
悠:これは仕方がないんです…
  ここで君達を目立たせたらヤマダの存在意義がなくなるから…
  まぁ出番がなかった事はライバルを一人脱落させたので許してください(爆)
ル:メグミさん…ですか、確かに一人減りましたね♪
  ですがこの後また増えるというのは許しませんよ?(にやり)
悠:ギ、ギクッ!(汗)
ル:増えるん…ですね(怒)
悠:……
ル:………
悠:えー、ヤマダとメグミの2人はこのまま相思相愛になってもらって色々と盛り上げてもらおうと思ってます。
  最初はジュンも考えていたんですが、やっぱりユリカ一筋でいってもらいたいので止めました(爆)
  2人の間に何があったかは敢えて書きません、皆様の都合の良いように想像してみて下さい(おぃ)
  それからAIミコトですが、容姿は『劇ナデ』ルリの髪の色を変えてもう少し大人にした感じです。
  あとストレートヘアってことで(笑)
  何でこの容姿かというのはまた追々と…
  それと本当はこの話を次の話と統合しても良かったんですが敢えて書いてみました。
  ですから少し纏めきれなかった感じが自分ではしています(苦笑)
  その辺のところは大目に見てやって下さい(^^;
  えっと、他には…
ル:…………(じーーーーっ)
悠:えっと…えっと……(汗)
ル:滅殺デス♪(はーと)
悠:Σ( ̄□ ̄;)
  そ、それではまた次回お会いしましょうーーーー!!!(逃)
ル:それでは失礼します(ペコリ)
  逃がしません!(怒)




おしまい


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