醤油屋絵日記(2002/平成14年版 不定期更新)

→平成18年版へ →平成17年版へ →平成16年版へ →平成15年版へ

もうとにかくホームページに載せることがないので、徒然なるままに、日記でも書こうかということで、始まり始まり。

平成14年4月1日(晴れ)
今年も仕込みの時期がやってきたのだ。今日は水島港の製油会社に脱脂大豆を買い付けに行った。昨年まで買っていた非遺伝子組み換え大豆を扱っていた会社が、今年から扱っておりませんと言うので、非常に困っていたのだが、結果的に、より近くで仕入れることができた。(写真A) ラッキー。しかし、トラックで3往復し、人力での積み降ろしはちょっときついぜ。一袋は20kg。
袋にはIP醸造用脱脂大豆とある。(写真B) あいぴー? 調べてみると、分別生産流通管理システム(Identity Preserved Handling System)のことで、できるだけ遺伝子組み換え大豆と混ざんないように別々にはこんだんだよ、という意味らしい。(参考)  ありがたいことに証明書が2枚付いてくる。 信じるしかない。

平成14年4月12日(晴れ)
今日は小麦だ。総社にあるJA吉備路の倉庫まで行った。県内産しらさぎ小麦、一袋は30kg。(写真C) 仕事の都合で、一往復のみ。しかし60袋分、約1.8トンをひとりで運ぶ。 よいしょ。 うんとこどっこいしょ。 晩ごはんがおいしいぞ。

平成14年4月17日(雨のち曇り、昨夜は豪雨&カミナリ)
仕込みが始まった。朝5時半に起床、前日に釜に入れた脱脂大豆に水を加えてぐるぐる回す。ボイラーを起動する。小麦を割砕する。釜に蒸気を入れて更にぐるぐる回す。圧力なべを使ったことのある人ならわかるこのパワー。熱と同時に圧力をかけると、蒸し上がりまでの時間がぐっと短くなる。
豆がいい感じになった頃に蒸気を抜く。圧力なべを使ったことのある人ならわかるこの恐怖。ゴオオーという音とともに周りが白い蒸気で包まれる。蒸気がほぼ抜けたら、今度は逆に、減圧する。豆に含まれる水分が気化するときに熱を豆から奪っていくことを利用して、蒸し上がった豆を冷やすのだ。
おーまいごっど。トラブル発生。うまいこと減圧できん。うがー、ぼろ配管め。なんとか処置。しかし、減圧度上がらず。とりあえず減圧時間を延長する。 豆を釜から出す。割砕小麦を敷きつめた上に蒸し上がった豆を広げて自然冷却する。
うーん。今日の豆は、トラブルのため、やや水分が多く、温度も高いので、何度か切ってより速く冷えるようにする。50度以上の熱い豆に種麹を加えると、コウジカビが死滅してしまうのだ。
温度が人肌くらいまで冷えたところで、種麹を加えて、全力でまぜる。コンベアで製麹装置に入れる。終わるといつも、汗だくで、エンドルフィン出まくりのナチュラルハイ状態。
おーまいごっど。またもや重大トラブル。製麹装置の循環ポンプのモーターがうんともすんともいわない。ひゃー、お手あげだー。電話、電話。電気技師到着。「うーん、電気系統じゃありませんねー。」 ひー、電話、電話。エンジニア到着。むりやりモーターの心棒を回す。く、く、くるーり。さんくす、ごっど。 兄ちゃん、ええ腕しとるなー。 どうやら、シーズンオフの間に心棒が少しさび付いてしまったらしい。 ま、回りだしたらこっちのもの。 あ、昼飯食いそこねた。

配達3軒を急速にさばいて帰宅。 麹の温度はと...。 いいかんじですなー。やっと、普通の状態に復帰できた。 後は、モニタリング用のビデオカメラをセットして、明日のためにその一、小麦をはこび、その二、空き瓶を運び、その三、醤油を絞る。
本日は仕込みの初日にふさわしい、トラブルもりだくさんの一日でした。 ごはんを食べて、早めに寝よう。明日は4時起きだ。

