「ヤマダ!
 そいつを倒せ!」

敵が接近してくる事に気が付いたウリバタケもナデシコの前衛に出ているガイに対して叫ぶのだった。

「お前もアタックだぁ!」

ガイにも自分の方に向かってくる敵は確認できていた。
そして格納庫でアキトに言われたことを思い出しながら先程メグミ・レイナードと展望室で話し合ったことを振り返っていた…
その時になってやっとアキトに言われたことが分かったのだった
今の自分には守りたいものがある…その為にもここで負けることは許されないのだ。

「ナデシコは…メグミは俺が守ってみせる!
 行くぞぉ!ゲキガンフレアー!!!」

ガイの咆哮と共に彼のエステバリスは一筋の流星となり同じように向かってきたデビルエステバリスと激突した。
そして2機が激突した空間で大爆発が起こるのだった…

















機動戦艦ナデシコ -if-
-Revenger-


第7話 『ルリちゃん航海日誌』
















こんにちわ、ホシノ・ルリです。
先日のサツキミドリ2号での戦闘から数日が経ち、現在は火星へ向けて航行中ですが
一応最新の戦艦であるナデシコとしては緊急事態以外は全自動なわけで…ハッキリ言って暇です。
そこそこ必要なのは通信士のメグミさんとオペレーターの私くらい。

「ふぁ〜〜ホント、暇だね…」

艦長であるユリカさんもあまりの暇さに大欠伸なんかをしています。
人前では余り見せない方がいいですよ?艦長…
そうこうしているとブリッジ内に非常警報が鳴り響きます。

「敵…攻撃」

「え?どこどこ?迎撃!」

私の呟きにいち早く反応する艦長
さすがですね、でも…

「必要ありません、ディストーションフィールド順調に作動中。
 前回の戦闘以来木星蜥蜴が本格的な攻撃を仕掛けてこないのは恐らくこの船の能力を把握するまで
 少なくとも制空権を確立した火星までは挨拶程度だと思いますが…艦長はどう思います?」

「あなた、鋭いわね…子供なのに」

私がそれまで思っていたことを艦長に話してみました。
すると艦長はいつの間に来たのか、隣で感心したように私を見つめていました。

「私、少女です」

取り敢えず自己主張だけは忘れない私です。

「そっかぁ…私火星までは暇なんだぁ」

「艦長邪魔です、自分の席についてて下さい」

兎に角、暫くの間暇なことが分かったからか艦長は私の机の上に座ってしまいました。
暇そうに足をプラプラさせながら…退いてもらいましたけど、邪魔でしたから

「艦長、まだそんなところに…
 艦長が居ないと始まらないんですから早く来てください」

「あっ、そっかぁ」

プロスさんの通信を聞いて思い出したように艦長は駆けだしていきました。
その日から2週間、敵が姿を見せない合間を狙って艦内では先日の戦いの犠牲者のお葬式が行われました。




「それは分かったけど、なんであたしがこんな事するの?」

「いろんな式を取り仕切るのが艦長の役目なんだからさぁ」

現在行われているお葬式を取り仕切っているユリカ。
何で自分がこんな事をしないといけないのか疑問に思って副長のジュンに尋ねてみるが
『艦長の役目』の一言で言いくるめられてしまった。

「1枚だ〜2枚だ〜3枚だ〜はぁお終いだぁ…」

「お終いじゃないよ?」

お葬式も順調に進んでやっと終わりを迎えた。
ユリカはそう思ってホッとしていたが、そんな彼女に対してジュンは容赦ない一言を告げた。

「へ?」

「さぁ急いで急いで!」

そしてユリカの返事を待たずにジュンは彼女の手を引いて次のお葬式の準備の為に更衣室に向かって駆けだしていった。


「地球は狭いようで広い
 様々な宗教、様々な風習、様々な葬式があるからね…」

「だからって何で私がこんな事するの?」

更衣室で次のお葬式の準備をしながら渋るユリカに説明するジュン
そんな彼にユリカは葬式の間中思っていた疑問をぶつけてみた。

「なんでって…コロニーが全滅したんだから葬式をするのはナデシコの仕事だろ?
 それにお坊さんや神主さんを揃えてたらたまんないから艦長が代行すると」

「いうわけですなぁ、何しろ結婚式とお葬式だけはなかなか値切れないですから」

「はぁ…でも、最近アキトに会ってないし」

ユリカの質問に対してジュンは『なんでそんなことを?』というような表情をしながらも答えた。
彼にとって艦のトップに立つ者がこういう事を取り仕切るのは当たり前と思っているからかもしれない。
そしてジュンの言葉を引き継ぐようにプロスペクターも彼の性格が非常に現れている理由を述べた。
しかしユリカに関しては結局のところアキトに会えないのが不満なわけで…
以前アキトに拒絶されたにも関わらずユリカは持ち前の性格からか自分に対して都合のいいように解釈し、未だにアキトを追い掛けていたりする。
アキトの方もそんなユリカの性格を知っているからか、溜息混じりにも接しているようだった。

「さぁ、今日はあと5つはこなすからね!」

「えぇ〜!?」

ユリカの最後の呟きを耳にしてジュンは若干ムッとしながらも気合いを入れてユリカを引っ張って走り出した。
何故かその姿は巫女だったりするが…
そして2人を追いかけるように走るプロスペクターとゴートも何故か同じように巫女の格好をしている。
まさにナデシコならではの光景といえるかもしれない。






「ふやぁ〜…やっと終わったぁ」

「艦長…あたま」

現在艦長席では艦長がおっきな帽子みたいな物を被ったまま項垂れています。
私が声を掛けた拍子に落っこちちゃいましたけど…

「はぁ…これが艦長……」

「まだまだお葬式の希望はあるそうですよ?何しろプロスさん曰わく…
『我が社は社員契約に軍隊とは違った特典が付いていまして
 個人の宗教、思想の自由、特に戦争で頻繁におこりうる葬式は
 本人の希望を出来るだけ実現することにしております』と言ってたくらいですから…」

ガックリと項垂れたままの艦長に私はそう言ってお葬式希望者のリストを表示してみました。
すると私と艦長の周りにこれでもかってくらいのウインドウが表示されました。

「え?こんなに!?」

「それだけいっぱい亡くなったんですね、この前の戦い
 いっぱい亡くなったからいっぱいお葬式」

あまりのウインドウの多さにさすがに艦長も泣きそうな表情に変わってしまいました。
確かにこれを全部こなさないといけないのは大変かもしれません。
でもこれってホンの一部なんですけど…

「あたしが出来る事って…お葬式…お弔い…」

表示されたリストを艦長は呆然と眺めながら何か呟いています。

「あ、冠婚葬祭って事は…やっぱり結婚式もかな?」

「え゛!?」

「もちろんです。司会は艦長です」

それまで自分の席でファッション雑誌を読んでいたメグミさんがふと思ったんでしょうね、それを口にしました。
そのメグミさんの一言に艦長は唖然とした表情で固まっていす。
更に私の一言が艦長に追い打ちを掛けました。

「うわーーーーーーーーーーーーん!」

暫くの間、沈黙が生まれましたがそこに何か滴が落ちるような音が聞こえたと同時に艦長は泣きながら逃げ出してしまいました。

「ルリちゃんって結構意地悪だね?」

「そうですか?」

「そうだよ…」

「そうですか?」

「そうだよ…」

「そうですか…ちょっとやりすぎたでしょうか」

艦長が居なくなったブリッジでメグミさんが私に問い掛けてくるので暫く問答が続きましたが
確かにちょっとやりすぎたかもしれませんね…






翌日…

「ふやぁ〜…」

「艦長…あたま」

現在艦長席では艦長が昨日とは違うおっきな帽子みたいな物を被ったまま項垂れています。
私が声を掛けた拍子に落っこちちゃいましたけど…なんだかまったく昨日と同じ光景ですね