平成14年5月2日(晴れ)
やっぱ、仕込みはきっついなー。日記なぞ更新する時間があったら、寝ていたい。しかし、明日からは連休。仕込みも一休み。連休中は、新たに仕込んだ諸味を毎日混ぜ、連休明けから再開する仕込みの準備として、小麦を2回分は煎っておかねばならない。後は、蔵の壊れた箇所の修理のみ。
春の仕込みは、連休で一段落できるから、精神的、体力的にとても助かるのだ。みどりの日(4/29)ばんざい。憲法記念日(5/3)ばんざい。こどもの日(5/5)ばんざい。

平成14年5月20日(晴れ)
うわっ、寝過ごしたー。がばっと起きて、時計をガッとつかむと、朝5時半。ぴったりじゃん。
体内時計が仕込みモードにきっちり切り替わってました。よかった。よかった。今日も一日がんばるぞー。

平成14年5月23日(晴れ)
いやー今年は、夏の到来が例年より早いかも。
昨年末に仕込んだもろみがわき始めました。(写真D) 天然酵母やイースト菌で発酵させたパンが膨らむように、微生物の呼吸によって発生した二酸化炭素がもろみを押し上げて、樽からあふれんばかりに盛り上がってきます。櫂(かい)を入れると、しゅー、ぶすぶすと溜まっていたガスが抜ける音がします。(写真E) 櫂入れしたあとは、しおしおとしぼんで静かになりますが(写真F)、発酵の最盛期ともなると、次の日にはもりもりと復活してきます。
今の時期、仕込みの大変さもさることながら、この櫂入れもしんどい仕事です。

平成14年6月1日(晴れ)
今日は土曜日で、来週は蔵の仕事の都合で一週間ほど仕込みが休みになるので、かねてから計画していた作戦を実行する。
名付けて”麹の変化を一時間おきにデジカメで撮ってみよう”作戦
まんまで、ベタベタなネーミングである。
まずは、撮影台と製麹装置に入れる木製の小型"もろぶた"を用意する。"もろぶた"とは10年ほど前までは、この木製枠に入れて、室(むろ)と呼ばれる温度、湿度を一定に保てる部屋で麹を作っていた。 大きさは縦約50cm×横約30cm×深さ約6cm。木の調湿作用(湿度が高い場合は水分を吸収し、逆の場合は放出する)が、麹作りには最適といわれている。今は使っていないこのもろぶたをふたまわりほど小さく改造した。(写真G) 撮影台は工作台と万力とアングルで組み、これにデジカメをマジックテープとワイヤーで固定した。デジカメはCAMEDIA C-800L。レンズからの距離はマクロモード撮影のできる20cm。(写真H)
いつものように、盛り込み行程が終わったのが午前10:30。もろぶたに麹を入れ、製麹装置へ。これから1時間おきに撮影する。11:30、12:30、13:30、14:30、15:30、16:30、17:30、撮影順調、仕事は終了、18:30、晩ご飯、19:30、20:30、21:30、22:30、眠い、23:35、1時間睡眠、明日に続く。

平成14年6月2日(晴れ)
0:30、目覚まし時計セット、寝る、1:30、眠い、目覚ましセット、寝る、2:30、ふあーーーー。3:30、1時間以上連続して眠れないと言うのは結構つらい。4:30、5:30。体内時計が起きてきた。峠は越えた。麹にふわふわとしたコウジカビの菌糸が観察される。6:00、麹の温度、しまり具合とも良好で、タイマー時刻通りに1番手入れ。もろぶたの麹も手で手入れ。6:30、7:30、朝食。8:30、掃除洗濯。9:30、パソコン、10:30、外出、11:30なんとか間に合う。12:30、太陽がやたらまぶしい。13:30、タイマーセット、寝る。14:30、ターマーセット、寝る、15:30、タイマーセット、寝る。季節はもう夏。16:00、麹の温度、状態とも良好。時間通りに2番手入れ。もろぶたの麹も手で手入れ。16:30、17:30、18:30パソコンしながら、温度管理。19:30、20:30、遅い晩ご飯。21:30、発掘あるある大辞典が力説するには、キィウイはとっても体にいいらしいぞ。明日はどこのスーパーでも品切れだろう。やたらまぶたが重い。意識が遠のいてゆく...。22:30、タイマーセット、寝る。23:30、タイマーセット、寝る。明日に続く。