「疲れたよぉ…
 ルリちゃん…艦長ってなんだろうね」

「知りたいですか?」

艦長…どうやら悩んでるようですね
まぁ戦艦の艦長なのにやってる事といえばお葬式だけ、艦長じゃなくても悩みたくもなります。

「教えることは出来なくてもデータなら…
 オモイカネ、データ転送。ライブラリより検索、艦長の傾向と分析」

「ルリちゃん凄い…」

でも私だって艦長ってどういうものか分かりません、だって少女ですから…
だからオモイカネに頼んでデータを集めて艦長に見てもらうことにしました。
そんな私をみて艦長は何やら感心してます、何ででしょうね?
艦長の希望でここ100年ほどのデータを出してみましたが…

「これって…」

「これってつまり、誰でもいいって事よね」

「そうですね」

昨日と同様、唖然とした表情でウインドウを見ていた艦長に
それまでファッション雑誌を読んでいたメグミさんと私の一言が突き刺さります。

「うわーーーーーーーーーーーーん!」

暫くの間、沈黙が生まれましたがそこに何か滴が落ちるような音が聞こえたと同時に艦長は泣きながら逃げ出してしまいました…
っていうか、昨日とまったく一緒ですね。

「ねぇルリちゃん…」

「はい…意地悪ですね、私達」

「えぇ!?私も?」

「はい」

その後は昨日とはちょっと違いましたけど…だってどうみてもメグミさんも同罪でしょうから。




更に数日…

「ルリちゃん、ルリちゃん
 最近艦長見かけないけど、どうしたのかな?」

「苛めすぎたんじゃないですか?
 心配だから見てみましょう」

ここ最近姿を見せなくなった艦長が心配になったのかメグミさんが私に聞いてきました。
確かにここ数日艦長の姿は見てませんね…私も心配になったのでオモイカネに探してもらうことにしました。

「瞑想ルーム?座禅中!?」

そしてウインドウに表示された場所を見てメグミさんはビックリしています。
艦長、どうやら先日の事で未だに悩みが解消されてないみたいです。

「何考えてんだか…艦長、お隠りです」

「お隠り!?」

一応プロスさんにこの事を報告しておきましたが艦長を信頼しているのか暫くは静観するようです。
その間は副長のアオイさんが引き続きお葬式を取り仕切るとか…頑張ってください。
















ここナデシコの格納庫では地球圏を脱出して以来調整のみで未だ戦闘に使われることがないエステバリスの整備が今日も行われていた。
そしてブラックサレナの前では何やらパイロットが集まって話をしている。

「よーテンカワぁ
 お前のこれ、俺達には操縦できないのか?」

「アキト、それは俺も聞きたかったんだ!」

「…無理だ」

リョーコがアキトに質問したかったのはこの事だった、整備班やクルーに聞いてある程度アキトの腕前とブラックサレナの性能は分かっていた。
だからこそ自分でもそれが扱えることが出来るか試したかった、そしてそれにつられて残りの3人も一緒にやってきていた。
それにやはりブラックサレナの性能には興味があるのだ、リョーコの問いに対してガイが一番に反応したことがそれを語っている。
しかしそれに対するアキトの反応はつれないものだったが…

「ず、随分ハッキリというねぇ」

「なんだでだよ?お前の専用機だからか?」

あまりにハッキリ言うアキトに少し困惑気味のヒカル…
リョーコに至っては少し頭に血が上り掛かっているようにも見えた。

「…そうじゃない、お前達じゃこれの制御はできないだろうな」

「んだとぉ!」

2人の疑問に答えるようにアキトは乗れない理由を口にした。
それを聞いた途端リョーコは激昂した、『制御できない』=『技量が足りない』ということだ。
自分の腕には多少なりとも自信を持っているリョーコはアキトのこの一言にすぐさま反応してしまった。

「まぁ聞け、お前達は確かに一流だ…
 だがそれだけじゃダメなんだ」

「どういう意味だよ…」

激昂するリョーコを宥めるように彼ら4人の腕前は認めたアキトではあったがそれでもブラックサレナは制御できないと言い切った。
少しばかり落ち着いたリョーコは訝しげに呟くのだった。

《そうですね…ではマスターにシミュレーションで勝てたら私に乗る事を認めてあげましょう》

「…だそうだ」

「「「「その勝負のった!」」」」

未だ納得できないパイロット達に妥協案を出したのはアキトの陰で静観していたミコトだった。
ブラックサレナ搭載AIミコト…彼女(?)は既にナデシコ内では有名人である。
ウリバタケにバレて以来あっさりと噂が広まり開き直ったのか何処にでも顔を出すようになったのだ。
今ではナデシコのAIオモイカネとも仲がいいとか…
そしてその妥協案にリョーコ、ガイ、ヒカル、イズミの4人は飛びついた。
多少なりとも腕に自信がある彼女達はこの時、もしかしたらブラックサレナに乗れるかも?と思ったが
この後、彼女達はアキトの実力を思い知ることとなる。







「私…自信なくしそうだよ」

ヒカルはそう呟きながら目の前で繰り広げられる戦闘をモニター越しに眺めていた。
あの後、5人は早速シミュレーションルームに行って対戦を始めた。
最初は1対1での対戦だったが誰一人としてアキトに傷一つ与えることが出来なかった。
特にガイは接近戦を好むからか猪突猛進の傾向があるからか、それとも両方か…毎回秒殺され今はイズミの隣で真っ白に燃え尽きている。
ヒカルやイズミにしても持って1分少々という結果となっていた、唯一リョーコのみがなんとか3分ほど戦える程度だった…
しかもアキトが駆るはブラックサレナではなく陸戦フレームにラピッド・ライフルとイミディエット・ナイフのみの武装である。
対する4人はどのフレームでもどんな装備でも使用可となっていた。

そしていつの間にかアキトは全員を一度に相手にして対戦をしていた。
しかしそれでも4人はアキトに勝てるどころか、傷一つ与えられないでいるのだった。
途中からヒカルとイズミは諦め観戦の方に回っている…今もアキトと戦闘中なのはリョーコだけとなっていた。

「くっそー!何で勝てねぇんだよ!」

「リョーコ…お疲れ」

「これでダメだと言った理由がわかったか?」

シミュレーターの扉が開きリョーコが文句を言いながら出てきた、その顔には悔しさが滲み出ていたが…
そんなリョーコにイズミが労いの言葉を掛ける。
そして隣に設置されているシミュレーターから出てきたアキトはまったく疲れた様子も見せずに全員に声を掛けた。

「ねぇアキトくん…あなた一体何処であんな操縦技術を身につけたの?
 それにどうみても近接戦闘を得意にしてるように見えるんだけど…」

「あぁ…それは俺も気になったぜ
 あれだけ出来るんならあの黒いヤツでもやればいいじゃねぇか」

シミュレーターから降りてきても全然平気そうなアキトを眺めながらイズミは疑問に思った事を口にした。
軍で正規に訓練を受けていない(と聞いている)のに、エースパイロット級4人を相手に
互角以上に…いやまったく寄せ付けないほどの強さを持つアキトの経歴に興味を覚えたのかもしれない。
そして少し復活したガイも先程の戦闘を思い出してアキトに問うてみた。
先程のシミュレーションでは主にライフルで威嚇や牽制を行い、近接での撃墜数の方が多かったのだ。
まぁその被害にあったのは主にガイとリョーコではあったが…
その問いにはリョーコやヒカルも興味を覚えたらしく興味津々にアキトを見てる。

「昔、知り合いから色々とな…
 それとブラックサレナは近接戦闘には向いていない、機体が大きすぎるからな
 まったく出来ないこともないんだが…」

アキトはイズミの問いに少し遠くを見るような仕草をしながら答えた。
その後、ガイの問いに対しても苦笑しながら答えた、確かにあの機体では近接戦闘をするには大きすぎるし小回りが利かなさすぎるのだ…
最後の方でアキトが口を濁したのが気になったのか、リョーコが更に問い詰めようとした時シミュレーションルームの扉が不意に開かれた。

「アキトさん、食事に行きませんか?」

「ガイさ〜ん♪」

シミュレーションルームに入ってきたのはルリとメグミ、2人ともアキトとガイを昼食に誘いに来たのだ。
サツキミドリ2号での一件以来、ガイとメグミの仲は急速に進んでいる感じだった。
「もうそんな時間か…」