平成14年6月3日(晴れ)
0:30、目覚ましセット、寝る。1:30、月曜日だー。寝よ。2:30。だるい。3:30、とてもだるい。4:30、少し雨が降ったらしい。空気がしっとりとして気持ちがいいが、とにかく眠い。5:30、あ、あ、あと少し。6:30、ブラックコーヒーのカフェインパワーを借りて、しゃきっとする。7:30最後の撮影終了。 →麹の変化へ
もろぶたに入れた麹の拡大写真を撮る。今日の出麹の準備をする。
午前中、出麹と製麹装置の洗浄、その他、配達3件を済ませる。再び、カフェインドーピング。
ラッキーなことに午後はハ−ドワークもなく、最高気温30℃をなんとかやり過ごし、業務終了。風呂。めし。寝た。

平成14年6月10日(晴れ)
ワールドカップ初勝利。にっぽん万歳。一週間の中休みの後、仕込み再開。とても暑い昼下がり、下校途中の小学生数名がふらりと立ち寄り、煎った小麦の中で戯れて帰っていった。私も小さい頃は小麦の中でよく泳いだものだった。とてもおもしろいゾ。

平成14年6月11日(雨のち晴れ、夕方激しく雨)
朝2時半、外気温、湿度とも高いため、コウジカビの生育が早く、麹の発熱が一週間前より1時間以上早い。一時間おきに麹の状態を観察し、予定より早めに1番手入れを行う。 もう夏? いや、梅雨?
昼飯は野菜ジュース。1時まで仮眠。塩を圧縮空気で溶かしている写真を撮影。夜、眠い目をこすりつつ、”麹の変化を・・・”作戦の成果の画像処理。日記更新。11時、暑さのせいで麹の温度がなかなか下がらない。明日も5時半起きなので、もう寝る。

平成14年6月14日(晴れ)
ワールドカップ予選通過! 今シーズンの仕込みも今日で終了! これが飲まずにおられようか。ビール、チューハイ、ビール、ワイン・・・・。

平成14年6月15日(晴れ)
やっと麹の変化画像ができた。アップロードして、しばらく日記はお休みの予定。

平成14年7月7日(快晴)
雨かと思ってたら、梅雨の中休みで、快晴となりました。
先週あたりから、高温多湿の日々が続き、岡山県では食中毒警報が発令されました。つまるところ、微生物にとってうはうはの季節が到来したわけです。食中毒を起こす悪玉菌と同様に、うちの蔵ではもろみの中で様々な酵母や微生物がやはりうはうはやっております。(写真I) その結果として、複雑な香りとうまみが醸(かも)し出されるのですから、微生物様々です。
 やたら変な微生物がはびこらないのは、高い塩分濃度のためで、日本人の知恵が生み出したすばらしい製法です。しかし、高い塩分濃度に耐えるあまり役に立たないやつらもいます。
味噌や醤油の表面に白いカビが生えたことはありませんか? 実はこれは表面酵母の一種で、この季節もろみの表面にもよく見られます。(写真J) 毒にも薬にもならないのですが、もろみのうまみや香りの成分を食うので、酸素がないもろみの中に櫂で沈めてやります。

平成14年8月4日(快晴)
梅雨が明けて久しいが、最高気温35℃を越すこの暑さの中、元気がいいのは子供だけ。
いつからだろう、こんな青空が続くのは?(写真K)
今週から、お盆前の集金に伺いますのでよろしくお願いします。

平成14年11月11日(快晴)
ホームページのアップデート。さぼって、3ヶ月ぶり。仕込みの時期以外の醤油屋の仕事は変化に乏しいのです。
季節は秋。本日の最低気温5℃、最高気温14℃。
明日から秋の仕込みが始まる。

平成14年12月12日(晴れ)
秋の仕込みが終わった。シロアリに食い尽くされてしまった蔵の柱の補強工事が続く。

平成14年12月17日(曇り)
蔵に7メートルを超える木材を運び込んで、梁をジャッキアップして新たな柱を立てた。
午後からは、玉島南小学校の3年生が見学に来た。原料を見せたり、醤油の作り方を説明しながら蔵の内部を案内した。帰ったら、お母さんにマルショー醤油はとてもおいしいと必ず伝達するよう指導しておいた。
後日、お礼の手紙をいただく。

平成14年12月31日(曇り時々晴れ)
大晦日まで営業してます。暮れの集金もほぼ完了。年賀状用のデータをホームページに張り付けて、あとは新年を待つのみ。
新年は6日より営業しています。それでは皆様、良いお年を。

→平成15年版日記へ