「あ…じゃあ私達も行くよ〜」

「それじゃあみんなで行くか」

2人が誘いに来たことにより意外なほどに時間が経っていたことに気付き誘われるがまま全員一緒に食事に行くことになった。
そして食堂に辿りつきそれぞれ料理を注文し終わりテーブルについて雑談をしているとルリが何気なく呟いた。

「私、久しぶりにアキトさんの料理が食べたいです」

「「「「「へ?」」」」」

そのルリの呟きに固まってしまう同席していたメンバー達…

「ア、アキトくん…料理できるんだ」

「あぁ」

最初に復活したヒカルが若干顔を引きつらせながらも事の真相を本人に尋ねた。
ある意味聞き間違いだと思いたかったのかもしれない、しかし返ってきた言葉はそれを裏切る肯定の言葉だった。

「そ、想像できん…」

「へ〜そりゃ私も興味あるねぇ」

驚愕の表情を浮かべたままアキトを見つめつつ、料理をしているアキトを想像できないのかガイは呟いていた。
そこへ料理を運んで来た料理長のホウメイが彼らの会話を耳にしたのか興味津々といった風にアキトを見つめていた。

「ホウメイさん」

「どうだい、厨房貸してやるからルリ坊の為に何か作ってみるかい?」

横から掛けられた声に反応したのはヒカルだった、ちなみにリョーコとメグミは何故か未だに固まったままだ。
そしてホウメイはアキトの料理が気になったのか意外な申し出をした。

「………そうだな…ルリ、何か食べたいものはあるか?」

「チキンライスをお願いします」

「あ、私も私も〜」

ホウメイの言葉に少し考えていたアキトだったが横に座っているルリの視線が気になったのか遂に重い腰を上げる事となった。
そしてリクエストされたルリの反応は素早かった、既に考えていたのかそれとも好物なのか…
どちらにせよメニューは決まった、それに同乗してヒカルもアキトに注文した。
そしてそれらの反応を見て苦笑いしながら厨房の方へと向かっていった。



アキトが厨房にホウメイと姿を消して暫くするとホウメイと共にアキトができあがった料理を持ってきた。
そしてその姿を見てルリを除くその場に居た全員が思考を停止させる結果となった。
ちなみにアキトの姿も既にナデシコ内では有名だったりする、黒いバイザーを付け漆黒のマントを羽織った冷静な男として。
しかし今現在のその姿は余りにも普段見慣れた姿とかけ離れている、ホウメイから借りたのかしっかりとエプロンをしたまま出てきたのだ。
その場の状況を見て先に厨房で見ていたホウメイと見慣れたルリだけが苦笑いをしていた。

そして全員が再起動を果たしたあとアキトの料理の試食会が始まった、何故か料理は全員分あったりした。
見た目はナデシコ食堂で出てくるものと見劣りしないほどの出来である。
そしてそれを口に運んだ後、全員から言葉が失われた…リョーコとメグミに関してはまたもや完全に固まった状態になっていた。

「あんた…ホントにパイロットかい?
 こりゃあコックとしてやってけるよ?」

「ルリルリはよくアキトくんが料理するのを知ってたねぇ」

最初に感想を口にしたのはホウメイだった、まさかここまでとは思っていなかったのだろう、さすがに驚いていた。
そして一人黙々と美味しそうに食べているルリをみて料理の美味しさに驚きながらもヒカルは疑問に思った事を口にした。

「ナデシコに乗る前は一緒に生活してましたから」

「「「「「!!!」」」」」

ヒカルの問いに対してのさり気ないルリの一言はその場にいた全員を固まらせる事となった。

「アキトくん…ロリコン?」

そして一番早く再起動したヒカルの冗談とも言えるような一言を聞いてアキトは彼女を睨み付けた。

「じょ、冗談だってばぁ〜あはは」

アキトの殺気に近いものをモロに喰らったヒカルは顔を引きつらせ乾いた笑いを浮かべるしかなかった。
彼には下手な冗談は通じないとこの時ヒカルは痛感する事となった。
後日、アキトの料理の腕前はナデシコ中に広まりそれを聞いたユリカが彼にねだりに行ったのはまだ別の話…

















もう少しで火星に到着するという時になってナデシコ内でひと騒動が起こりました。

「責任者出てこーい!」

「ルリルリ、メグちゃんゴメンね?」

ウリバタケさん筆頭に何人かのクルーがブリッジにやってきて何か叫んでいます。
そして笑顔で言いながらも私達に銃を向けるヒカルさん達、勘弁して…
隣ではメグミさんが引きつった笑顔を浮かべています。

「ど、どうしたんですか?皆さん」

「色々な葬式をやってくれるのは分かった
 でも俺達はそんなこと知らなかった」

そして未だ座禅中だった艦長も艦内の異常を伝えられてブリッジにやってきました。
その後ろには副長やミナトさん、アキトさんがいます。
入ってきた艦長に向かってウリバタケさんが文句を言い始めました。

「だから契約書に書いて…」

「今時契約書をよく読んでサインする奴いるか!?どうだ!」

艦長達は私とメグミさんの側まできて反論しようとしましたが途中でウリバタケさんの声に遮られました。
そして私達の目の前に突き出されたのは細かな字で書かれた契約書でした。

「うわ、細かい…」

「そこの一番小さい文字を読んでみな」

艦長はそれを見てあまりの字の細かさに唖然としてます。
って、艦長もその契約書読んだんじゃないんですか?
そしてリョーコさんは艦長に対して一番下の契約を読むように促しています。

「え〜…社員間の男女交際は禁止いたしませんが風紀維持の為
 お互いの接触は手を繋ぐ以上のことは禁止…何これ?」

「読んでの通り…」

項目を読み終わった艦長は予想していなかった内容に唖然としています。
対するリョーコさんは憮然とした表情のままです。

「な、分かったろ。お手て繋いでって、ここはナデシコ保育園か?
 いい若いもんがお手て繋いでですむ、わ、きゃ、なかろ、うが…俺、は、まだ、若い」

ウリバタケさんは反乱の理由を説明しつつ、途中両脇にいたリョーコさんとヒカルさんの手を握って
2人から肘鉄を喰らって床に膝をついてしまいました。

「若いのか?」

「若いの!若い2人が見つめ合い…見つめ合ったら「唇が」
 若い2人の純情は純なるがゆえに不純「せめて抱きたい抱かれたい」

ウリバタケさんの最後の言葉を聞いてアキトさんが冷静にツッコミます。
それに対してのウリバタケさんの反応は早かったです…
そしてまるで歌うかのように語り始めるとヒカルさんが相槌をいれます、2人ともいいコンビですね。

「そのエスカレートが困るんですなぁ」

「貴様ーーー!」

そう言って現れたのはプロスさんとゴートさん。
何故かスポットライト浴びてます、オモイカネあなたの仕業ですね…
契約に関する責任者であるプロスさんが出てきたのでウリバタケさんが叫んでいます。

「やがて2人が結婚すればお金掛かりますよね?
 更に子供でも産まれたら大変です、ナデシコは保育園ではありませんので…はい」

「黙れ黙れー!
 いいか、宇宙は広い!恋愛も自由だ!
 それがお手て繋いでだと?それじゃ女房の尻の下の方がマシだー!」

プロスさんはもっともな理由を挙げて反乱を起こした人達を納得させようとします。
しかしウリバタケさん達は納得しようとしません。

「とは言えサインした以上…」

「うるせー!
 これが見えねぇか!

「この契約書も見てください?」

そういってウリバタケさん達はプロスさんに銃を向けます。
対するプロスさんは契約書を突き付けます…
何とも奇妙な光景が目の前で繰り広げられてます、銃vs契約書…どっちが強いんでしょうか?

「「「「「むむむむむむ…」」」」」

「私、その契約書読みました」

「なっ!?」

「俺も読んだが?」

「ちにみにテンカワさんに至ってはその項目を削除されてしまいました」

「う、裏切り者ー!」

膠着状態になったところでの私は一言に皆さんは驚かれていましたが
その後にアキトさんとプロスさんが言った事は私の一言以上に驚く結果になりました。
ウリバタケさんに至ってはアキトさんに向かって絶叫していますし。
それにしてもアキトさん…契約事項はしっかりと読んでいたんですね、さすがです。
プロスさんは何やら悔しそうに言っていましたけど…気のせいでしょうかね?




「そろそろ火星か…」

ブリッジでそんな事が起きているとはつゆ知らず、自室で一人お茶をすすっていたフクベ提督はそんなことを呟いていた。




「「「「「「うわぁぁぁ!」」」」」」 

「な、なんだぁ!?」

ブリッジでの騒動の真っ最中、突然もの凄い揺れがナデシコを襲いました。

「大丈夫か、ルリ」

「はい。ありがとうございます、アキトさん」

あまりの衝撃に立っていた人達の大半はバランスを崩して倒れています。
そんな中、私は隣にいたアキトさんに支えられて何とか立っていられました。
それにしてもあの衝撃の中バランスを崩れないなんて…アキトさん凄いです。

「ルリちゃん、フィールドは?
 って、ルリちゃんばっかりずる〜い!」

「効いています。
 この攻撃…今までと違う、迎撃が必要です」

副長に支えられて何とか立ち上がろうとしている艦長は私に尋ねながら
私の方を向いた瞬間、頬を膨らまして何やら怒っています…
まぁ非常事態なのでそれは無視して迎撃が必要であることを艦長に伝えました。

「皆さん、聞いてください。
 契約書に付いてのご不満は分かります、けれど今はその時じゃありません。
 戦いに勝たなきゃ、戦いに勝たなきゃまたお葬式ばっかり…あたし嫌です、嫌です!
 どうせなら葬式より結婚式やりたーい!」

私からの報告を聞いて艦長は表情を先程の怒ったような表情から真剣な表情へと切り替えました。
この辺りはさすがです、ですが言ってる内容は…まだ引きずってるんですね。
ですが艦長の言葉で反乱を起こしていた人達は納得して戦闘態勢へと移行されていきます。
こうしてナデシコの火星領域での戦いは始まりました。
それにしても大人達の契約ってなんか嫌です。
大人にはなりたくない…今日はそんなこと感じました。







ナデシコからエステバリス隊が順次発進していく。
そして最後に漆黒の機体がナデシコから滑り出していった、それはブラックサレナよりも大きくまるで戦闘機の様な感じの機体だ。
その機体こそアキトがウリバタケに依頼していた高機動ユニットを装備したブラックサレナだった。

「火星…すべてが始まりし地か……
 遂に俺は戻ってきた……いくぞ!」

そう呟いたアキトは火星をバックに艦隊を編成する木星蜥蜴に向かって愛機を突進させていった。




あとがき



こんにちわ、双海 悠です。
こんにちわ、アシスタントのホシノ・ルリです(ペコリ)
悠:随分久しぶりのナデシコになっちゃいました
ル:ホントですね…極悪人ですね(ジト目)
悠:さ、さて今回はルリの視点で幾つか書いてみました
ル:私が主役って事ですね、今回は
悠:そうだね、タイトル通りってところかな?
  それにしても…なんだかユリカの扱いが酷いような気がする(汗)
ル:なんだか私が苛めてる感じがしますけど…これは気のせいですか?
悠:たぶん…気のせいではないかと
ル:なんで私なんですか?メグミさんじゃないんですね
悠:だってメグミはガイが居るからユリカと絡む理由がないもの
ル:うっ…すると私とユリカさんが絡んで色々あるんですか?(汗)
悠:そうなるねー、今後に期待です(笑)
ル:しくしく…ゴメンナサイ、ユリカさん
  私も負けられないんです(にやり)
悠:さて、次回は遂に彼女の登場です
ル:遂にあの人が登場ですか…
悠:頑張って活躍してもらいましょう〜
  それではまた次回にて
ル:失礼します(ペコリ)




おしまい


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